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    アルミ電解コンデンサの基礎知識
     
      • 発行日 2023年6月1日
      • 最終変更日 2024年5月16日
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    アルミ電解コンデンサの基礎知識

    この記事では、アルミ電解コンデンサとは何なのか、温度と寿命の関係性と実装上の注意点について解説しています。

    大容量コンデンサの定番 ~ アルミ電解コンデンサとは?コンデンサの原理と構造 ~

    —— アルミ電解コンデンサは、なぜ大容量にできるのですか?

    アルミ電解コンデンサは、低コストで入手性にも優れた大容量コンデンサの定番です。よく知られるように、コンデンサの静電容量は、対向する電極の面積と電極間に挟まれる誘電体の比誘電率に比例し、誘電体の厚さ(電極間の距離)に反比例します。表1に、コンデンサに使われる主な誘電体材料の誘電率と厚さを示しました。アルミ電解コンデンサでは、誘電体として酸化アルミニウムが使われます。この酸化膜は、耐圧が高く実質的な厚みを極めて薄くできるうえ、箔表面をエッチングすることにより実効面積を見かけ上の面積を数十~数百倍にできるので、大きな静電容量を実現できるからです。

    この場合、酸化皮膜には整流性があるため、アルミ電解コンデンサは(電極にプラス・マイナスがある)有極性コンデンサとなります。なお、電解液に代えて導電性高分子などの固体電解質を用いた、「アルミ固体電解コンデンサ」もあります(図2)。

    ◀図2:アルミ電解コンデンサの原理(出典:ニチコン株式会社)

    実製品の構造を図3に示しました。電極となるアルミニウム箔の間に電解紙を挾み(箔および電解紙共に2層となる)、これを巻き取って電解液を浸み込ませた構造をしています。

    ◀図3:アルミ電解コンデンサの製品構造(出典:ニチコン株式会社)

    理想と現実 ~ アルミ電解コンデンサの電気特性 ~

    —— アルミ電解コンデンサは、小型大容量の理想コンデンサですね。

    アルミ電解コンデンサは小型大容量なので、電源の平滑、電源ラインのバイパスやデカップリング、低周波のカップリング(DCカット)など、電子機器内の多数の場所で汎用的に使われています。しかし、他のコンデンサに比べ、事前にその特性の理解を多く必要とするコンデンサであることも確かです。有極性であることなどはその典型ですが、他にも押さえておきたいパラメータがあります。基本的には図4に示した等価回路で考えるのが分かりやすいでしょう。この等価回路はアルミ電解コンデンサ特有の極性や、後述する再帰電圧などを加味しない簡易的なものですが、等価回路で他のコンデンサと比べると、r(等価並列抵抗:漏れ抵抗)とESR(等価直列抵抗)の影響が大きいです。

    ◀図4:等価回路(出典:ニチコン株式会社)

    例えば、ESRですが、電解液はイオン伝導であり、電荷を伴うイオンの移動度が問題となるため低ESR化に限界があります。言い換えると、漏れ電流や直列抵抗分の影響を受け難い回路に使うのが得策です。さらに、耐圧に十分なマージンを見込むことや電源回路などリップル電流が大きい箇所で使用する場合は、リップル耐力の大きなものを選ぶことなどが求められます。また、アルミ電解コンデンサは大容量、つまり図4のCが大きいので、r、ESR、Lなどとの間で形成される時定数は基本的に大きくなります。これは使用できる周波数範囲が低く、高周波用途には不向きであることを意味します(図5)。同様に、並列抵抗(r)が他のコンデンサより小さいため、高精度の時定数回路には適しません。これらのパラメータは個々にバラツキがあるので、例えば複数のコンデンサを接続する場合は、分圧抵抗など電圧(電流)をバランスさせる配慮を必要とします。

    ◀図5:周波数特性例(出典:ニチコン株式会社)

    メーカーでは、電源入力平滑用や制御回路用など、アプリケーションに最適化した特性を持つシリーズを揃えているので、コンデンサの選択に当たってはこれらの中から選ぶと良いでしょう。アルミ固体電解コンデンサは、通常の(電解液タイプ)電解コンデンサと比べ、ESRが小さく温度特性も良いという特長があります(図6)。

    ◀図6:導電性高分子タイプとのESR比較(出典:ニチコン株式会社)

    ケミカル・デバイス ~ 電解コンデンサの温度と寿命 ~

    —— 電解コンデンサではなくケミカルコンデンサと呼ぶ先輩がいます。

    電解コンデンサは、ケミコンやケミカルコンデンサなどとも称されます。これは、電解コンデンサが紛れもなくケミカル(化学的)なデバイスであることを意味したものと言えます。

