- 発行日 2023年6月1日
- 最終変更日 2025年10月22日
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【最新2025年版】3端子レギュレータの選び方と使い方完全ガイド:LDO技術や発熱対策も徹底解説
3端子レギュレータは、入力・出力・グラウンドの3つの端子を持つ電圧調整用ICで、電子機器に安定した電圧を供給するための必須部品です。電圧を一度安定化してから回路に供給することで、誤動作やノイズの発生を抑制します。 基本的な使い方はシンプルで、入力側に供給電圧、出力側に負荷回路、そしてグラウンドを接続するだけです。小型でコストも低いことから、電子機器の電源回路の定番となっています。

変換と安定化 ~ 電源の分類 ~
電子機器の内部には、多様な電圧を安定して供給するための電源回路が不可欠です。これらの電源回路の中でも、電圧を適切に変換し、一定に保つ役割を果たすのが「レギュレータ(Regulator)」です。レギュレータは、機器の要求する電圧や電流容量により最適な方式が異なり、用途に応じて多様なタイプがあります。
現代では、効率の高さと省エネルギー性能から「スイッチングレギュレータ」が主流となっています。このスイッチングレギュレータは外付け部品が必要ですが、電圧の降圧・昇圧の両方が可能で、電力損失が少なく高効率を実現します。そのため、多くの最新電子機器で採用され、省エネルギー化やバッテリー駆動時間の延長に貢献しています。ただし、スイッチングに伴うノイズやリップルが発生しやすく、高感度なアナログ回路や微小信号回路ではその影響を軽減する工夫が必要です。
一方で、スイッチング電源と比較して出力のノイズが非常に少なく、安定性に優れている「リニアレギュレータ」も根強い需要があります。リニアレギュレータは入力と出力の電圧差が小さい場合や、流れる電流が少量のアプリケーションに適しており、ハイエンドオーディオ機器や医療機器、精密計測器などで重宝されています。
これらのレギュレータは大きく分けて、「シリーズ方式」と「シャント方式」に分類されます。シリーズレギュレータは、入力と出力間に直列に接続されたトランジスタが負帰還制御により出力電圧を一定に保つ方式で、効率と安定性のバランスが良いのが特徴です。図解すると、可変抵抗の役割を果たすトランジスタが負荷電流に応じて制御されているイメージとなります。
シャントレギュレータは、一定電圧を基準に電流を流して電圧を制御する方式で、用途は限られていますが、基準電圧の生成や特定の安定化回路で有用です。
最近では、省エネルギー社会への意識の高まりから新技術の開発が進み、スイッチングレギュレータの高周波化や低ノイズ化、さらにはハイブリッド型レギュレータなど多様な進化が見られます。それに伴い、設計者はレギュレータの特性をよく理解し、用途に最適な電源回路を選択することがますます重要になっています。
◀図1:レギュレータICの方式分類
シリーズレギュレータの原理を図2に示しました。シリーズレギュレータは、入力電圧と負荷間に直列に接続されたトランジスタなどの制御素子を用いて、余分な電圧分を熱として放散しながら出力電圧を一定に保つ仕組みです。制御素子は負帰還回路により出力電圧を監視し、入力電圧や負荷電流の変動に応じて抵抗値(ON抵抗)を変化させて出力を安定化します。これにより、負荷に必要な一定の電圧を供給し、入力と出力の電圧差に相当する電力損失を熱として処理します。シリーズレギュレータは小型でノイズが少なく安定した出力が得られるため、低・中電流のアナログ回路や組み込み機器の電源に広く使われています。
◀図2:シリーズレギュレータの原理
簡単で安心 ~電源の定番IC ~
図3に示された3端子レギュレータは、入力端子、出力端子、グラウンド端子のわずか3つの端子で構成されるシンプルなシリーズ方式の電圧レギュレータICであり、多くの電子機器の電源回路において定番となっています。
