- 発行日 2026年7月23日
- 最終変更日 2026年7月23日
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エネルギーハーベスティングによる電池レスセンサー設計
エネルギーハーベスティングは、光や熱、振動などの環境エネルギーを利用して電力を得る技術です。本記事では、電池レスセンサーを実現するための構成要素と主要デバイス、低消費電力設計のポイントを解説します。

エネルギーハーベスティングが注目される背景
「Trillion Sensors(1兆個のセンサー)」構想に代表されるように、センサーの年間導入数は将来的に1兆個規模に達するとの予測が、半導体・センサー業界で以前から示されてきました。こうしたセンサーの急速な普及に伴い、データの保存・処理だけでなく、センサーへの電力供給も重要な課題となっています。
そこで注目されているのが、光や熱、振動など周囲のエネルギーを電力に変換するエネルギーハーベスティング(環境発電)です。
近年の低消費電力センサーは、高精度な計測や制御を実現し、遠隔監視システムや自律動作システムなど幅広い用途で利用されています。エネルギーハーベスティング技術を組み合わせることで、これらのワイヤレスセンサーは電源配線や電池交換を必要とせず、長期間にわたる自律動作が可能になります。
図1に、エネルギーハーベスターを電源として利用した超低消費電力センサーの基本構成を示します。

図1:エネルギーハーベスターを利用した超低消費電力センサーの基本構成
自律動作型センサーは、一般的に次の要素で構成されます。
- エネルギーハーベスター
- センサー
- 蓄電デバイス
- 電源管理IC
- マイコン(MCU)
- ワイヤレス通信モジュール
このようなシステムでは、限られた発電量の中で安定した動作を実現することが重要です。各デバイスを選定する際は、動作電圧の適合だけでなく、無線送信時などに流れるピーク電流、待機時の消費電流、そして間欠動作を含めた平均消費電流を見積もり、発電量と蓄電容量に見合うようシステム全体の消費電力を最適化する必要があります。
エネルギーハーベスティングの主なエネルギー源
自然界や周囲の環境には、電力に変換できるさまざまなエネルギーが存在します。エネルギーハーベスティングでは、こうした環境中のエネルギーを利用して電力を生成します。
光エネルギー
太陽光や屋内外の照明は、太陽電池(ソーラーセル)を用いて電力に変換できます。発電効率を高めるためには、設置環境の光量や入射光の特性に合わせて太陽電池を選定することが重要です。
機械エネルギー
振動や動きなどの機械エネルギーも発電に利用できます。例えば、圧電素子を用いた発電方式では高い発生電圧が得られ、数百ボルトに達する場合もあります。
ただし、圧電素子は出力インピーダンスが非常に高いため、電圧が高くても取り出せる電流はごくわずかで、得られる電力は限られます。また、振動によって変形の向きが反転すると、発生する電圧の極性も反転するため、整流回路が必要になります。
さらに、スイッチ操作や機械部品の動作によってコイル内の磁性コアを移動させ、電力を発生させる方式もあります。その代表例がZF社のエネルギーハーベスターです(図2)。
図2:ZF社のエネルギーハーベスター
熱エネルギー
物体の表面に温度差がある場合、その温度差を利用して電力を得ることができます。この発電方式は、異種金属や半導体の接合部の温度差によって起電力が生じるゼーベック効果を利用した熱電発電として知られています。発電量は温度差にほぼ比例するため、放熱側の設計が重要であり、工場設備や配管など、継続的な温度差が発生する環境で活用されています。
電磁波エネルギー
無線通信に利用される電波からエネルギーを回収することも可能です。代表的な例がRFIDで、非接触ICカードや入退室管理カードでは、リーダーから送られる電磁波によってデータ通信と電力供給を同時に行っています。近距離のものは電磁誘導、遠距離のものは電波方式が用いられます。
電磁波エネルギーは発電量こそ限られるものの、電池レスデバイスや超低消費電力のIoTセンサーを実現する技術として利用されています。
主なエネルギー源ごとの発電性能を表1に示します。利用できるエネルギー量はエネルギー源によって大きく異なり、用途や設置環境に応じて適切な発電方式を選択することが重要です。
表1 主なエネルギーハーベスティング電源の発電性能(代表値)
エネルギー源 | 条件・用途例 | 出力 |
|---|---|---|
| 光エネルギー | 屋外(太陽光) | 約100mW/cm² |
| 屋内照明 | 約100μW/cm² | |
| 熱エネルギー | 人体の熱 | 約80μW/cm² |
