デジタルマルチメータ ガイド

取材協力:株式会社フルーク

精度を見極める

—— 最近のデジタルマルチメータの高精度化には感心しますが、1%+3とか精度のスペックの意味がよく分かりません。

デジタルマルチメータは、従来のアナログテスタなどと比べ高精度・高確度です。しかし、デジタルだから高精度というわけではありません。測定器がデジタル(表示)化されることで、だれでも同じ値を読み取れるので、アナログメータのように、針の位置から値を読み取る際の「読み取り誤差」はありません。この意味でデジタルは高精度ですが、デジタルマルチメータの高い精度は、アナログ回路部の精度など他の様々な要素によって裏付けられるものです。ちなみに、厳密には高精度と高確度とでは少し意味が異なります。高精度というのは測定値のばらつきが少ないことを意味し、高確度とは真の値(基準値)と測定値の差が小さいことを言います。


つまり、確度は真の値に対してデジタルマルチメータの表示(測定値)がとり得る範囲を意味するわけです。したがって、[±○%]という表現をすることになります。その場合、デジタルマルチメータなどの測定器類では、確度仕様を±(1%+3)のように二つの値の合成として表現するのが一般的です。

この場合、最初の数字は「読みの値」を、次の数字は「カウント(デジット)数」を表しているので、±(1% of reading + 3digit )のように表記される場合もあります。例えば、仕様が±(1%+3)の3 1/2桁デジタルマルチメータに1.000V[ボルト]と表示された場合の確度は、1.000Vの1%に相当する0.01Vに最小表示桁の3カウント、つまり0.003V が加わり、両者を総合した確度は、±(0.01+0.003)=±(0.013)[V]になります(図1)。したがって、このデジタルマルチメータに1.000Vと表示された場合、真の値は0.9987V~1.013Vの範囲内にあることを意味します。

カウント数という固定された値が加わるため、レンジ内では読みの値が大きいほど確度は高くなりますが、全体としては読みの値に対する%が支配的であるため、読みの値が小さい時でも比較的高い確度が維持され、安心して測定できることはデジタルマルチメータの大きな特長です。これに対して、アナログのテスタやメータ類では、例えば1% FS(of Full Scale)のように確度をフルスケールに対して規定するのが一般的です。このため、レンジの下方(指示が小さいとき)では誤差はかなり大きくなります。


   
 図1:デジタルマルチメータの確度表記とその意味  

 



誤差の要因を知る

—— スペックを比較検討したいのですが、電圧と電流、直流と交流などの項目毎に確度が違うのでどれが高精度なのか分かりません。

デジタルマルチメータの確度は、一つの機種の中でもファンクション毎に異なります。ただ、仕様を注意して読むと、DCV、つまり直流電圧の測定確度が一番高いことに気づくでしょう(図2)。


図2:デジタルマルチメータの確度仕様例 (3機種の機能と仕様比較表)



機能


レンジと分解能

基本確度
114 115 117
DC V 600.0mv、6.000V、60.00V、600.0V ±(0.5%+2) ±(0.5%+2) ±(0.5%+2)
AC V 600.0mv、6.000V、60.00V、600.0V ±(1.0%+3) ±(1.0%+3) ±(1.0%+3)

DC A

6.000A、10.00A* - ±(1.0%+3) ±(1.0%+3)
AC A 6.000A、10.00A*
- ±(1.5%+3) ±(1.5%+3)






















図3に示したように、デジタルマルチメータの基本は直流電圧測定です。そして、他のファンクションはいくつかの変換を経て、最終的に直流電圧として測定されます。直流電圧以外では、それぞれの変換過程で僅かずつ誤差を伴うため、確度が下がるのです。

したがって、確度の比較検討を行う際などには、最初にDCVの確度の項を見れば、そのデジタルマルチメータが持つ基本的な確度のグレードが分かります。なお、交流の測定では、波形に対する配慮が必要になります。波形によって指示値が異なるからです。ちなみに、交流の振幅には何種類もの定義があります。何も断りがない場合は、実効値[rms]で表す約束になっています。

実効値というのは、同じ電力消費を伴う直流値に置き換えた値で、計算上は波形の二乗を積分した値の平方根になります。平方根・積分・二乗、つまり root mean squareなので[rms]の記号を付けて表現します。似た値に平均値があります。これは文字通り幾何学的な平均です。ただし、交流では正負の値を採るため、絶対値の平均を採用します。


