• 発行日 2026年9月17日
    • 最終変更日 2026年9月17日
  • 5 分

予知保全戦略とは?導入効果と実践方法を解説

予知保全は、AIや機械学習を活用して設備の健全性を評価し、故障による高額な停止コストが発生する前に異常を検知できる先進的な保全手法です。本記事では、予知保全戦略を効果的に導入するためのポイントと、それを支える主要な技術について紹介します。

Predictive Maintenance Strategy

石油・ガス業界における遠隔地の海底パイプラインの状態評価から、大型旅客機の部品の健全性監視、さらには送電線の障害防止まで、予知保全はさまざまな分野で活用されています。

予知保全戦略を導入することで、問題が深刻化する前に異常を特定し、設備停止や計画外保全、それに伴うコスト増加を未然に防ぐことができます。これらのソリューションは、センサや各種デジタル技術を活用してデータを収集し、設備の状態を継続的に監視することで、実際の稼働状況に基づいた機器の健全性評価を行います。その目的は、設備故障につながる前に不具合の兆候を検知し、適切な対応を可能にすることです。予知保全戦略を成功させるためには、いつ、どこで是正保全が必要になるのかを正確に把握することが重要です。

本記事では、予知保全の基本的な考え方をはじめ、予知保全戦略を導入するメリットと課題、活用される最新技術、そして効果的な予知保全を構築・運用するためのポイントについて詳しく解説します。

予防保全と予知保全の違い

予知保全と従来の予防保全の主な違いは、保全作業を実施するタイミングにあります。予防保全では、設備の安定稼働を維持するため、メーカーが推奨する点検周期や運用実績に基づいて定期的に保全作業を実施します。例えば、一定期間ごとの点検や部品交換が代表的な例です。このように、予防保全は事前に計画されたスケジュールに従って実施されます。一方で、その目的は予知保全と共通しており、部品の故障を防止し、設備停止や生産性低下のリスクを最小限に抑えることにあります。この方式では、まだ使用できる部品を交換してしまう過剰保全が生じやすく、逆に周期の途中で故障が発生する場合もあるという課題があります。保全方式は大きく、故障してから対応する事後保全(BM)、時間を基準として計画的に実施する予防保全(PM)、設備の状態に基づいて実施する予知保全(PdM)に分類されます。予知保全は、状態基準保全(CBM)の一形態と位置づけられます。

両者の最大の違いは、予知保全が設備の状態をリアルタイムで監視する点にあります。予知保全では、故障につながる可能性のある異常を検知すると、保全担当者やエンジニアへ警告が発信されます。これにより、適切なタイミングで是正保全を実施できるため、重大な故障や設備停止を未然に防ぐことが可能です。予知保全は、さまざまな監視技術によって支えられています。その代表例が振動監視です。振動センサを用いて設備の振動データを収集・分析することで、異常の兆候や故障の前触れを検知できます。この手法は、回転部品を備えた高速稼働機械の状態監視に広く活用されています。

また、近年では機械学習や人工知能(AI)といった先進技術の活用も進んでいます。これらの技術は、蓄積された運転データやセンサデータを分析し、故障や性能低下の兆候を事前に予測することで、より高度な予知保全の実現に貢献しています。RSでは、予知保全と状態監視の導入を支援し、設備の信頼性向上や保全業務の効率化をサポートしています。

予知保全のメリット

予知保全は、生産性の向上、設備故障の削減、保全コストの低減に大きく貢献します。適切な予知保全戦略を導入することで、設備故障の発生を大幅に抑制し、場合によっては未然に防ぐことも可能です。予知保全の主なメリットとして、以下のような点が挙げられます。

ダウンタイムの最小化

設備が故障すると、修理のために運転を停止しなければなりません。予知保全ソリューションは、このような計画外の設備停止時間を最小限に抑えることができます。計画外の設備停止は、生産ラインや工場全体の運用に影響を及ぼし、生産性の低下につながる可能性があります。予知保全では、設備の実際の状態に関するデータを継続的に収集し、分析によって故障の兆候や故障が発生する可能性の高い時期を予測します。そのため、計画外の設備停止を大幅に削減し、場合によっては未然に防ぐことも可能です。

