- 発行日 2025年11月27日
- 最終変更日 2025年11月27日
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AIで変わるデータセンター運用:効率化と持続可能性
データセンターにとって運用効率と高い稼働率は重要です。本記事では、エネルギー利用の最適化、スマート冷却、予知保全におけるAIの役割を解説し、インテリジェントで持続可能なデータセンターを設計するためのヒントを紹介します。

AIの進化はデータセンターの発展と密接に結びついています。AIサービスの稼働には強力なAIデータセンターが不可欠であり、一方でAIはそれらのデータセンターの効率性と持続可能性を高める重要な役割を担っています。
本記事では、データセンター産業の急成長と、AIがどのように運用を最適化し、環境負荷を軽減するのかを詳しく解説します。AI自体の高度化を支えながら進化するデータセンターの未来を探っていきましょう。
AIがデータセンター運用を変える方法
AIはデータセンター開発の原動力であると同時に、効率化のための最強のツールでもあります。2024年末時点で、世界には1,300を超える5,000台以上のサーバーを有するハイパースケールデータセンターが存在し、これは2019年の約2倍に相当します。生成AIはこの急拡大の主要な推進力であり、AWS、Google、Microsoftなどのテック大手が次々と施設を建設しています。Synergy Research Groupによると、今後4年間でハイパースケールデータセンターの総容量は倍増し、年間約130~140の新規施設が追加される見込みです。
急成長しているのはハイパースケールデータセンターだけではありません。コロケーションデータセンター(企業がITインフラを設置するスペースを借りる施設)やエッジデータセンター(顧客やデバイスに近い場所に設置された小規模施設 )も、生成AIを支えるために拡大しており、ハイパースケーラーの取り組みを補完しています。
データセンターの台頭は、膨大なエネルギーと水の消費を伴います。ゴールドマン・サックスは、世界のデータセンター電力需要が2023年の約55GWから2027年までに84GWに増加すると予測しており、その約20%はAIに起因します。
なぜAIデータセンターはこれほど多くのエネルギーを消費するのでしょうか?主な要因は以下の通りです:
- 24時間365日の稼働
- サーバー、AIチップ、ストレージ、ネットワーク機器などのIT機器による大量消費
- 空調や冷却システムの稼働
- 電力変換・配電時の損失
- AIトレーニングによる高負荷処理
さらに、ハイパースケール施設では冷却に大量の水を使用します。単一の施設で1日数百万リットルの水を消費する場合もあります。
こうした状況から、技術者はデータセンターの持続可能性を高める方法を模索しています。— そして、データセンターに多大な負荷をかけるという点では皮肉なことですが —AI はこれを実現するうえで重要な役割を果たしています。

AIを活用することで、データセンターの運用効率をに高め、エネルギー消費削減に貢献できます。従来のように一日中一定の速度で冷却を行うのではなく、AIは環境条件に応じて冷却を動的に調整し、エネルギーを節約します。さらに、AIとセンサー群を組み合わせることで、温度・湿度・気流をリアルタイムで監視し、冷却をより精密に制御することが可能です。
AIはまた電力料金が安い時間帯や、風力・太陽光など再生可能エネルギーによる発電時間帯にワークロードをスケジューリングすることで、データセンターの効率性と持続可能性を高めることができます。また、サーバー負荷を分散し、一部のサーバーがアイドル状態になる一方で他のシステムが過負荷になる状況を回避できます。さらに、AIモデルの保存・読み込み方法を最適化したり、データ圧縮技術を活用してAIの計算負荷を軽減するなど、ソフトウェアレベルでの効率改善も可能です。
加えて、AIは無停電電源装置(UPS)などのバックアップ電源の効率化にも活用しています。待機状態でのエネルギー損失を削減し、電力系統との連携を最適化することで、クリーンエネルギーの利用拡大やピーク時以外に需要をシフトさせることができます。
スマート冷却と環境モニタリング:AIが変えるデータセンター運用
AI活用の代表的な事例の一つが、Googleによるスマート冷却システムです。同社はAI研究部門DeepMindと連携し、ハイパースケールデータセンターの冷却効率を大幅に改善しました。AIは冷却ファン、ポンプ、チラー、気流システム、熱交換器を制御し、温度・サーバー負荷・湿度・圧力などを監視する数百のセンサーから情報を受け取り、その結果、冷却に必要なエネルギーを最大40%削減することに成功しました。この取り組みは、従来の広範な設定値による過剰冷却といった課題を克服するものです。
