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      • 発行日 2023年6月1日
      • 最終変更日 2024年1月18日
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    3端子レギュレータの選び方と注意点

    取材協力:東芝セミコンダクター社

    変換と安定化 ~ 電源の分類 ~

    —— 今はスイッチング電源が主流だと教わりました。

    電子機器内部の各所に電源を供給するために電圧変換と安定化機能を備えた回路が、レギュレータ(Regulator)です。要求電圧や電流容量などは個々に異なるので、相応しいレギュレータの方式は一通りではありません。

    図1は、レギュレータICの方式分類です。スイッチングレギュレータは外付け部品が必要となりますが、降圧・昇圧共に可能で、高効率・低損失なため近年大量に使用されています。ただし、ノイズやリップルなど出力特性の面では、リニアレギュレータと比較すると、見劣りします。別の言い方をすれば、入出力間の電圧差が比較的小さく電流容量も少ない場合や、高感度・微小レベルを扱う回路には、リニアレギュレータが有利です。

    ◀図1:レギュレータICの方式分類

    シリーズレギュレータの原理を図2に示しました。入出力間にまたがるトランジスタは、可変抵抗器として作用し、負帰還によって出力電圧が一定になるように制御されます。入出力の差電圧 x 出力電流に相当する電力損失があること、負帰還部を除けば入力電流は出力電流と等しいことを、憶えておくと良いでしょう。なお、シャントレギュレータは、基準電圧の発生など限られた用途で用います。

    ◀図2:シリーズレギュレータの原理

    簡単で安心 ~電源の定番IC ~

    —— 一枚のボードでも、何種類も電源が必要で困っています。

    回路設計の内で、電源は重要な要素なのですが、システムの中心機能の設計が先で、電源は後回しになりがちです。すなわち、電源設計に与えられる時間が少ないわけです。一方、電源をゼロから設計するというのは大きな負担です。効率の良い電圧変換と優れた安定度を満たす回路を考えるだけでも大変ですが、実際の機器に適用するわけですから、過熱や負荷の短絡などに備えた保護回路なども合わせて考えなければなりません。そんなときに助かるのが3端子レギュレータです。3端子レギュレータは、入力と出力、それにグラウンドの3端子しか無いシリーズ方式のレギュレータで、市場で永年実績を持つ電源の定番ICです(図 3)。

    ◀図3:3端子レギュレータの例

    入出力に指定されたコンデンサをつなぐだけで使用することができ、特別な設計が要らないのが最大の特長です。もちろん、各種の保護回路も内蔵されています。出力電圧は固定で、3.3V、5V、12Vや負電圧などがあり、電流容量も30mA~1Aクラスまでラインアップ(ただし、各社で異なる)されています。

    因みに、外部回路の付加によって電圧可変や出力電流増強なども可能ですが、それでは設計不要のシンプルさが失われてしまうので、出力電圧の可変やオンオフなどが必要なときは専用の制御ピンをプラスしたタイプのレギュレータを利用するのが便利です。

    標準タイプとLDOタイプ ~ 選択と応用 ~

    —— 電圧と電流が回路に合うものを選べば良いわけですね。

    3端子レギュレータ選択の基本は、出力電圧と出力電流です。ただし、3端子レギュレータは、初めて世に出てから年月を経ており、その間にいくつかの派生を生じています。もっとも典型的なのは、LDO(Low Drop-out)タイプと呼ばれる3端子レギュレータの出現です。従来からのものを標準タイプと呼ぶとすれば、LDOタイプは、入出力の電圧差(ドロップアウト電圧)が小さくても使えるのが特長です。標準タイプでは、ドロップアウトを最低2V程度は確保しなければならないのに対して、LDOタイプのものでは 1V以下、品種によっては0.5V以下でも動作します。最近の電子回路は低電圧化が進んでいるため、大きなドロップアウト電圧を確保できないことがあります。また、ドロップアウト電圧が小さければ電力損失も小さくなるので、低消費電力になります。

    図4は、標準タイプとLDOタイプ(出力部)の内部ブロック例です。両者では、入出力にまたがるトランジスタ(パストランジスタ)の使い方に違いがあり、標準タイプはNPNトランジスタのエミッタを出力(エミッタフォロワ)としているのに対して、LDOタイプでは、PNPトランジスタのコレクタから出力しています。こうすることで、小さなドロップアウト電圧での動作が可能になるのですが、実は、このことが負帰還の特性にも違いをもたらすため、LDOタイプは標準タイプに比べて、負帰還の安定範囲が狭く発振しやすくなります。このため、LDOタイプは出力に接続するコンデンサの容量やESR(等価直列抵抗)等に注意が必要です。具体的はメーカーや品種、それに出力電流や負荷端に接続されるコンデンサの種類などによって安定性が異なるので、使用に際してはデータシートの指定に従うと共に、実装後は、発振有無や過渡応答確認など、安定性をチェックしてください。なお、標準タイプなら発振の危険がないというわけではなく、LDOタイプ同様に、指定されたコンデンサを入出力の直近に接続する必要があることに変わりありません。