また、予知保全を活用することで、エンジニアは予防保全のスケジュールに依存するのではなく、設備の状態に応じて適切なタイミングで先回りして是正保全を実施できます。これにより、生産への影響を最小限に抑えながら、効率的な保全活動を実現できます。

設備故障の防止

産業機械の故障は、多くの場合、部品に継続的な負荷やストレスがかかることで発生します。 故障の原因としては、摩擦や振動、不適切な潤滑などが挙げられます。また、部品の取り付け不良や、機械の運転中に部品が緩むことによって不具合が発生する場合もあります。世界的なベアリングメーカーであるSKFによると、損傷や故障が原因で、毎年約5,000万個のベアリングが交換されています。また、ベアリング故障の約3分の1は金属疲労によるものであり、さらに約3分の1は潤滑不良が原因で発生していると推定されています。このほか、産業機械では、ギア、バルブ、シール、ベルトなどの部品も故障しやすい部品として知られています。これらの多くは、振動監視や潤滑油分析によって事前に兆候を捉えられる故障モードです。

機械の故障は、保全担当者やエンジニアにとって大きな課題となります。故障が発生すると、設備の効率低下や過熱、液漏れなどの問題を引き起こす可能性があります。さらに、こうした問題を放置すると、最終的には設備の重大な故障につながり、生産活動に大きな影響を及ぼすおそれがあります。

予知保全では、振動データをはじめ、騒音や温度といったさまざまな運転パラメータを分析することで、故障の兆候を検知します。これらのデータに現れる異常を把握することで、機械的な故障の発生を予測し、重大なトラブルに発展する前に必要な保守・点検を実施できるようになります。

Condition Monitoring System

コストの削減

予知保全戦略は、さまざまな面で製造コストの削減に貢献します。 設備の状態に応じて必要なタイミングと箇所に保全作業を実施できるため、あらかじめ定められたスケジュールに従って作業を行う従来の予防保全と比べて、より効率的かつ経済的な保全活動を実現できます。

予知保全では、設備の状態に応じて最適な時期に保全作業を実施できるため、機械や部品の長寿命化が期待できます。 また、突発的な故障への対応ではなく、計画的な保全活動を行えることから、生産スケジュールへの影響を抑えながら設備の信頼性を維持できます。計画外の設備停止は多大な損失を招く可能性がありますが、予知保全を導入することでこうしたリスクを軽減できます。その結果、保全コストの削減に加え、設備の稼働率向上や生産能力の最大化にもつながります。

予知保全では、部品や設備の状態をリアルタイムかつ継続的に監視・分析できるため、保守上の問題を特定するために設備を分解する必要性を低減できます。その結果、点検や保守作業にかかる時間とコストの削減につながります。

予知保全の課題

こうした多くのメリットがある一方で、予知保全にはいくつかの課題も存在します。

まず、導入時のコストが高くなる可能性があります。例えば、振動解析を実施するには、機械設備にセンサネットワークを構築する必要があります。これは産業用IoT(IIoT: Industrial Internet of Things)の一部を構成するものです。使用されるセンサには、圧電センサやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)センサなどがあります。これらのセンサの導入・設置費用は、設備故障によって発生する可能性のある損失コストと比較しながら評価する必要があります。また、予知保全を運用するための専門的な体制への投資も求められる場合があります。具体的には、従業員への教育・トレーニングの実施や、予知保全に関する知識とスキルを備えた人材の新規採用などが必要になることもあります。さらに、稼働中の既存設備にセンサを後付けする場合は、設置場所の確保や配線、設備停止を伴う工事が必要となることもあり、計画的な準備が求められます。