この3端子レギュレータの最大の魅力は、入力と出力に指定されたコンデンサを接続するだけで安定した出力電圧を簡単に得られる点です。特別な設計知識がなくとも利用でき、IC内蔵の過熱保護や過電流保護などの安全回路により、信頼性が高い電源を実現します。
出力電圧は3.3V、5V、12Vなどの固定電圧タイプが中心で、負電圧型もラインアップに含まれ、電流容量は30mAクラスから1Aクラスまで幅広く用意されています。これにより、小型の組み込み機器から中低電流の制御回路まで柔軟に対応可能です。
さらに、このICは必要に応じて外部回路を追加することで出力電圧の可変化や出力電流の増強も可能ですが、その場合は設計の手軽さが若干損なわれるため、電圧調整や電源のオンオフ制御が多用される用途では、図3の基本型に加えて専用の制御ピンを備えたレギュレータタイプの使用を推奨します。
近年は、低入力電圧差で動作可能なLDO(Low Drop-Out)タイプの3端子レギュレータが普及しており、これらは低電圧化・省電力化が進む現代の電子機器に最適化された製品群として多く選ばれています。
図3に示されるこの3端子レギュレータは、そのシンプルで信頼できる構成により、設計の簡素化と安定した電圧供給を両立し、多種多様な電子機器の電源設計において最も利用される定番ICです。
◀図3:3端子レギュレータの例
標準タイプとLDOタイプ ~ 選択と応用 ~
3端子レギュレータを選ぶ際の基本は、まず回路が求める出力電圧と最大出力電流を満たすことです。しかし、3端子レギュレータには長い歴史の中でいくつかの派生タイプが生まれており、その中でも特に重要なのが「標準タイプ」と「LDO(Low Drop-Out)タイプ」です。
標準タイプは、出力段にNPNトランジスタで構成され、入力電圧と出力電圧の差(ドロップアウト電圧)が最低でも約2V以上必要という特徴があります。これはトランジスタの構造上避けられないものであり、電圧差が大きい場合に適していますが、その分電力損失が増え発熱が大きくなるため効率はやや低下します。
一方、LDOタイプは出力段にPNPトランジスタやPチャネルMOSFETを用いており、ドロップアウト電圧が1V以下、場合によっては0.5V以下と非常に小さいため、入力と出力の電圧差がわずかでも安定動作が可能です。これにより、低電圧化が進む近年の電子機器に最適で、消費電力を抑えて発熱も低減できる利点があります。
ただし、LDOタイプは標準タイプに比べて負帰還の安定性がやや劣り、出力に接続するコンデンサの容量や等価直列抵抗(ESR)に細かい指定が必要なこともあります。発振を防ぐために各メーカーのデータシートに従い、安定性確認を十分に行うことが重要です。
図4は両者の内部回路ブロック図で、標準タイプがNPNトランジスタのエミッタを出力としているのに対し、LDOタイプではPNPトランジスタのコレクタを出力としているため、この構造的な違いが動作特性の違いを生んでいます。
したがって、回路の電圧条件や効率要求、発熱対策のニーズに応じて、標準タイプかLDOタイプを適切に選択することが重要です。設計の自由度や省エネ性能を重視するならLDOタイプ、入出力電圧差が大きく高電流が必要な場合は標準タイプが向いています。
このように、標準タイプとLDOタイプはそれぞれの長所短所を理解し、用途に合わせて賢く使い分けることが成功する電源設計のポイントと言えるでしょう。
◀図4:3端子レギュレータの内部回路構成。標準タイプとLDOタイプ(出力部)
予期せぬ出来事 ~ 外部からの異常対策 ~
3端子レギュレータはシンプルで信頼性の高い電源ICですが、使用時には放熱対策をはじめ、入力や出力に想定外の異常電圧が加わる場合への対策も不可欠です。図5A~Dに示すような具体的な保護回路例を挙げて説明します。
