チップヒューズ ガイド

取材協力:釜屋電機株式会社

ヒューズとは

—— まずは「ヒューズ」の概要について解説していきます。

ヒューズとは電気回路・電装品の保護パーツ

ヒューズとは電気回路や電装品を保護するためのパーツのことです。ヒューズの正式名称は「電力ヒューズ」であり、電力が流れすぎないように阻止するために活用されています。
電気回路や電装品の中に規定を超える電流が流れた場合、電装品などが故障してしまうことがあるため、規定を超える電流が流れた際に電気回路や電装品の電源を切る役割を果たすのがヒューズ。電源を切ることで、過剰な電力が流れ込まないようにしてくれます。
電気回路内に使われる部品には熱に弱いものも多く、もし大きな電力が流れてしまうと、発生する熱により溶けてしまうことも考えられます。そのため、ヒューズは電気回路や電装品を保護するために欠かせないパーツです。


ヒューズの種類

ヒューズには次のような種類があります。

  • ガラス管ヒューズ
  • 工業用ヒューズ
  • 自動車用ヒューズ

ガラス管ヒューズは家電製品内の電子回路保護のために使われるヒューズのことで、AC100からAC200の家電製品で500Aまで対応します。コンパクトで価格が安く、小さなガラス管の中に収められていることが特徴です。もしヒューズが発熱したとしてもガラス管の中に収められているため、熱による発火を防げる安全性の高さを備えています。

工業用ヒューズとは、家電製品よりも多くの電力を必要とする機械に搭載されるヒューズです。電力源部分で電圧を抑制することから、工業用機械が複数ある工場などで広く活用されています。ガラス管ヒューズとは違い価格が高く入手困難であるため一般家庭用には用いられません。

自動車用ヒューズとは、自動車のヒューズボックスに収められているヒューズのことです。車載用ヒューズとも呼ばれますが一定の種類を指すわけではなく、次のような自動車で利用されているヒューズを総称しています。

  • ガラス管ヒューズ:自動車用ヒューズとして最も古くから活用されていた
  • ブレードヒューズ:自動車用ヒューズとして一般的でコンパクトで軽量でありながら耐久性に富む
  • スローブローヒューズ:複数の電気回路をひとつにまとめており過電流時でもすぐに切れない
  • EVヒューズ:電圧の高いハイブリッドカーに搭載できるようにトヨタ自動車とPECにより開発された

自動車用ヒューズの種類は上記の4つが主となり、それぞれの特徴から用途に応じて使い分けられています。

何のために何処で使う
~ 携帯機器などで用途が急拡大 ~

—— チップヒューズはどんなときに使うのでしょうか?ACラインで使うガラス管ヒューズを置き換えできますか?

チップヒューズはヒューズに違いありませんが、ボード上に表面実装するチップ部品のひとつです。回路部品の異常によるセットの発熱事故などを防ぐ目的で用いられます。チップヒューズは二次側の低電圧回路保護用であり、ACラインと直結した一次側回路で使うためのものではありません。

具体的には、携帯電話などバッテリ駆動の携帯機器や、それらのバッテリパックなどに用いられ、用途が急拡大しています。

図1に使用例を示します。最近の携帯機器に用いられるリチウムイオン電池は容量が大きく、負荷短絡などの異常が起きた場合でも、大電流を流し続ける能力があります。その場合、手に持って使う携帯機器が異常発熱するなどの可能性を否定できないため、万一に備えて、ヒューズが各所に配置されています。

電池の直近のほか、タンタルコンデンサや可動部に使われるフレキシブル基板は、短絡事故に対する備えが必要です。また、他の回路よりも高電圧となる液晶パネルドライバや機械系の不具合が、過電流につながりやすいモータ駆動回路も個別に保護します。その結果、ひとつのセット内に数多くのチップヒューズが搭載されます。

                  
図1:チップヒューズの使用例    


ヒューズは時間をかけて切れる
~定格電流では切れません ~

—— 定格電流で選べば、どこのメーカーのヒューズも同じに使えますか?

