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汎用マイコンのコアの集束

Dave Pike氏

汎用マイクロコントローラ(MCU)はいまやコモディティ製品である、 と いったら言い過ぎかもしれません。 しかし、「共通」または「オープン」 なアーキテクチャを共有するプロセッサコアを使用する傾向が高まってい ることは、この事実の大きな裏付けの1つとなっています。 現在でも数多く のMCUベンダーが存在していますが、32ビットMCUの多くのロードマッ プは、ARMが開発したプロセッサコアをベースにしているようです。

1970年代初頭に発明及び初めて製造され て以来、MCUは数多くの半導体企業によって 設計及び製造されてきましたが、これらの企業 は、MCU製品ラインを主に独自アーキテクチャ をベースに開発してきました。 とりわけ、ルネサ スのH8、STMicroelectronicsのST6/7 、MicrochipのPICなどがある8ビットの市場 や、ルネサスのR32/SuperH、Freescaleの Power Architecture、Texas Instruments のC28xなどがある32ビットの市場 ではその傾向が顕著でした。

しかしここ10年間では、独自の占有コアを開発 ではなく、コアのアーキテクチャのライセンスを ARMやMIPSなどのIP企業から取得する傾向が シリコンベンダーの間で高まっています。 ARMと MIPSは、PCマイクロプロセッサソケットを除く、 さまざまな組み込み市場及びアプリケーション向 けの高度なマイクロプロセッサ、ASIC、ASSPの 主要設計をめぐって真っ向から競ってきました。

ARMへの集中

現在は、ARMがリードしており、プロセッサコア 市場の最大のシェアを獲得しています。特にモバ イルワイヤレス設計においては大きくリードして います。これは、ARMのアーキテクチャが業界 をリードする低消費電力を誇り、優れたコンパイ ル済みコード密度が得られるためです。 ARMの Thumb命令セットは、ARM7TDMIコアに初め て導入され、必要となるメモリを大幅に削減する ことに成功しました。 現在製造されている事実上 すべての携帯電話またはスマートフォンにARM コアが搭載されています。 また、ARMアーキテ クチャは産業・PC・コンシューマー向けのASIC、 更にはASSPでも急速に普及しています。

Cortex-Mファミリ

汎用MCU市場では、ここ5年間で急速に統合が 進み、マイクロプロセッサコアを提供するベンダ ーとしてはARMが首位に躍り出ました。 複数の ベンダーがARM7TDMIをベースにしたMCUフ ァミリをリリースし、その中の一部のベンダーはそ の後ARM9TDMIをベースにした製品をリリース しています。 しかし、飛躍的進歩をもたらしたのは Cortex-Mファミリ、特にCortex-M3でした。

2004年にリリースされたCortex-M3コア は、MCUへの実装を目的としており、業界をリ ードする汎用32ビットMCUプロセッサとして、 非常に広範囲の市場で使用されています。 今日ではNXP (LPC1x00) ・STMICROELECTRONICS (ST) STM32・Texas Instruments (TI) Stellarisなど、複 数の主要半導体メーカーが採用しています。 これ らの主要メーカーは、現在でもASICやASSPの 開発プログラムのメンテナンスを続けているもの の、ハイエンド製品でのARMコア(Cortex-A8 やA9など)の採用が進んでおり、汎用MCUのロ ードマップもCortex-Mコアをベースにしたもの が増えています。 興味深いことに、2011年半 ば、TIは自社独自のC28xコアとCortex-M3の 両方を統合して周辺装置を制御するデュアルコ ア32ビットMCUシリーズをリリースしました。

その他のCortexファミリであるM0とM4を採用 した新ファミリも増えています。 M0はARMがリリ ースした最も小さくて、コードがコンパクトで、エネ ルギー効率の高いコアです。M4はM3のDSP機 能を拡張したものです。 NXP、ST、Freescale は、ここ1年の間に、M4ベースのKinetisファミリ を発表しました。また、NXPとSTはCortex-M0 バージョンもリリースまたは発表しました。 ARM によると、Cortex-Mファミリ(M0、M3、M4 プロセッサコアを含む)の合計ライセンス数は、 現時点で3桁に迫る数字となっています。

しかし例外もあるようで、少なくとも主要MCUベ ンダーであるMicrochipは、32ビットPIC MCU ロードマップをMIPS M4K32ビットプロセッサ コアをベースにしています。 PICは(特にユニッ ト数においては)、依然として8ビットでの主要な アーキテクチャとなっています。 大学の工学部で はPIC MCUが一般的に採用されているため、 半導体業界に就職する学生の多くがPIC MCU に慣れ親しんでいます。このことは間違いなく Microchipにとってアドバンテージになります。

