• 発行日 2025年7月24日
    • 最終変更日 2025年7月24日
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PLC導入の第一歩:コンパクトPLCとモジュラーPLCの違いとは?

コンパクトPLC・モジュラーPLC・ハイブリッドPLCの違いを比較。価格帯別の人気モデルや導入時の選び方もわかりやすく解説。

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PLCシステムとは

PLC(プログラマブルロジックコントローラ)は、産業機械やプロセス制御における自動化の中核を担う装置です。プログラム可能なこの制御機器は、センサやスイッチなどの入力を読み取り、モーターやバルブなどの出力を制御することで、生産ラインや設備全体の動作を管理します。高い信頼性と幅広い環境への適応性を備えているため、国内の製造業でも幅広く導入されています。近年では、食品・医薬・化学・電子部品製造といった、多品種・少量生産が求められる分野においても、柔軟な制御能力とコンパクトな設計が評価され、活用の場がさらに広がっています。

PLCには主に3つのタイプに分類されます。小型PLC(コンパクトPLC)、モジュール型PLC(モジュラーPLC)、そしてその中間に位置するハイブリッドPLCです。用途に応じて最適なタイプを選定することは、運用効率やコストパフォーマンスに大きく影響します。それぞれの特徴を理解することで、自社の目的に合った最適なPLCを選定できるようになります。

小型・モジュール型・ハイブリッドPLCの違い

小型PLCは、電源、CPU、I/O(入力・出力)が一体化された構造を持つため、コンパクトな制御盤に収まりやすく、低コストで導入できる点が特長です。構成がシンプルであることから、導入までの期間を短縮でき、保守や故障時の対応も比較的容易です。特に、初期投資を抑えたい中小規模の設備に適しており、製品によってはプログラムソフトが無料で提供されるなど、導入のハードルが低い点も魅力です。

一方、モジュール型PLCは、電源・CPU・I/Oなどの各コンポーネントが分離されており、用途に応じてI/Oモジュールや通信モジュールを追加できます。この構造により、設計段階から柔軟なシステム構成が可能であり、将来的な拡張や変更にも対応しやすくなっています。大規模な生産ラインや複雑なシステムでは欠かせない構成です。各種産業プロトコルへの対応も進んでおり、制御・監視・データ収集を一元的に管理できる点も大きな特長です。

ハイブリッドPLCは、小型の筐体でありながら、モジュール型と同様の拡張性を備えており、柔軟性と省スペース性の両方を兼ね備えています。限られた設置スペースでも対応でき、将来的なI/Oの追加や機能拡張を見据えたシステム構築が可能なため、現場でも重宝されています。

近年では、エッジコンピューティングやIoT連携といった機能を搭載したハイブリッド機種も登場しており、スマートファクトリー化を目指す企業からの注目が高まっています。

物理的な設置スペース、配線の自由度、将来的な拡張性、ならびに操作性や保守のしやすさなどが、PLC選定の重要な判断要素です。現場のニーズと将来的な運用像を見据えたうえで、各タイプを比較検討することが求められます。

導入前に考慮すべきポイント

PLCを選定する際には、次のような観点から評価を行うことが重要です。

  • 設置スペース:制御盤のサイズに制約がある場合は、小型PLCが適しています。特に既存設備に後付けする際は、配線ルートや干渉の有無も事前に確認しておく必要があります。
  • I/Oの規模:数十点程度までの簡単な制御なら小型PLCで十分です。一方、100点以上のI/Oや分散配置が必要なシステムでは、モジュール型が適しています。センサやアクチュエータの種類・数量も選定基準に影響します。
  • 通信機能:Ethernet、Modbus、PROFINETなどの産業用通信プロトコルへの対応を確認しましょう。PLC間通信や上位システムとの接続が必要な場合は、標準装備に加え、通信拡張スロットの有無も重要です。
  • 保守性:モジュール型PLCは、部品ごとの交換や個別診断がしやすい構造です。また、予防保全を前提とした自己診断機能の有無も、保守性の観点から重要な評価項目となります。
  • 拡張性:将来的に機能やI/O点数の増加が見込まれる場合は、モジュール型またはハイブリッドPLCの導入が適しています。拡張時のソフトウェア対応や、既存システムとの整合性も併せて検討する必要があります。
  • 価格帯の目安
    • 小型PLC(〜50,000円):初期費用を抑えたい場合に適しており、入門機として導入しやすい価格帯です。設置や設定が簡単で、トータルの導入コストを削減できます。
    • ハイブリッドPLC(50,000〜100,000円):価格と拡張性のバランスに優れ、中長期的なシステム拡張を見据えたプロジェクトに向いています。初期は小規模でも、段階的な拡充が可能です。
    • モジュール型PLC(100,000円以上):大規模システムや高度な制御が必要な用途に対応します。通信モジュールや特殊I/Oとの柔軟な連携が可能で、TCO(総保有コスト)を重視するケースに適しています。
PLC