    因みに、化学反応は温度に依存する部分が大きいので、電解コンデンサのパラメータは無視できない温度特性を持ちます。さらに、化学反応に伴って特性も変化します。例えば、内部の電解液は時間と共に蒸散して静電容量などの特性が劣化、やがて寿命を迎えます。電解コンデンサが有寿命デバイスであることは、他の電子デバイスと比べて際だった特徴です。つまり、電解コンデンサを使う場合は、寿命を設計に織り込む必要があります。寿命は個々の製品毎に明示されていますが、先に述べたとおり温度などの条件で大きく変わります(図7)。

    ◀図7:寿命推定の例(出典:ニチコン株式会社)

    一般に、化学反応速度の温度依存性はアレニウスの式に従うことが知られており、簡単には、「温度が10℃上昇する毎に寿命は半分になる」と解釈できます。したがって、周囲温度や内部温度上昇を抑えることは長寿命化の必須要件です。確実な寿命推定の際は、メーカーの指定する計算法等に従ってください。電解コンデンサで大きな充放電を繰り返すと、条件によっては容量の減少や内部でのガス発生などが起こる可能性がありますので、一般用の電解コンデンサを蓄電目的で使用することは避けてください。

    安全確実 ~ 電解コンデンサの実装上の注意点 ~

    ——それでは、アルミ電解コンデンサを実装するうえでの注意点について見ていきましょう。


    コンデンサが周囲の回路部分と接触しないよう配置すること

    まずは、アルミ電解コンデンサが周囲の回路部分と接触しないように配置することに注意してください。コンデンサのケースはマイナス電極と接続されていると思われることが多いものの、電位に保証はありません。また、外装スリーブの絶縁についても保証されていないため、安全確実に実装するためには、周囲の回路部分と接触しないよう配置するようにしましょう。

    ** 液漏れ・ガス放出への対策を実施すること**

    次に、液漏れ・ガス放出への対策を実施することも必要です。おもに次のような3つの対策法をとりましょう。

    • 圧力弁の開放に備えて上下に空間を確保すること
    • コンデンサの封口部下部にはパターンを配置しないこと
    • ネジ端子形の封口部を寝かせる場合は圧力弁部もしくは陽極端子を上にすること

    電解コンデンサには「圧力弁」が設けられています。圧力弁の役割は、電流による発熱や電解液の蒸発・電気分解により内部の圧力が上昇した場合に備えることです。液漏れ・ガス放出への対策のため、コンデンサを実装する際には、弁の開放に備えて上下に空間を確保するようにしましょう。圧力弁は封口材などの部品の下部、もしくはアルミニウムケースの上部などにつけられています。

    ネジ端子形の封口部は上向きにすることが基本ですが、ネジ端子形の封口部を寝かせる際には圧力弁部か陽極端子を上側にすることも注意するべきポイントです。また、液漏れでのパターン汚染を防ぐため、液漏れの影響が及ぶ位置へのパターン配置を避けるなど液漏れやガス放出への対策は万全に行ってください。

    ** 過電圧がかからないように確認すること**

    安全に実装するためには、アルミ電解コンデンサに過電圧がかからないよう確認することも欠かせません。具体的には、直流電圧にリプル電圧を印加したときの最高値が定格電圧を超過しないようにすることと、複数のコンデンサを直列でつなぐ場合、コンデンサひとつひとつに対してかかる電圧が定格電圧以下になるようにすることの2点が注意点です。過電圧がかかるとコンデンサは酸化皮膜を作り出し、ガスが発生し安全装置が作動することもあります。実装の際には過電圧にならないよう、事前によく確認しましょう。

    ** コンデンサに適した環境であるか確認すること**

    実装する場所がコンデンサに適した環境であるか確認してから設計を行うことも注意点のひとつです。コンデンサは次のような環境で使用された場合、故障する可能性が高まります。

    • 水・塩水・油・酸性溶剤・アルカリ性溶剤がかかる環境
    • 高温多湿・結露状態となる環境
    • 塩分・油成分・有毒ガスが充満している環境
    • 直射日光・オゾン・紫外線・放射線があたる環境
    • 振動や衝撃が規定範囲を超過する環境

    コンデンサは水分・塩分・油・有毒ガス・直射日光などにさらされる環境や、激しく振動している環境、大きな衝撃が加わる環境では故障する恐れがあります。コンデンサ実装の際には、使用する環境が適切であるか確認することも必要です。

    ** 再起電圧に配慮すること**

    アルミ電解コンデンサを使用する際には、再起電圧に配慮することも必要です。再起電圧とは放電した後に、電圧が生じていないにも関わらず再度、端子間に電圧が発生する現象のこと。再起電圧が発生する恐れがある場合は、抵抗器を用いて放電を行わなければなりません。抵抗器は1kΩ程度が適切です。高電圧で容量の大きなコンデンサでは生じる電圧も大きくなるため、機器内部の点検などに際しては再起電圧に十分な注意を払いましょう。

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