Facebookの親会社であるMetaも、AI搭載の予測型熱制御システムを開発しました。このシステムはデータホールのデジタルツインを活用し、サーバー発熱量、ラック温度、気流などをシミュレーションします。機械学習により、気象パターンや空調設定、サーバー負荷を基に熱環境を予測します。AIは予測結果に応じてファン速度や気流経路、冷却設定値を動的に調整し、冷却エネルギーを最大15%削減。さらにラックの高密度配置が可能になり、物理的スペースの効率化にも寄与しました。
マイクロソフトも同様に、AIを活用した冷却最適化を推進しています。同社のサステナブルなデータセンターデザインでは、冷却・気流・エネルギー源の選択をAIで統合的に調整し、効率性と環境負荷低減を両立させています。
AIは、ハードウェアの故障を重大な問題に発展する前に予測できるため、企業がシステムの保守や交換を計画的に行うことを可能にします。これにより、システム停止や過剰なエネルギー消費を防ぎ、データセンターの効率性を維持できます。ファンや電源装置などの不具合機器はエネルギーを無駄に浪費しますが、予知保全によりエンジニアが早期に介入し、電力使用への影響を最小限に抑えることができます。
一般的な予知保全体制では、センサーから収集したデータをAIが分析し、異常パターンを特定して機器の故障時期を予測します。これにより、計画外のダウンタイムやエネルギー・資源の浪費を回避しつつ、タイムリーな修理が可能になります。
サーバー、HVAC(空調設備)、電力システムに設置されたセンサーは、サーバーの過熱、ファンの摩耗、フィルターの詰まりなどを検知。AIは正常な稼働パターンを学習し、異常を迅速に認識します。予知保全システムは、問題が悪化したり機器が完全に故障する前に、保守や交換を促します。
導入事例
- Microsoft:AIを活用し、バッテリー劣化、エアフィルターの目詰まり、冷却システムの摩耗を予測。
- Google:GPUの過熱、ファンの詰まり、サーバーラックの気流問題を検出する予知保全技術を導入。
現実的なメリット:ダウンタイム削減からコスト節約まで
AIデータセンターは膨大な電力と水を消費する巨大なインフラであり、その規模は拡大を続けています。しかし、AIはデータセンターの環境負荷を軽減し、運用コストを抑える可能性を秘めています。従来のデータセンター管理は静的かつ後追いでしたが、AIは冷却システムなどの主要な運用要素を動的に調整し、再生可能エネルギーの利用を増やすことで、この状況を変えつつあります。
データセンターは膨大な電力を消費するため、化石燃料依存度を低減することが持続可能性向上には欠かせません。最も効率的なデータセンターは、計算あたりの電力消費を削減することで、電力網への負荷を軽減しています。これはカーボンフットプリント削減に直結します。また、動的冷却システムを導入し、水資源を効率的に利用することで、環境保護にも貢献しています。
さらに、ハイパースケーラーやその他の事業者は、AIによる効率改善で運用コストを大幅に削減できます。エネルギーと冷却コストはデータセンター運営費の50%以上を占めており、AIによる最適化は事業者の利益を増やすだけでなく、顧客にも還元されます。加えて、予測分析や予防保全により、AIはダウンタイム削減にも寄与します。これは事業者・顧客双方に利益をもたらします。
効率的なデータセンター運用は、電力網がコンピューティング需要の継続的拡大に対応する可能性を高め、先進国だけでなく世界中の人々にデータセンターの恩恵を届けるための重要な要素となります。
将来を適応したデータセンターの設計
将来のデータセンターは、現在よりも持続可能性と効率性に優れた設計が求められます。具体的には、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの活用を拡大し、AIや機械学習を駆動するインテリジェント冷却システムを導入することが不可欠です。また、水資源の使用量を最小化するための戦略も重要な課題となります。ネットゼロ社会を目指す中で、データセンターの資源需要増加が環境に悪影響を及ぼすリスクは無視できません。
一方で、AIはすでにデータセンター運用の効率化において顕著な成果を示しています。今後の目標は、AIなどの先端技術の成長を支えつつ、地球環境への影響を最小限に抑えるデータセンターの構築です。