    ◀図4:3端子レギュレータの内部回路構成。標準タイプとLDOタイプ(出力部)

    予期せぬ出来事 ~ 外部からの異常対策 ~

    —— 入出力のコンデンサ以外に注意することはありますか?

    3端子レギュレータは、簡単に安心して使えるのがメリットですが、放熱などパワーデバイスとしての注意事項は守らなければなりません。また、入力や出力に異常な電圧が加わるなどの事態が予想される場合は、ICの保護対策が必要です。図5A~Dに、その例を示します。Aは、入力に一時的な高電圧が加わる恐れのある場合の対策で、入力に抵抗とツェナーダイオードを付加します。Bは、出力電圧が入力よりも高くなる場合の対策です。何らかの原因で入力電圧が急低下した場合、出力には大容量のコンデンサが接続されているために電圧が維持され、一時的に入力よりも出力の方が高電圧になることがあります。同様に、複数の電源からなる回路の場合も、他の電源から電源供給される形になって、出力電圧が入力より高くなる可能性があります。したがって、複数電源の場合は、各々にBの保護ダイオードを付けておく必要があります。Cは、出力がゼロを超えて負まで振れる場合の保護回路です。インダクタンス負荷などの駆動回路で必要になります。Dは、オペアンプなどで正負2電源とする場合の保護例です。マイナス側の電源がわずかに速く立ち上がった場合に、プラス側の出力が負電圧になって立ち上がらなくなることを防止しするためのもので、BとCを組み合わせた形になっています。

    ◀図5:入出力異常からの保護回路例

    使用時の注意点

    3端子レギュレータを使用する際の注意点について見ていきましょう。

    発熱に対して対策を施すこと

    3端子レギュレータを使用する際には、発熱への対策を施すことが欠かせません。 3端子レギュレータが低電圧に変換する仕組みは、入力された電圧と出力する電力の電圧差を熱エネルギーとして逃がすことです。 そのため、3端子レギュレータが電圧の変換を行う際には必ず熱が発生し、長時間にわたり多くの電圧を下げ続けていると発熱量が多くなり煙が上がることもあります。 電圧を下げる際の発熱量は、入力電圧と出力電圧の差が大きいほど多くなります。 大きな熱エネルギーが発生すると考えられる場合は、発熱への対策が必要です。

    入力電圧より出力電圧が高くなった際の対策を施すこと

    次に、出力電圧が入力電圧より高くなった場合の対策も施しましょう。 3端子レギュレータは、入力電圧を出力電圧より高くする使い方が基本です。 そのため、出力電圧が入力電圧より高くなってしまった場合、3端子レギュレータが故障してしまう可能性もあります。 出力電圧が入力電圧を上回るケースとして、電源をオフにして入力電圧がゼロになっている状態で、出力側の電圧が高い状態を維持しているケースが考えられます。 出力電圧が常に入力電圧よりも低くなるよう対策をしましょう。

    入力端子への電圧量に注意すること

    3端子レギュレータを使用するにあたって、入力端子への電圧量に注意することも大切です。 具体的には次の2つのポイントに注意しましょう。

    入力端子への電圧量で注意するべきポイント

    • 入力端子に定格以上の電圧をかけないこと
    • 入力端子にGND端子より0.5V以上低い電圧をかけないこと

    定格以上の電圧を加えないことは電気を活用するうえで基本と言えますが、GND端子より低い電圧を加えないことにも注意してください。 入力端子に定格以上の電圧が加わったり、GND端子に比べて低すぎる電圧が加わったりすると素子が壊されてしまいます。 3端子レギュレータを使用する際には、出力端子の電圧量だけでなく、入力端子の電圧量にも意識を向けて使いましょう。

    電源を準備すること

    電源を準備しなければ回路を作れません。 3端子レギュレータだけでは電源供給ができないので、電源となる装置を準備する必要があります。 電源装置や電圧コンバータを使用しても構いませんが、ACアダプタをブレッドボードにつなげて電源とすることも可能です。 電源供給のために電源を用意することも忘れないようにしてください。

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