小型PLCの特徴と適用例

小型PLCは、シンプルな制御タスクを迅速に実現できる点が大きな利点です。部品点数が少なく、設置や配線も容易なため、エントリーレベルの自動化プロジェクトに最適です。また、操作性が直感的であることから、現場担当者が簡単に設定変更を行えるような現場にも適しています。さらに、多くの機種が堅牢な設計となっており、高温多湿といった過酷な環境下でも安定して稼働できるモデルもあります。

代表的な用途例:

  • 小規模工場におけるコンベアやポンプの制御
  • オフィスビルの空調・照明の自動制御
  • 固定I/Oを持つ小型工作機械の制御
  • 農業用ハウス内の環境モニタリングや灌漑システムの自動化

国内における使用例:

  • 中小企業における旧型設備のリトロフィット
  • 自動販売機や小型包装ラインの制御
  • 中小規模の製品検査装置への組み込み
Features and applications of compact PLCs

モジュール型PLCの特徴と適用例

モジュール型PLCは、制御の自由度が非常に高く、大規模かつ複雑なシステムに対応できる構成です。必要に応じて各種I/Oや通信モジュールを追加できるため、長期運用を前提とした設備や柔軟な拡張が求められる現場に最適です。また、冗長構成やフェイルオーバー機能を実装しやすいことから、停止が許されない重要インフラでも広く採用されています。機器の配置やシステム構成に応じた最適設計が可能であり、高い可用性と保守性の両立が図れます。

代表的な用途例:

  • 自動車製造ライン
  • 多拠点のビル管理システム
  • 電力設備や上下水道設備の遠隔監視I/O制御システム
  • 空港や鉄道システムの集中監視と制御

国内における使用例:

  • 産業団地におけるロボット生産システム
  • 大型プラント内での多機器連携制御
  • 発電所や変電所における設備制御
Features and applications of modular PLCs

ハイブリッドPLCの特徴と適用例

ハイブリッドPLCは、小型PLCの省スペース性に加え、モジュール型PLCの一部機能(拡張ポートや複数の電源入力など)を備えたタイプです。中規模の制御タスクや、将来の拡張を見越したプロジェクトに適しています。初期導入コストを抑えながら、設備の拡張やシステム変更にも柔軟に対応できる設計思想が特長で、事業の成長に応じて段階的に導入したい企業にとって、魅力的な選択肢となります。

代表的な用途例:

  • 中規模製造セルの制御
  • ロボットを含むワークステーションの制御
  • 拡張が見込まれる設備の制御
  • スマートファクトリー移行を想定した段階的な導入

国内における使用例:

  • 太陽光発電やEVインフラ向けのプレハブ型制御盤
  • 倉庫自動化装置の段階的更新
  • 地方工場における分散制御ユニットの標準化

主要PLCモデルの比較

小型PLC

  • Mitsubishi FXFU:省スペース設計で設置しやすく、基本的な制御に対応するエントリーモデル
  • Schneider Electric M221:多様なI/O構成と通信機能を備え、コストパフォーマンスに優れたモデル
  • Panasonic FP-X:高速処理性能と高い信頼性を両立し、多用途な小型制御に対応
  • Arduino Opta:産業用途向けに設計された、プログラミング自由度の高いPLC