8ビット市場への侵食

8ビット市場もいずれは高パフォーマンスで低コス トの32ビットデバイスに侵食されると考えられて きました。 しかし、データ幅の小さい製品に対する 需要も依然として高く、消費者製品、家庭用製品、 医療機器などで電子機器が使われる機会が継続 的に増加しているため、8ビットデバイスの新しい 用途も出現しています。 ただし、32ビットデバイ スがより高度な分野にまで進出しているため、8ビ ット及び16ビットのMCU市場は縮小しています。 最新の32ビットMCUは、チップあたり1ドル以下 という低コストで、機能が大幅に強化されており、 さまざまなオンチップ周辺装置を備えています。

共通アーキテクチャへの移行

現在製造されているほぼす べての携帯電話やスマートフ ォンにARMコアが搭載され ています。 ARMアーキテク チャは、産業向けのASICと ASSP、コンピュータ及びコ ンシューマアプリケーション で急速に成長しています。

MCUベンダーが独自アーキテクチャから共通ア ーキテクチャに移行するには、当然考慮すべき 課題や問題が数多くあります。 ハードウェア、ソ フトウェア、開発ツールに対する長年の投資を放 棄することは簡単ではありません。 また、特定の MCUアーキテクチャ向けに開発されたロードマ ップやレガシーコードを採用す るお客様に対して、オープンア ーキテクチャへの移行を提案 するのも簡単ではありません。 とはいえオープンアーキテク チャによりお客様は多数の恩 恵(ベンダーの選択肢増加・コス ト・パフォーマンス・対応周辺機 器の柔軟性)を受けることがで きます。 例えば、Cortex-M3 ベースのMCUがすべて同 一となるわけではありません が、別のベンダーへの移行は 簡単とまではいえないもの の、大幅に異なる専有アーキ テクチャ間での移行よりは簡 単になるはずです。 また、厳 しい経済状況の中、ここ数年の間にMCUベン ダーの大規模な統合もありました。 特に産業 市場においては、お客様は今後10~15年以 上使用できるプロセッサを必要としています。 したがって、共通アーキテクチャは陳腐化に 対する強力な保護となる可能性があります。

もう1つの利点は、使用できるソフトウェアライ ブラリが豊富に用意されているため、製品化に 要する時間を短縮できる点です。 ARMの共通 アーキテクチャに移行すれば、主なサードパーテ ィツールベンダーが提供するARMベースのさ まざまな開発/デバッグツールも使用できます。

周辺装置に基づく選択

ARMの「非専有アーキテクチャ」または「オー プンアーキテクチャ」をベースに製品ポートフ ォリオを構築する傾向が主流になれば、MCU ベンダーは他の方法により自社製品を差別化 しなければなりません。 MCUを選択する際に は、マイクロプロセッサコア、速度、メモリ、周 辺装置の選択、価格、開発ツール、オペレーテ ィングシステム、ソフトウェアのサポートなど、 さまざまな要因が基準となります。 どのプロセ ッサコアを選ぶかが、その他のオプションを決 定(もしくは少なくとも影響)するはずです。 しかし市場の動向を見る限りでは、MCUのコ ア機能よりも、周辺装置の選択の方が重要な決 定要因となっているようです。 周辺装置は、特 定の用途においては間違いなく重要な選択基 準となります。 ARM Cortexファミリへの「集 中」(プロセッサコアの共通化)を受けて、さまざ まな周辺装置を備えた「多様」なソリューション が提供されるニッチ市場が形成されるかもしれ ません。 そのニッチ市場では、主なMCU市場 (I2S出力が必須となる高品質オーディオ市場 など)ごとに、2~3社の主要ベンダーが製品を 提供することになります。 そして、メインストリ ーム市場で似たようなメモリ、I/O、ワイヤレス オプションを提供する大多数のベンダーが価格 競争を繰り広げることになります。 これが、数年 後のMCU市場の状況となるかもしれません。

顧客の差別化

半導体ベンダーがどれだけ顧客による自社製 品の差別化を容易にするかによって、 その後の 市場の状況が決まるかも知れません。 たとえば NXPは、mbedボードをベースにした低コスト の開発を行っています。 つまりNXPでは、大勢 のエンジニアが、さまざまな周辺装置のドライ バとなるアプリケーションコードやプロトコルス タックを大量に開発しています。 その結果、顧 客は下位レベルのドライバやプロトコルスタッ クについて心配することなく、製品を差別化す るソフトウェアに集中できます。 このような例 はNXPだけではありません。Freescaleには Kinetis Towerのコミュニティがあり、TIに はBeagleBoardのコミュニティがあります。

いまやシリコンは共通化しており、 ソフトウェアが付加価値商品となっ ているのではないでしょうか。

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