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      • 発行日 2023年7月21日
      • 最終変更日 2024年3月25日
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    組込用電源 ガイド

    この記事では、組込用電源とは何か、その機能と用途について解説しています。(取材協力:TDK株式会社)

    いろいろあるぞ

    ~ 組込用電源の機能と用途 ~

    —— 負荷の電圧と電流仕様を満足する機種を選べば良いんですよね。

    モジュールタイプの電源は、電源の完成品です。設計の手間がかかりませんし、部品1個分の手配で済みます。

    用途や形態で見ると、機器の内部に置く組込みタイプのものと、プリント基板上で使うオンボードタイプに別れます。また、ケースに収まったもののほかに、基板のままのオープンタイプがあります(図1)。電気的には、AC/DCコンバータとDC/DCコンバータの二つです※。さらに、入出力間が絶縁されているものとグラウンドが共通(非絶縁)のものがあります。AC/DCは基本的に絶縁型になりますが、DC/DCでは使用する回路側が絶縁を必要とするか否かに拠ります。

    タイプが決まれば、後は例えば入力:AC100V出力:5V/2Aという具合に、入出力の定格で機種を選んでいくことになります。出力は出力電圧と電流です。異なる複数の出力を持った機種もあるので、幅広く検討してください。

    ただし、ここで注意したいのは、温度によるディレーティングです。

    ※ DCからACに変換するものは、インバータと呼ばれます。

    図1:色々な電源モジュール 

    色々な電源モジュール

    夏バテ注意報

    ~ディレーティング ~

    —— ディレーティングって何のことですか??

    ディレーティング(derating)とは、部品や機器の信頼性を高めるために、最大定格あるいは最大出力よりも低めにして用いることを言います。電源の場合は、使用する周囲温度が高い場合に出力を常温時より小さくして使うことを指します。

    例えば、図2で電源を水平に置いて使う場合、周囲温度が40℃になるときは通常の80%出力で、60℃であれば半分の出力にディレーティングして用いるわけです。ちなみに、図のようなディレーティングカーブは、電源のデータシートに記載されています。

    スペックの一覧など、数値上での電源定格は常温での値ですので、単純に負荷に要求される電圧と電流の値から機種選択すると、出力がディレーティングの規定値を超える恐れがあるわけです。

    さらに注意したいのは、周囲温度とは電源の周囲温度であって、搭載する機器の周囲温度ではないという点です。一般的な使用環境では、機器の周囲温度は室温にほぼ等しく、40℃以上になることはあまり考えられませんが、機器内に置かれた電源の周囲温度は、思う以上に高くなります。機器の内部には他の発熱体があり、それによる温度上昇があることはもちろんですが、電源自身が発熱体であることも忘れないでください。最近の電源は電力効率が極めて高くなっていますけれども、電力損失はゼロではありません。そして、電力損失は熱に変換されるからです。例えば、出力100W(=電圧×電流)で効率80%の電源では、20W 分の発熱があります。小さなハンダゴテが置かれているのと同じ熱が発生するわけです。この熱を効率よく逃さないと、電源の温度は大きく上昇します。

    このように、機器内部の温度上昇を勘案し、ディレーティングが必要な場合は、それに見合う出力定格の大きな機種を選ばなければならない、というわけです。

    なお、出力がディレーティングの条件に達しても、電流が自動的に制限されることはありません。ディレーティングは、電源を使う側に委ねられているのです。この点で、最大出力電流の保護で制限回路が働いたり、異常加熱で保護回路が作動したりするのとは異なります。

    図2:周囲温度とディレーティングの例

    周囲温度とディレーティングの例

    図3には、同じ定格電流の3種のヒューズについて、電流と溶断までの時間の関係を示しました。定格を超えると短い時間で切れる速断性のもの、短時間の大電流に耐えるものなど、様々であることが分かると思います。