モジュール型PLC

  • Mitsubishi FXFUC:高い拡張性を持ち、複雑な制御システムにも対応可能
  • Schneider Electric M340:高性能CPUを搭載し、大規模な産業用自動化に最適
  • Omron CJ2M:高速・高精度制御が可能で、柔軟なシステム構成に対応
  • Siemens S7-300:多くの実績を持つ信頼性の高いモデルで、幅広いアプリケーションに活用可能

ハイブリッドPLC

  • Omron NX1P2:小型ながらも拡張性に優れ、EtherCATなどの高度な通信プロトコルにも対応
  • Siemens S7-1200:中規模プロジェクトに最適化された、高機能なコンパクトPLC
  • Panasonic FP-XE:省スペースと柔軟な拡張性を両立し、段階的な導入にも対応
  • Arduino Portenta:IoTを活用した産業アプリケーション向けに設計された、高機能マイクロコントローラベースのPLC

用途別の選定フロー

PLCの選定に迷ったときは、以下のような観点を参考にすると判断しやすくなります。

  • 食品加工業のスタートアップ:設備構成がシンプルで固定されている場合は、小型PLCで十分に対応できます。特に、設置スペースや予算に制約がある企業にとっては、導入しやすくコスト面でもメリットがあります。
  • 既存包装ラインの改修:将来的な拡張を見越す必要がある場合は、ハイブリッドPLCが適しています。既存設備との互換性を確保しながら、必要に応じて機能を追加できる柔軟性が強みです。
  • オフィスビルの制御盤設計:フロアやゾーンごとに細かい制御が必要なケースでは、モジュール型PLCが有利です。分散制御やネットワーク接続にも対応しやすく、大規模施設の複雑な管理に適しています。
  • 研究開発向けの試験装置:頻繁に構成を変更したり、多様なデータを取得したりする必要がある環境では、柔軟なI/O構成が可能なハイブリッドPLCが最適です。

このように、導入する設備の規模と運用の将来性を踏まえた上で選定することが重要です。現在の要件だけでなく、将来的な拡張性や保守体制まで見据えた選択が、長期的な安定運用につながります。

Comparison of main PLC models

メンテナンスと運用計画

PLCの導入に際しては、運用開始後の維持管理についても十分に検討しておくことが重要です。

  • 部品の入手性:国内メーカー製のPLCは部品の流通が安定しており、在庫確保がしやすい傾向にあります。そのため、万が一の故障時でも迅速な復旧が可能です。海外製品と比べて納期のリスクが低い点も大きな利点です。
  • 保守体制:技術サポートの有無や内容は、トラブル発生時の対応力に直結します。初期導入時の設定支援や、故障時の対応スピードなども含め、サポート体制の充実度を比較検討することが重要です。
  • 交換のしやすさ:モジュール型PLCは、障害箇所のみを部分的に交換できるため、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。一方で、小型PLCは本体ごと交換が前提となる場合が多く、保守方針に応じた選定が求められます。
  • 将来性への対応:ファームウェアの更新やリモート診断への対応可否も、長期運用の観点から大切な要素です。リモートアクセスが可能であれば、障害の早期発見と対応が迅速になり、メンテナンスコストの削減にもつながります。また、セキュリティパッチや新機能へのアップデートに柔軟に対応できるかどうかも、将来の安定稼働に直結します。

まとめ

PLCの選定にあたっては、設備の規模や予算、将来的な拡張性、メンテナンス方針といった要素を総合的に考慮することが重要です。小型PLCは、限られたスペースと予算内での導入に適しており、迅速な立ち上げと低コストの両立が可能です。一方、モジュール型PLCは柔軟な構成と高い拡張性を備えており、大規模システムや将来的な拡張を見込んだプロジェクトに最適です。ハイブリッドPLCはその中間的な位置づけにあり、省スペースと拡張性を両立させたいニーズに応える構成となっています。それぞれの特徴を正しく理解し、自社の用途や将来の設備計画に応じて、最適な制御システムを選定することが求められます。選択の精度が、最終的な設備の信頼性や運用効率に大きく影響するため、慎重な判断が不可欠です。

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