例Aは、入力端子に一時的な高電圧が加わるリスクがある場合の対策で、入力に抵抗とツェナーダイオードを追加して過電圧を抑制します。 例Bは、複数電源構成やコンデンサの影響により、入力電圧よりも一時的に出力電圧が高くなってしまう現象に対する対策です。この場合、保護ダイオードを入力と出力間に設置し、電圧の逆流を防止します。 例Cは、インダクタンスを持つ負荷を駆動する際に出力電圧が負方向に振れる可能性があるため、その電圧変動を保護する回路です。 例Dは、正負両電源を用いるオペアンプ回路で、負電源が先に立ち上がることで正電源側出力が一時的に負電圧になる際の保護として、BとCの回路を組み合わせた形で対応します。
また、基本的な注意としては、3端子レギュレータの入力端子には定格電圧を超えない電圧を印加し、グラウンド端子よりも過度に低い電圧をかけないことが重要です。これらを守らないと素子の破壊や誤動作を招く恐れがあります。
このように、異常電圧や逆電流といった外部からの予期せぬトラブルに備えることは、3端子レギュレータの信頼性を確保し、安全な電子回路設計を行うキーとなります。設計時は必ずデータシートの指示に従い、必要な保護ダイオードや安全部品を適切に配置しましょう。
◀図5:入出力異常からの保護回路例
使用時の注意点
3端子レギュレータを使用する際には、いくつかの重要な注意点があります。まず、3端子レギュレータは入力電圧と出力電圧の差によって生じる余剰電力を熱として放出するため、必ず発熱対策を施すことが欠かせません。特に入力電圧と出力電圧の差が大きい場合や高負荷で動作すると発熱量が増大し、放熱不足だとICの損傷や動作不良につながるため、ヒートシンクの装着や基板の銅箔面積拡大など適切な放熱設計を行う必要があります。
次に、3端子レギュレータは基本的に入力電圧が出力電圧よりも高い状態で使用されるため、出力電圧が入力電圧を超えないように設計しなければなりません。電源オフ時に出力端に大きなコンデンサが接続されている場合や、他の電源からの逆流で出力電圧が入力電圧を一時的に超えることがあり、そのままだとレギュレータが損傷するリスクがあります。このため、逆流防止用の保護ダイオードを設けるなどの対策が必要です。
また、入力端子に印加される電圧はレギュレータの定格を超えないよう注意してください。定格電圧以上をかけると素子が破壊される恐れがあります。さらに、入力端子がグラウンド端子より0.5V以上低い電圧になることも、素子の破壊の原因となるため避けなければなりません。
最後に、3端子レギュレータの安定動作には、入力・出力端子近くに推奨容量のコンデンサを取り付けることが必須です。特に出力コンデンサは低ESRタイプを選ぶなど、発振防止と負荷変動対応において重要な役割を果たします。
以上を守ることで、3端子レギュレータの安全かつ安定した動作が期待でき、長期にわたり信頼性の高い電源回路を実現できます。
3端子レギュレータの主要メーカー
まとめ
3端子レギュレータはシンプルながらも安定した電源供給が可能な優れたICであり、その多様なラインアップにより幅広い電子機器に対応しています。 基本的な選定基準は、回路の出力電圧と最大電流容量であり、その上で「標準タイプ」は入力と出力の電圧差が大きい場合に適し、信頼性が高い一方、発熱や効率面での課題もあります。 一方「LDOタイプ」は低ドロップアウト電圧で動作し、省電力化や低電圧動作が進む現代の電子機器に最適ですが、出力コンデンサの選定など安定性確保に注意が必要です。 さらに、予期せぬ入力過電圧や逆流を防ぐための保護回路設計や、発熱対策として適切な放熱手段の確保も不可欠です。 これらを踏まえ状況に応じた最適な3端子レギュレータを選択・設計することで、安全かつ効率的な電源回路を実現でき、電子機器の信頼性と性能向上に大きく寄与します。


