仕様 | |
(出力負荷: 33 Ω、供給電圧: ±9 V) | |
入力インピーダンス (P1なし) |
10kΩ |
帯域幅 | 3.4Hz – 2.4MHz |
THD + ノイズ (1kHz, 1mW/33Ω) |
0.005 % (B = 22kHz) |
THD + ノイズ (20Hz - 20kHz, 1mW/33Ω) |
0.01 % (B = 80kHz) |
S/N比 (基準 1mW/33 Ω) |
89dB (B = 22kHz) 92dBA |
最大 電圧 (33Ω へ供給) |
3.3 V (THD+N = 0.1%) |
最大 入力電圧 |
0.57V (P1 が最大ボリューム時) |
電流消費量 | 19mA |
これまでにも、評判の高いものとそうでないもの、 シンプルなものと精巧なものなど、さまざまなヘ ッドホンアンプの設計がありましたが、 ここでは、実 績豊富な部品でそこそこの音質を実現する、シンプ ルなヘッドホンアンプの設計について紹介します。
昨今、量販店でヘッドホンアンプ単体を見 つけることは簡単ではありません。 確か に存在し、特にハイファイ仕様のものは出 回っていますが、それなりの価格で販売さ れています。 ここで紹介している設計は、 これらのハイエンド回路よりも多少性能は 劣りますが、簡単に入手可能なコンポーネ ントを使用して組み立てることができ、比 較的良好な音質を得ることができます。
回路
回路は、独立したコンポーネントで組み立 てられたパワーアンプの一種として表すこ とができます(図1を参照)。 入力にはボリ ュームコントロール(P1、ヘッダを介して接 続)とカップリングコンデンサ(C1)があり、 その先に差動アンプ(T1、T2)、エミッタ分 岐に定電流ソース(T3)があります。 T1と T2 (P2)間のプリセットは、対称性を設定、 つまりアースに対して出力電圧を0ボルト DCに設定するのに使用します。 最高の音 質を得るために、両方のトランジスタに 同じコレクタ電流が流れるようにしま す。 これは、回路図のテストポイントF 及びGの電圧で確認でき、これらはほ ぼ同じです。 R1の両端の入力オフセ ットは、T1に流れるベース電流によっ て生じます。 これによりポイントAの電 圧(V(A))がわずかにマイナスになりま す。 プロトタイプを簡易測定したとこ ろ、T1へのベース電流は約3 μAを示 しました。 トリムポットP2が提供してい るオフセット補正なしの場合、出力オフ セット電圧Vosは0.2 Vを超えます。
VO = (1 + R6/R5) × V(A)
VO = (1 + 10/1.5) × 0.028 = 0.215 V
図1. 容易に入手可能なコンポーネントを使用した、シンプルなヘッ
ドホンアンプ用回路
(1つのチャンネルを図示)。
わずかに非対称に動作するように 差動アンプを設定することで、オフ セットを取り除くことができます。 音 質を考えた場合、これは最適な方 法ではありませんが、回路を大幅に シンプルにすることができます。
定電流設定
エミッタ分岐(T3)の電流ソースは、ダ イオードD1、D2及び抵抗R4によって 約3 mAに設定されており、この結果 T4は可能な限り線形に動作します。 その後、オーディオ信号はドライバステ ージT4に流れ、これにより強力な出力 トランジスタ(T6とT7)が動作します。 より大きな内部ゲインを提供するよう にC4を追加しています。 出力ステー ジの零入力電流は、T5とR9によって 約5 mAに設定しています。 出力トラ ンジスタのゲイン(hFE)が50であると 仮定すると、5 mAの場合、理論的には 線形な0.005 A x 50 x 32 Ω = 8 Vpeakが32 Ωに流れます。 ただし、 定電流ソースT5と、T7のベース-エ ミッタジャンクション間の電圧降下(約 1.5 V)によりいくつの制限が生じます。 R11及びR12 (R10及びR12)の周 りにある電圧デバイダも計算に入れる 必要があります。 負荷(RL)の両端の最 大電圧Vmaxは、次のようになります。
Vmax = RL / (RL + R11 + R12) × (9 – 1.5) Vmax = 4.6 Vpeak
これは測定した約3.26 Vrmsに対 応し、仕様と一致します。 これは回 路が(3.262/32) = 330 mWを 32 Ωに流すことができることを意味 し、ほとんどのポップミュージックや ロックを楽しむのに十分な値です。 出力ステージの前にある抵抗R12 は、出力電流を制限し、ヘッドホンの 長いシールドケーブルなどの容量性 負荷が接続されたときに回路を安定 的に保ちます。 これにより、短絡した 場合に出力トランジスタが過熱するの を防止できます。 R10とR11は対称 性を保ちます。 フィードバック回路の C2の値にかかわらず、帯域幅はオー ディオ帯域幅よりも大幅に大きくなり ます(仕様を参照のこと)。 入力で低コ ーナー周波数を得られるように、C1 に4.7 μFを使用しました。 2.2 μFの コンデンサ(容易に入手可能)でも、7 Hz (-0.6 dB @ 20 Hz)の許容コー ナー周波数を得ることができます。 プロトタイプの測定値を回路図に示し ます。 これらの値は、正確な要件値と してではなく、ガイドライン値とみなし てください。 PNジャンクションとトラ ンジスタのゲインは、メーカーによっ て異なります(このことは、仕様に示し ている電流消費量にも該当します)。