| 産業機器の排熱 | 約1~10mW/cm² | |
| 振動エネルギー | 人体の動き | 約4μW/cm² |
| 産業機器の振動 | 約800μW/cm² | |
| 高周波(RF)エネルギー | GSM 900MHz | 約0.1μW/cm² |
| Wi-Fi | 約0.001μW/cm² | |
| 電磁誘導 | ZF Energy Harvester | 0.2mWs以上(1動作あたり) |
※数値は利用環境やデバイス構成によって大きく変化する代表値です。なお、光・熱・振動・RFの各行は単位面積あたりの発電電力(電力密度)を示すのに対し、電磁誘導の行は1動作あたりに得られるエネルギー量を示しており、単位系が異なる点にご注意ください。
低消費電力MEMSセンサー
物理量を測定するための小型センサーは数多く存在しており、さまざまなメーカーから供給されています。なかでもMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーは、小型・高性能・低消費電力という特長を備えており、IoT機器やワイヤレスセンサーの普及を支える重要なデバイスとなっています。
主なMEMSセンサーメーカーには、STMicroelectronics、Bosch Sensortec、Texas Instruments、NXP、Analog Devices、Seiko Epson、Infineon Technologies、Murata、Sensata Technologies、Melexisなどがあります。
これらのメーカーは、加速度センサー、ジャイロセンサー、圧力センサー、磁気センサー、温度センサーなど幅広い製品を展開しており、低消費電力化が求められるIoT機器や産業機器で広く採用されています。エネルギーハーベスティング用途では、測定時の消費電流だけでなく、待機時電流や、しきい値超過時のみマイコンを起動させる割り込み出力機能の有無が、選定上の重要な指標となります。
エネルギー貯蔵デバイス
エネルギー貯蔵デバイスは、エネルギーハーベスターとセンサーシステムの間で蓄電バッファとして機能します。エネルギーハーベスターから十分な電力が得られない場合でも、蓄えた電力を供給することでシステムの安定動作を支えます。
超低消費電力システムでは、充電式バッテリー、スーパーキャパシタ、全固体電池などが主な蓄電デバイスとして使用されています。
充電式バッテリー
充電式バッテリー(二次電池)は、エネルギーハーベスティングシステムで広く利用されている蓄電デバイスです。リチウムイオン電池をはじめ、さまざまな種類の製品があり、容量やサイズも豊富に用意されています。
充放電特性や寿命、自己放電率などの性能は製品によって異なるため、用途に応じた適切な選定が重要です。
スーパーキャパシタ
スーパーキャパシタ(Supercapacitor:電気二重層キャパシタ/EDLC)は、一般的なコンデンサよりも大きな電気容量を持つ蓄電デバイスです。円筒形や角形などの製品があり、小型サイズでも2.5Vで1Fの容量を実現できます。
充放電サイクル寿命が長く、短時間で充放電できるため、エネルギーハーベスティングを利用したIoTセンサーやワイヤレス機器の蓄電用途に適しています。一方で、二次電池と比べてエネルギー密度が低く、漏れ電流(自己放電)が比較的大きいため、長期間の電力保持には向きません。また、高温環境では容量が低下する傾向があります。
Vishay社の「235 EDLC-HVR ENYCAPシリーズ」(図3)は、高温環境に対応したスーパーキャパシタです。同社によると、85℃環境下で2,000時間の寿命を実現しており、85℃・相対湿度85%の条件で1,500時間の通電試験が行われています。
容量は5F~60F、パッケージサイズは10mm×20mmから18mm×40mmまで用意されており、産業機器やIoTセンサー、バックアップ用途などで利用されています。
図3:Vishay 235 EDLC-HVR ENYCAPシリーズのスーパーキャパシタ
全固体電池
全固体電池(Solid-State Battery)は、エネルギーハーベスティングシステムで利用できる蓄電デバイスの一つです。自己放電率が低いため長期間の電力保持に適しており、電解液の代わりに固体電解質を使用していることから、液漏れや熱暴走のリスクを大幅に抑えられます。一方で、現時点では容量が小さく単価も高いため、微小電力を扱う用途に適しています。
代表的な製品として、TDKの「CeraCharge」(図4)があります。これはリフローはんだ付けに対応した表面実装型(SMD)の全固体電池で、EIA 1812(4.5mm × 3.2mm × 1.1mm)の小型パッケージを採用しています。定格電圧は1.4V、容量は100μAhで、無線送信時などのパルス的な負荷に対しては、短時間であれば数mAの電流を供給できます。また、約1,000回の充放電サイクルに対応します。