   
図3:デジタルマルチメータの基本原理
(交流の変換等では一部異なるものもあります)  
 


デジタルマルチメータで問題になるのは、平均値と実効値の違いです。実効値と平均値とは同じ値になるように思えるかもしれませんが、波形によって両者の値は異なるのです。例えば正弦波の場合、波形のピーク値をVpとすると、実効値は0.707Vp(1/√2*Vp)になるのに対して、平均値は0.637Vp(2 /π*Vp)です。同様に三角波の場合、実効値は0.577Vp、平均値は0.5Vpという具合です。

最近のデジタルマルチメータは、「真の実効値(True rms)」といって、波形に拠らず、常に実効値を表示するタイプのものが多くなりましたが、ローエンドの製品などでは、平均値に定数を乗じて実効値として表示するタイプ(平均値応答実効値指示型)のものもあります。平均値の方が測定回路を簡単にできるためですが、正弦波以外では平均値と実効値との比率が異なるので、正弦波以外では誤差を生じます(別表)。


   
 

なお、真の実効値タイプでも、デューティの小さなパルスなど波形が尖った信号では注意が必要です。これらの信号は実効値は小さくてもピークが大きいため内部回路が飽和する事があるからです。この制限は、クレストファクタ(orピークファクタor波高率:最大値/実効値)として仕様に盛り込まれています。

外観からは分からない性能の差

—— 仕様を見ると1/2桁とか最大カウントとか、よく分からない表現があります。

確度に関しては、表示桁数と最大カウント値も大きな要素です。表示桁数は、本体の写真を見れば自ずと分かるのですが、ご指摘のように1/2桁など馴染みの無い表現がされる場合も見受けられます。これは、最大桁の表示値の制限によるものです。


常識的には、例えば、4桁の最大数は9999です。ところが、デジタルマルチメータなどでは1999が最大で、それを超えるとひとつ上の測定レンジに切り換わるものがあります。最大桁は0か1しか採らないのかというと、そういうわけでもなく、4や6など他の数値のものもあります。実は、これらは内部がデジタル即ち 2進数で処理され、表示の段階で10進数に変換される事から来る原理的な制限です。

こうした場合、例えば1999が最大のものを9999まで表示されるといった誤解を招く恐れがあるので、仕様書などでは4桁ではなく、3 1/2桁などと表示しているわけです。ただ、1/2桁という表現も曖昧な部分があるので、最近では表示の最大値を「最大カウント」値として仕様書に表示するようになっています。この場合、例えば、最大カウントが2000のものと6000のものでは、同じデジタルマルチメータでもレンジの幅が3倍も違います。さらに、レンジが切り替われば分解能も1桁変わります。したがって、最大カウントの違いは、測定の確度と分解能に大きく影響します。

使いこなしのコツ

—— デジタルマルチメータを使いこなすうえでのポイントは何ですか?

第一に心がけなければならないのは「安全」です。デジタルマルチメータは商用電源(AC Line)など高電圧が露出した場所で使うことがあります。そうした環境下では感電に備えて細心の安全対策を講じなければなりません。これはデジタルマルチメータだからというわけではなく、高電圧を扱う上での基本事項です。


電子回路のような低電圧環境では感電の心配はありませんが、二本のテストリードを測定対象に当てながら測定するのに不便を感じることがあるかもしれません。そうした場合は、図4のようなクリップタイプのテストリードを使うと便利です。

デジタルマルチメータとして注意する点を敢えて一つ挙げれば、電流レンジのまま電圧を測定しようとしないことです。電流測定では、リード間は極めて低インピーダンス(抵抗値が小さい)になっています。この状態で電圧がかかっている回路に接続すると、回路をショートさせることになり大きな電流が流れ、場合によっては回路を破損します。こうした事故を防ぐためにデジタルマルチメータでは電圧測定と電流測定でテストリードを挿す場所を別にしたロータリスイッチのポジションを対向させるなどしていますが、それでもうっかり間違うことがあるようです。捕捉になりますが、アナログテスタでは導通テスト(Ωレンジ)の際に通常プラスとなる赤のテストリード側がマイナスの電位となります。これに対してデジタルマルチメータでは、導通テスト時も赤のリードがプラス電位です。

   
図4:クリップタイプのテストリード(両手がふさがることがないので便利) 
 
 


デジタルマルチメータ 関連商品