実験
多少のノイズ(ほとんどのヘッドホンで は聞こえないほどのノイズ)が気にな らない場合は、フィードバックループ のインピーダンスを約10 kΩに上げ ることができます。 このようにするに は、並列回路のR5とR6を10 kΩに 上げます。 この場合、T1及びT2の ベース電流は互いに補正し合います。 R5を12 kΩの抵抗で置き換え、R6 を68 kΩの抵抗で置き換えて、さら に実験することもできます(完璧にす るには、E96シリーズの11.5 kΩと 76.8 kΩを使用してください)。 これ により音質が向上することはありませ んが、オフセットが小さくなります。
コンポーネントリスト | |
抵抗器 | RS品番 |
R1,R6 = 10kΩ | 707-8300 |
R2,R3 = 1kΩ | 707-8221 |
R4 = 270Ω | 707-8189 |
R5 = 1.5kΩ | 707-8246 |
R7 = 4.7kΩ | 707-8280 |
R8,R9 = 150Ω | 707-8167 |
R10,R11,R12 = 10Ω | 707-8063 |
P1 = 10kΩ | - |
P2 = 100Ω トリムポット | 652-4502 |
コンデンサ | RS品番 |
C1 = 4.7 μF、リードピッチ5 mmまたは7.5 mm | 483-3955 |
C2 = 6.8 pF、リードピッチ5 mm | 495-622 |
C3 = 10pF、リードピッチ5 mm | 538-1360 |
C4、C5、C6 = 100 μF 16 Vラジアル | 707-5809 |
半導体 | RS品番 |
D1,D2,D3,D4 = 1N4148 | 544-3480 |
T1,T2,T3,T5 = BC550C | 545-2254 |
T4 = BC560C | 545-2484 |
T6 = BD139 | 314-1823 |
T7 = BD140 | 314-1817 |
その他 | RS品番 |
P1の接続 = 3ピンピンヘッダ、リードピッチ0.1インチ | 251-8092 |
P1の接続 = 3極ソケットストリップ、リードピッチ0.1インチ | 251-8503 |
7個入り、Φ1.3 mm はんだピン | 631-9574 |
構造
この回路用の小型の基板を設計しま した(図2を参照)。これは[1]から注 文できます。 また、ここから基板のレ イアウトをPDF形式でダウンロード できます。 コンポーネントのレイアウ トを図3に示します。 一般的なことで すが、最も高さの低いコンポーネント( 抵抗、ダイオード)をはんだ付けしてか ら、高いコンポーネント(コンデンサ、
図2. 多数のSMDが実装されているにもか
かわらずコンパクトな完成した回路
図3. 実質本位のヘッドホンアンプのコンポーネントレイアウト。
トランジスタ、接続ピン)をはんだ付 けするほうが楽に作業を行えます。 ステレオにするには、2つのボード が必要です。この場合、両方のチャ ンネルのボリュームを同時に調節 できるように、P1をステレオポテン ショメータで置き換える必要があり ます。 オーディオソースにボリュー ムコントロールがある場合は、P1 を省くことができます(ヘッダにジャ ンパを取り付けるか、基板上にワイ ヤリンクをはんだ付けすることでヘ ッダのピン1とピン2部(実際のヘッ ダではありません)を接続します)。 この回路(P1を含む回路)の入力イ ンピーダンスの最小値は5 kΩ(P1 が最大ボリューム時)です。 最近の ほとんどのオーディオソースでこれ は問題になりません。 デカップリン グコンデンサC1のピン間隔を書き とめてください。基板は5 mm及び 7.5 mmタイプに対応しています。 電源には、2個の9 V電池を使用し ます。 または、2 x 6 V、5 VAトラ ンスと供給線路あたり1.5 Aブリ ッジ整流器と8200 μF/16 Vを 使用することもできます。 この場 合は、1対の電圧レギュレータで補 足することもできます。 出力トラン ジスタ(T6とT7)にヒートシンクは 必要ないと思われますが、小型の ヒートシンクを取り付けることで短 絡耐性を高めることができます。 この回路をElektor ProjectCase [2]に組み込むことにしました。 非常 に簡単に組み込むことができ、電子 回路が見える独特のデザインに仕上 げることができます(図4を参照)。 (100701)
図4. ProjectCaseに組み込むことで、独特のデ
ザインに仕上げることができます。
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