動作温度範囲は−20℃~+80℃で、複数のCeraChargeを直列または並列に接続することで、必要に応じて電圧や容量を拡張できます。
図4:TDKの全固体電池「CeraCharge」
エネルギーハーベスティング向け電源管理IC
エネルギーハーベスティングを利用するワイヤレスセンサーシステムでは、発電量や出力電圧が環境によって変化するため、電源管理ICが重要な役割を担います。電源管理ICは、エネルギーハーベスターから得られる不安定な電力を安定化し、蓄電デバイスの充電やシステムへの電力供給を管理します。また、電源管理ICには、システムや蓄電デバイスを保護するための各種保護機能が組み込まれています。
低電圧保護(Undervoltage Protection)
蓄電デバイスの電圧が一定値を下回ると、負荷への電力供給を停止する機能です。バッテリーの過放電を防ぎ、性能や寿命の低下を抑えます。また、蓄電量が不足した状態でシステムが起動と停止を繰り返すことを防ぎ、一定量まで充電されてから動作を開始させる役割も担います。
過電圧保護(Overvoltage Protection)
充電電圧を監視し、設定値を超えた場合は余剰エネルギーを逃がしたり、充電経路を制限したりして、蓄電デバイスを過充電から保護します。
過電流保護(Overcurrent Protection)
規定値を超える電流が流れた際に、電流を制限または遮断する機能です。ヒューズと異なり自動的に復帰できる点が特長で、蓄電デバイスの過放電や短絡による回路の損傷を防ぎます。
電源管理ICの一例として、Maxim Integrated(現Analog Devices)のMAX20361があります。MAX20361は、単セルまたは複数セルの太陽電池向けに設計されたエネルギーハーベスティング用電源管理ICです。
待機電流は360nAと低く、内蔵昇圧コンバータは最低225mV程度の低い入力電圧から起動できます。また、MPPT(Maximum Power Point Tracking:最大電力点追従)機能を搭載しており、日射量の変動に応じて太陽電池の動作点を最適に保つことで、15μWから300mW超までの幅広い入力電力を効率的に取り出せます。
さらに、Liイオンバッテリー向けの充電・保護回路を内蔵しているほか、スーパーキャパシタ、薄膜電池、一般的なコンデンサの充電にも対応しています。充電停止電圧を設定できるプログラマブル機能も備えており、さまざまなエネルギーハーベスティング用途で利用できます。
図5:MAX20361 評価キット
エネルギーハーベスティング向けマイコン(MCU)の選定
超低消費電力の組み込みシステムでは、マイコン(MCU)の選定が消費電力や動作時間に大きく影響します。特にエネルギーハーベスティングを利用するワイヤレスセンサーでは、限られた電力を有効活用するため、低消費電力モード、高い処理性能、そして高速なウェイクアップ機能を備えたMCUが求められます。
なかでも重要なのが、スリープ状態からの高速復帰機能です。センサーシステムは通常、消費電力を抑えるためにできるだけ長くスリープモードで待機し、必要なときだけ動作します。そのため、短時間で復帰できるMCUほど、システム全体の消費電力を低く抑えることができます。
こうした要件に対応する製品の一例が、ルネサス エレクトロニクスのRX111マイコンです。
RX111は、高速・中速・低速の3つの動作モードに加え、スリープモード、ディープスリープモード、ソフトウェアスタンバイモードの3つの低消費電力モードを備えています。用途に応じてこれらのモードを使い分けることで、処理性能と消費電力のバランスを調整できます。
ワイヤレスセンサー用途では、外部イベントを検知した際にシステムを起動したり、内蔵RTC(リアルタイムクロック)を利用して一定間隔で動作したりするケースが一般的です。RX111はこうした間欠動作を想定した低消費電力設計を採用しており、エネルギーハーベスティングを利用したセンサーシステムにも適しています。
図6:RX111 MCU評価ボード
RX111では、動作モードによって必要な電源電圧が変わることはなく、1.8V~3.6Vの動作電圧範囲内であればすべてのモードを利用できます。ただし、高速モード、中速モード、低速モードで使用できるクロック周波数は電源電圧によって異なります。
RX111は、消費電力を抑えるためにスリープモード、ディープスリープモード、ソフトウェアスタンバイモードの3つの省電力モードを備えています。これらのモードでは、CPUやメモリ、周辺回路の動作を段階的に停止することで消費電力を削減できます。