極端な言い方をすれば、定格電流というのは目安にすぎません。ヒューズの特性は定格電流で決まるものではなく、定格電流が同じでも、メーカーや品種が違えば特性が異なります。したがって、定格電流を見て代替え品を選ぶのは危険です。

定格電流が同じでも特性が異なる理由は、「ヒューズはある電流を超えると瞬時的に切れるわけではない 」 ことに拠ります。

図2は、チップヒューズの模式的な構造例です。ヒューズに電流が流れると、ジュール熱によってヒューズ膜の温度が上昇します。溶融温度に達すると溶け始め、凝集作用によって切り離されます。これを溶断といいますが、結果的にヒューズが溶断するにはある程度の時間がかかります。そして、溶断に至る特性はヒューズの材料や形状で異なり、一律ではありません。

      
図2:チップヒューズの内部構造
            

図3には、同じ定格電流の3種のヒューズについて電流と溶断までの時間の関係を示しました。定格を超えると短い時間で切れる速断性のもの、短時間の大電流に耐えるものなど様々であることが分かると思います。

このため、ヒューズのデータシートには、電流対溶断時間の特性(I-T特性)が示されています。品種によって特性が異なるのはお話ししたとおりですが、全体としては、ヒューズは定格電流の200%くらいにならないと溶断しません。ヒューズは定格電流では切れないのです。

    

図3:ヒューズのI-T特性

”ヒューズは、同じ電流定格でも特性が異なる”
              


切れすぎても困る
~ 回路の特性によって最適な品種が異なる ~

—— 回路の(定常)動作電流を超えたら、すぐに切れる理想のヒューズはありませんか?

ヒューズは安全のために入れる保安部品ですから、万一の時に溶断しなければ意味がありません。いっぽう、異常ではないにもかかわらず、ヒューズが切れては困ります。何でもないときにヒューズが飛ぶようでは商品の信頼にも係わりますし、チップヒューズの場合は、最終ユーザはヒューズを交換できません。

回路を流れる電流がどんな動作状態でも一定であるならば、ヒューズの選定は簡単です。短絡などの異常は、通常の何倍もの電流が流れるわけですから、回路の動作電流を超えたら、できるだけ早い時間で溶断するものを選べば良いわけです。したがって、電流変化の少ない回路には、「速断型」と呼ばれるタイプのヒューズが適しています。

ところが、現実の回路電流の多くは一定ではなく、動作状態によってダイナミックに変化します。例えば、大容量のコンデンサが接続されている回路では、電源の投入時に定常時の何倍ものラッシュ電流が流れます。モータなども起動時(電源が立ち上がってから回転が始まるまで)に大きな電流が流れます。こうしたラッシュ電流は事故や異常ではないのですが、ヒューズの選定を誤ると、ラッシュ電流でヒューズが切れる恐れがあります。

かといって定格電流を大きくしたのでは、保安上の意味が薄れてしまうので旨くありません。こうした場合は、短時間の大電流では溶断しない、「耐インラッシュ型」のヒューズを用いるのが得策です。

電流解析が必要な場合もある
~ ラッシュ電流の考慮 ~

—— ラッシュ電流に見合ったヒューズが分からないときはどうすればよいのですか?

回路のラッシュ電流とヒューズの溶断との関係は思うほど簡単ではありません。電流の波形や時間とヒューズの溶断特性を見極めなければならないからです。

簡単には、耐インラッシュ型の中からI-T特性が合うものを選ぶのですが、電流の変化(波形)は回路によって異なるため、一概に決定するのが難しいのも確かです。

そうした場合は、ヒューズで発生するジュール熱の時間変化(電流の二乗の時間積分 対時間)と、これに対応するヒューズの溶断特性から品種を選定する必要があります。メーカーにはそのためのデータが用意されていますので、実際、セットメーカーからメーカーに確認が入ることも珍しくありません。

設計には慎重さが必要
~ 定格電圧とディレーティングなど ~

—— そのほかに注意することはありますか?

ヒューズは回路図上では電線と同じに扱われがちですが、実際には抵抗体ですから、わずかに電圧降下があります。最近の電子回路は低電圧化が著しいので、影響のないことを確認しておくことが必要です。

いっぽうで、ヒューズにも定格電圧があり、定格電圧以下で使うことを忘れないでください。チップヒューズはオンボードでの低電圧回路用です。定格を上回る回路に使用すると、溶断後にアークなどで再接続されてしまう恐れがあります。

定格電流で大切なのはディレーティングです。ディレーティングは定格以下で使うことですが、ヒューズの場合は二通りのディレーティングがあります。ひとつは定常ディレーティングで、回路の定常電流がヒューズ定格の70%となるように使用することが推奨されます(注:メーカーによって異なります)。

もう一つは温度ディレーティングです。ヒューズを実装するボードの周囲温度に対応したディレーティングをする必要があります。図4に例示したように、ディレーティングの量は、データシートに記載されています。

チップヒューズでは、溶断が外から見えないということがあります。ヒューズが切れたか切れていないかを電気的にチェックするのは簡単ですが、ガラス管ヒューズのように外観から判断することはできません。

    

図4:温度ディレーティング

”セットの周囲温度ではなく、ヒューズの周囲温度を当てはめる”


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