さらに、収集したデータの内容を十分に理解できていなかったり、適切でない種類のデータを収集していたりすると、それが設備故障の可能性とどのように関係しているのかを正確に判断することが難しくなります。製造現場には数多くの設備やシステムが存在するため、すべての機器にセンサを設置してデータを収集することは、多大なコストがかかるうえ、現実的ではありません。そのため、設備を評価する際には、どのパラメータを測定すべきかを慎重に検討する必要があります。例えば、コンプレッサの空気漏れを監視する場合には音響センサが有効であり、回転機器を備えた設備の健全性を評価する場合には振動監視が活用されます。このように、設備の特性や監視目的に応じて適切な測定手法を選択することが重要です。また、データ分析によって異常を検知するためには、継続的かつ一貫性のあるデータ収集が不可欠です。データの取得方法や測定条件にばらつきがあると、異常の兆候を正確に把握しにくくなり、問題の早期発見を妨げる要因となります。また、しきい値の設定が厳しすぎると誤報が頻発して警報が軽視されるようになり、逆に緩すぎると異常を見逃すことになります。運転実績を踏まえた継続的な調整が欠かせません。また、どの設備に導入するかの選定も重要です。一般には、故障時の生産損失や安全上の影響が大きい設備、代替機がない設備、修理に長時間を要する設備から優先的に適用します。

予知保全を支える技術

予知保全には多様な関連技術が活用されています。主な予知保全の手法には、以下のようなものがあります。

Vibration Meter

振動解析

振動解析は、主に機械部品の健全性を評価するために用いられる手法です。 センサによって振動速度、振動周波数、振動変位の異常を検出し、設備の状態を監視します。振動解析を活用することで、ローター、ベアリング、ギアボックス、モーターなど、さまざまな回転機器や機械部品における異常や故障の兆候を早期に発見することが可能です。振動の周波数成分を分析することで、アンバランス、ミスアライメント、軸受の損傷、歯車の噛み合い不良など、異常の種類まで推定できる点が大きな特長です。

超音波解析

超音波解析では、超音波センサによって検出された、人の耳では聞き取れない高周波音を測定機器で収集し、音声データとデジタルデータに変換します。そして、過去の測定データとの違いを比較・分析することで、設備や機械の潜在的な異常を検知します。超音波解析は、機械設備の状態診断や点検に活用されるほか、潤滑状態の分析によるベアリングやモーターの摩耗監視、さらには腐食の検出にも利用されています。

赤外線解析

赤外線解析では、赤外線カメラを使用して部品や設備のサーモグラフィ画像(熱画像)を生成します。これにより、機械設備における摩擦による発熱や、電気システムにおける高い電気抵抗による異常発熱を検知でき、故障の兆候を早期に発見することが可能です。測定にあたっては、対象物の表面状態によって放射率が異なるため、適切な設定が必要です。また、絶対温度だけでなく、同一条件の他の機器との比較や経時変化の傾向を見ることが診断の基本となります。

モーター回路解析

モーター回路解析は、モーターの電圧や運転電流を測定・分析することで、モーターの故障や異常を検出する手法です。 電源品質の問題やモーター回路の不具合に加え、機械部品の異常やモーターと駆動機器を接続する機械的なカップリングの問題なども検出できます。運転したまま測定できるため、設備を停止せずに絶縁劣化や巻線異常の兆候を把握できる点が利点です。

潤滑油分析

潤滑油分析では、油の粘度や水分含有量、金属粒子(摩耗粉)の量などを測定・評価します。これにより、設備内部の摩耗や劣化の進行状況を把握し、故障の兆候を早期に把握できます。摩耗粉は振動として現れる前の段階で検出できることが多く、より早期の兆候把握に有効です。また、油自体の劣化状態を把握することで、交換時期を使用実態に基づいて判断できます。

AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を活用した予知保全

インダストリー4.0の進展に伴い、AI(人工知能)をはじめとする先進技術は、予知保全ツールの性能を大きく向上させています。 AIは膨大なデータからさまざまな変数を分析し、傾向やパターンを学習することで故障の兆候を予測し、設備が故障するリスクが高まった際に保全担当者へ通知することができます。例えば、AIは設備から取得した振動や騒音に関するデータを過去の運転データと比較・分析し、故障の発生時期を予測するとともに、部品の寿命を使い切りつつ故障前に交換する、必要最小限のタイミングでの保全を可能にします。このような高度なデータ分析は、設備に適切に配置された多数のセンサネットワーク、すなわち産業用IoTによって支えられています。また、設備の稼働状況に関する現在および過去の膨大なデータを収集・保存できる環境も不可欠です。AIはこれらのデータを活用することで、より高精度な故障予測と効率的な保全計画の策定を実現します。

機械学習

近年では、予知保全に機械学習を活用するケースが増えています。機械学習を利用することで、現在の設備データと過去の運用データに基づき、故障が発生する前にその兆候を予測するモデルを構築できます。機械学習は、センサネットワークから収集した過去のデータを分析し、部品の摩耗や劣化を示す可能性のあるパターンを特定します。こうした分析結果をもとに、設備の状態をより正確に把握し、適切なタイミングで保守を実施することが可能になります。予知保全向けの機械学習モデルにはさまざまな手法が用いられます。例えば、設備や部品の残存耐用期間を予測する回帰モデル、故障の有無や設備状態を分類する分類モデル、さらには異常な挙動を検知する異常検知モデルなどがあります。ただし、実際の現場では故障そのものの発生件数が少なく、学習に十分な故障データを集めにくいという課題があります。このため、正常時のデータのみを学習して逸脱を検出する異常検知の手法が採用されることも少なくありません。

予知保全技術の導入方法

予知保全を導入するには、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。まず、どの監視技術を採用するかを選定し、監視対象となる設備や機器に全設備に一度に展開するのではなく、重要度の高い一部の設備から試行的に始め、効果を検証しながら対象を広げていく段階的な進め方が現実的です。センサネットワークを設置します。また、設備の正常時の状態を正しく把握し、どのような状態が異常に該当するのかを理解しておくことも重要です。異常の兆候を検知できるようになることで、適切なタイミングで保守・点検を実施できるようになります。さらに、保守作業を計画・管理するためのシステムも必要です。まだ導入していない場合は、CMMS(Computerized Maintenance Management System:コンピュータ化保全管理システム)などの予知保全ソフトウェアを活用することで、保守スケジュールの作成や管理を効率化できます。あわせて、異常を検知した際に誰がどう判断し、どのような手順で対応するかという運用ルールを定めておくことが重要です。警報が出ても対応につながらなければ、予知保全の効果は得られません。

予知保全技術の導入は、製造業の競争力向上に大きく貢献します。その効果が広く認識されたことで、近年では多くの製造現場で予知保全の活用が一般的になっています。予知保全により、計画外の設備停止を抑制しながら生産性を向上させ、保全コストの削減を実現できます。これらのメリットは、製造業にとって非常に大きな価値をもたらします。また、設備の稼働状態を最適化することで、生産効率の向上だけでなくエネルギー使用量の削減も期待できます。こうした効果は、産業分野における脱炭素化の推進や気候変動への対応にもつながるものとして注目されています。導入効果を評価する際は、設備総合効率(OEE)や平均故障間隔(MTBF)、平均修復時間(MTTR)、計画外停止時間といった指標を導入前後で比較すると、定量的に把握できます。

職場や工場における保全体制の高度化を始めたいとお考えなら、RSが最適な製品やソリューションの選定をサポートします。なお、すべての設備に予知保全が適しているわけではありません。安価で交換が容易な部品や、故障しても影響が限定的な設備については、事後保全や予防保全のほうが合理的な場合もあります。設備の重要度に応じて保全方式を使い分けることが、全体最適につながります。

関連ガイド

関連ページ

お得な情報をいち早く受け取ろう

Emailアドレス

お客様の個人情報は、当社のプライバシーポリシーに従って慎重に取り扱いを行います。