- スリープモード(Sleep Mode):CPUのみを停止し、RAMの内容や周辺モジュールの動作を保持するモードです。32MHz動作時の復帰時間は0.21μsと短く、イベント発生時に素早く処理を再開できます。
- ディープスリープモード(Deep Sleep Mode):CPUに加えて、RAMやフラッシュメモリへのアクセスも停止するモードで、スリープモードよりもさらに消費電力を抑えられます。参考として、32MHz動作時に複数の周辺機能を有効にした通常動作時の消費電流は約4.6mAであり、ディープスリープモードではこれを大きく下回ります。通常動作への復帰時間は2.24μsです。
- ソフトウェアスタンバイモード(Software Standby Mode):発振回路やPLLを含め、CPU、SRAM、フラッシュメモリ、DTC、周辺モジュールの大部分を停止する最も省電力なモードです。必要に応じてIWDT、RTC、LVDのみを動作させ続けることができ、消費電流は350nA~790nAまで低減されます。ただし発振回路の再起動が必要なため復帰には時間を要し、復帰時間は4MHz動作時で約4.8μs、32MHz動作時で約40μsです。間欠動作の周期が長い用途では、このモードを基本状態とすることで平均消費電流を大幅に削減できます。
RX111ではさらに、クロック分周比や周辺モジュールごとの動作設定を変更できるため、用途に応じたきめ細かな消費電力管理が可能です。
低消費電力ワイヤレス通信
ワイヤレスセンサーシステムでは、2.4GHz帯やサブGHz帯を利用した低消費電力無線通信技術が広く採用されています。代表的な通信規格としては、ZigBee、Z-Wave、Bluetooth Low Energy(BLE)があり、用途に応じて使い分けられています。
ZigBeeやZ-Waveは、メッシュネットワークを構成できることから、照明や空調の制御をはじめとするスマートビルディング分野で広く利用されています。一方、BLEはスマートホーム機器に加え、ウェアラブル機器やヘルスケア機器でも普及しています。スマートフォンとの高い親和性を持つことから、BLE対応センサーやIoT機器の採用が拡大しています。なお、エネルギーハーベスティングを用いる場合は、送信時のピーク電流が蓄電デバイスの供給能力を超えないよう、あらかじめ確認しておく必要があります。
onsemiのRSL10 Solar Cell Multi-Sensor Boardは、エネルギーハーベスティングを利用したバッテリーレス機器やIoT機器の開発向け評価ボードです。超低消費電力のBluetooth Low Energy対応SoC「RSL10」を搭載し、スマートホームやスマートビルディング、Industry 4.0向けアプリケーションの評価に利用できます。
ボードには3軸加速度センサー、環境センサー、温度センサーに加え、47Fのスーパーキャパシタと太陽電池を搭載しています。また、プログラミングおよびデバッグ用インターフェースも備えており、エネルギーハーベスティングを活用したIoTセンサーシステムの評価や試作開発に利用できます。
図7:onsemi RSL10 ソーラーセル搭載マルチセンサーボード
まとめ
IoT機器やワイヤレスセンサーの普及に伴い、電源配線や電池交換に依存しないシステムへの需要が高まっています。こうした背景から、光、熱、振動、電磁波などの環境中に存在するエネルギーを利用するエネルギーハーベスティング技術が注目されています。
エネルギーハーベスティングシステムを構築するためには、発電デバイスだけでなく、低消費電力MEMSセンサー、蓄電デバイス、電源管理IC、マイコン(MCU)、ワイヤレス通信モジュールを適切に組み合わせることが重要です。特に、発電量が限られる環境では、システム全体の消費電力を最適化することが設計の鍵となります。
蓄電デバイスには充電式バッテリー、スーパーキャパシタ、全固体電池などの選択肢があり、用途や使用環境に応じた選定が求められます。また、電源管理ICは発電エネルギーを効率よく利用するとともに、蓄電デバイスやシステムを保護する重要な役割を果たします。
さらに、低消費電力MCUやBLEをはじめとする無線通信技術の進化によって、エネルギーハーベスティングを活用した電池レスセンサーの実用化が進んでいます。今後はスマートビルディング、産業機器の状態監視、スマートホーム、ウェアラブル機器など、さまざまな分野で導入がさらに拡大していくと考えられます。
エネルギーハーベスティングは、保守の手間や廃棄物を削減しながらセンサーを長期間稼働させられる技術であり、持続可能なIoTシステムを支える中核技術の一つになると期待されています。