    このため、ヒューズのデータシートには、電流対溶断時間の特性(I-T特性)が示されています。品種によって特性が異なるのはお話ししたとおりですが、全体としては、ヒューズは定格電流の200%くらいにならないと溶断しません。ヒューズは定格電流では切れないのです。

    図3:ヒューズのI-T特性

    ”ヒューズは、同じ電流定格でも特性が異なる”

    ヒューズのI-T特性

    活かすも殺すも

    ~ 電源の設置と配線 ~

    —— 入手したらスグに使えるので便利ですね。

    組込みやオンボードなどのモジュール電源は、電源をブラックボックスとして扱え、専門的な設計が不要なことが一番のメリットです。とはいえ、ブラックボックスの外側の扱い、具体的には電源の設置(配置)や配線には、気を配る必要があります。

    前項とも関連しますが、設置では放熱に対する配慮が必要です。図2の右側を見ても分かるとおり、取り付け方法によっても放熱効率は異なります。周囲のエアフロー(空気の流れ)にも気を配ってください。搭載機器にファンが取り付けられている場合は、ファンからの気流を遮らず電源の周囲を通る様にし、自然空冷の場合は対流の循環がスムーズになる位置に配置します。何れの場合も電源の周囲には空間を設け、熱がこもらないようにしてください。最低限確保すべきスペース条件はそれぞれの説明書に記されています。

    いっぽう、配線の善し悪しはEMC性能、つまりノイズを出さない、ノイズの影響を受けないという能力に大きく影響します。

    ほとんどのモジュール電源はスイッチング電源であり、ノイズ源となる要素を含んでいます。その意味では、グラウンドの配線を短くする、オープンタイプのものはシールドを施すといった対策は必要です。

    もう一つ考えなければいけないのは、電源はノイズの流入経路・流出経路に置かれるアイテムであるということです。例えば、AC/DCコンバータの入力は機器外部のコンセントからのACラインですから、様々なノイズが重畳していると考えられます。電源には、機器の入り口でこれを阻止し、ノイズを機器の内部に取り込まないようにする働きもあるわけです。ところが、電源の入力と出力の配線を近づけたり束ねてしまったりすると、この間でノイズが乗り移り、電源を素通りして出力に現れてしまいます。

    また、近くにノイズ源がある場合、入力や出力の配線で大きなループができると、ループがノイズを結合するアンテナやサーチコイルの働きをします。電源の出力は回路の各部につながれるので、結果的にノイズをばら撒いてしまうことになります。

    こうした影響をできるだけ小さくするためには、入力と出力の配線をできるだけ離す(入出力分離)、出力のプラスとマイナスなど、ペアになる配線はループとならないように並行に密接して(できればツイストして)配線する、グランドは太く短く大面積の部分へ接続、などの基本的な配線ルールをシッカリ守ることが大切です。リモートセンシング(外部電圧検出)などを利用する場合も同様の注意を払ってください(図3)。

    図3:入出力配線の注意 (上が良い例、下の3つは悪い例)

    入出力配線の注意

    電気用品安全法における機器組込用直流電源ユニットの取扱い

    —— 次に、電気用品安全法における機器組込用直流電源ユニットの取り扱いについて見ていきましょう。

    機器組込用直流電源ユニットは電気用品安全法の対象ではない

    電気用品安全法では、機器組込用直流電源ユニットは対象外とされています。機器組込用直流電源ユニットは電子計算機に組み込むために製作されるものであるためです。そのため、直流電源ユニットでも組み込み用でないものは電気用品安全法の対象となりますが、機器組込用直流電源ユニットの製作・設計においては電気用品安全法に則している必要はありません。

    電気用品安全法の適用基準

    電気用品安全法が適用される基準は、次のとおりです。

    • 一般用電気工作物の部分もしくは接続する機械・器具・材料であること
    • 政令で定められた携帯発電機であること
    • 政令で定められた蓄電池であること

    電気用品安全法の適用基準は以上の3つと定められていることを考えると、機器組込用直流電源ユニットが対象とならないことも納得していただけるはずです。

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