この回路はシンプルなこともあり、「つなげば動く」と考えがちです。しかし、この回路の動作はアナログです。それに加え、水晶という機械振動素子が回路中に在ることなどの理由から、幾つもの配慮が必要です。回路図の段階で言うと、例えば、C1とC2の容量は水晶メーカで指定された値にしますが、水晶のデータシートに記載されている値は、配線やデバイスの入力等によって形成される容量も含めた値です。絶対値が数pF~20pF程度と小さいので、浮遊容量なども無視できませんから、実装するC1、C2は、他の容量を差し引いた値にします。入出力間の浮遊容量も小さく抑えてください。
もう一つは、RxとRdです。これらは、発振の強度(負性抵抗や励振電力)を調節するための抵抗です。水晶発振では、水晶振動子を振動させるのに十分なゲインを必要とする一方で、オーバートーンの周波数帯でゲインが大き過ぎると、回路がオーバートーン発振してしまうなど、信号の純度や安定度の低下を招くからです。ちなみに、RxやRdが要るのか要らないのか、要る場合はいくらの値にするかは、水晶とインバータの組み合わせで決まります。値は実験的に求めることもできますが、マイコンなどと組み合わせる場合には、水晶メーカーのWEB上で各マイコンに対応するRxとRdの値がリストアップされているので、これを利用するのがよいでしょう。
次は、回路の動作についてです。意外に知られていないことの一つに、発振開始の直流条件があります。インバータの入出力間に5mV~200mV程度の電位差が無いと、水晶が振動するキッカケが得られず、発振が始まりません。実際に「発振しない」というトラブルの一部は、電位差の不足が原因であることが分かってきています。もう一つ知っておくと良いのが、入力と出力の信号波形の違いです。出力側はインバータの出力ですから、方形波です。言い換えれば、高調波成分を多量に含んでいます。これに対して、入力側は水晶振動子の自由振動波形が表れますので、ほとんどの場合に正弦波です(図4)。