- 発行日 2025年11月26日
- 最終変更日 2025年11月26日
- 5 分
タイミングソリューションのための精密部品製造
精密部品製造には、高精度なタイミング技術が不可欠です。本記事では、正確なタイミングを実現する原子時計などの技術を紹介し、それらを活用する際に直面するエンジニアリング上の課題と、その解決策について解説します。

精密部品の製造では、製造工程全体で高いタイミング精度を提供する先端技術が不可欠です。この精度を支えるのが、原子時計や水晶発振器といった先端技術です。 これらのデバイスは、製品品質から生産効率、プロセス同期に至るまであらゆる要素に影響を与えるタイミングを提供します。
本記事では、精密部品製造における高度なタイムキーピングの重要性、タイミング精度を実現する主要技術、そしてその分野で直面するエンジニアリング上の課題とその解決策について解説します。
原子時計技術の概要
原子時計の実用化は1949年に始まり、1950年代半ばには英国の国立物理学研究所で高精度のセシウム原子時計が開発されました。原子時計は原子の自然振動周波数、最も一般的なのはセシウム133原子の自然振動数を基準に時刻を計測します。原子時計は極めて高精度で、その精度は一定期間にどれだけ時間が進んだり遅れたりするかで評価されます。セシウム原子ビーム時計は、3000万年で±1秒の誤差という驚異的な精度を誇ります。原子時計は、半導体製造、航空宇宙、医療機器など、精密部品製造の分野で重要な役割を果たします。
製造業における原子時計の活用
実際の生産設備に原子時計を直接組み込むことは稀ですが、工場全体で原子時計を基盤とした高精度タイミングシステムを導入することで、メーカーは必要な高精度タイミングを実現できます。
具体的には、GPSや国のタイムサーバーと同期し、NTP(Network Time Protocol)やPTP(Precision Time Protocol)を介して施設全体に配信する方法で行われます。これにより、現場の設備をローカルイーサネット経由でタイミングシステムに接続することで、相互に時刻を同期できます。
これにより、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)、センサー、ロボットなどの設備を高精度に連携させることができます。特に航空宇宙産業のようにタイムスタンプが重要な分野では、原子時計によって製造工程で「いつ何が起きたか」を正確に記録する手段になります。
一方、原子時計は高価で繊細、感度が高く、消費電力も大きいという欠点があります。そのため、多くの製造現場その精度が必要というわけではありません。多くの場合、水晶発振器や高精度クロックモジュールで十分な精度が得られます。しかし、医療機器や航空宇宙など、タイムスタンプの正確性が製品の安全性に直結する分野では、原子時計が最も信頼性が高く正確なソリューションです。

水晶発振器の精度
水晶発振器は、水晶振動子を用いて安定した周波数を生成し、正確な時刻を保持する技術です。小型で低コストなため、プリント基板、PLC、各種センサーなどに広く搭載されています。ただし、精度は原子時計ほど高くなく、一般的には月に±15~±20秒程度の誤差があります。しかし、価格は原子時計より数千倍も安価で、消費電力も大幅に少ないため、腕時計や産業機器に広く採用されています。
製造業における水晶発振器の利用
水晶発振器は、製造業における自動化、制御、監視に欠かせない存在です。代表的な例として、SCADAシステムでの利用が挙げられます。また、モーター、サーボ、ロボットの制御、CNC工作機械、また温度や流量の測定、状態監視、品質管理用センサーにも用いられています。
精密部品製造では、生産設備内で内部クロック信号を生成するために水晶発振器が不可欠です。ただし、時間の経過とともに精度がずれていくため、タイムスタンプが必要な高精度作業では設備同士の定期的な同期が重要となります。
また、水晶発振器を選ぶ際には使用環境にも注意が必要です。例えば、ノイズが多く高温で振動の激しい環境や、電磁干渉があるなど厳しい環境では、そうした条件向けに設計された特殊なタイプが必要です。そこで重要となるのが、温度補償型水晶発振器(TCXO)です。
温度補償型・恒温槽付水晶発振器
使用環境の温度が変化する状況では、水晶発振器がそのままでは対応できない場合があります。温度が変動すると水晶の振動周波数が変化し、結果としてタイミング精度に影響を及ぼすためです。温度補償型水晶発振器(TCXO)は、温度変化があっても周波数の安定性を維持し、タイミング誤差を防ぐよう設計されています。TCXOは動作環境の温度を監視し、周波数への影響を予測して出力周波数を補正します。一方、恒温槽付水晶発振器(OCXO)は、内部に搭載した微小ヒーターで温度を一定に保ち、さらに高精度を実現します。TCXOやOCXOは、標準的な水晶発振器よりも高い精度を提供します。
使用環境と選定ポイント
温度補償型水晶発振器は、石油・ガスのパイプライン、風力・太陽光発電所、水処理施設などの過酷な環境で使用されます。恒温槽付水晶オーブン制御型発振器(OCXO)は、温度変化が大きい計測用途(メトロロジー)で有効です。
原子時計レベルの精度は不要だが、 周波数安定性の向上が求められる場合には、TCXOやOCXOの採用を検討しましょう。これらの発振器は、屋外環境、機械設備の近く、あるいは暖房・換気・空調システム内など、温度変化の影響を受ける環境で特に有効です。
周波数安定性の要件
周波数安定性に関する要件は、システムで許容可能なタイミング精度の誤差レベルによって異なります。
安定性に影響を与える要因は多岐にわたります。これには温度などの環境条件に加え電圧変動なども含まれます。非常に正確なタイムスタンプや、複数の機械間での高精度な通信・同期を必要とするシステムにおいては、一般的な民生用電子機器よりも精度の高いタイミングシステムが求められます。
安定性はppm(百万分率)、ppb(十億分率)、1日のドリフト量など様々な方法で表されます。例えば、1ppmは1MHzあたり1Hzの変動を意味します。標準的な水晶発振器は±10~±100ppmの範囲で変動しますが、原子時計は0.000001ppm未満とされています。
必要な周波数安定性を決定するためのポイント
- システムは、どの程度の期間にわたってどれほど正確である必要があるか?
- システムが動作する環境条件は何か?
- システムは外部から同期されるか?
産業用オートメーションは、玩具や一般的な時計よりも高い周波数安定性を必要とします。 一方、IoTや無線センサーは産業用オートメーションよりも高い安定度を要求する場合があり、高速通信ではさらに高い精度基準が求められます。
システム別ソリューション
精密部品製造におけるタイミングの要件は、用途によって大きく異なります。適用分野にはCNC加工、計測技術、3Dプリント、ミラーやレンズの製造 、電子機器製造(プリント基板製造など)、半導体製造が含まれます。
製造機械は、機器の動作経路や加工タイミングを同期するために正確なタイミングを必要とします。品質保証プロセスでは、スキャンレートの決定や、タイムスタンプ付きの再現可能な位置・測定データの生成において精密なタイミングが不可欠です。
積層造形(3Dプリント)では、ツールヘッドの動きと材料の堆積を正確に同期し、品質管理のためのタイムスタンプ付きログを生成する必要があります。
プリント基板製造では、はんだ付けや部品のピック&プレースに正確なタイミングが求められます。 フォトリソグラフィーやエッチングなどの半導体製造プロセスでは、極めて高精度なタイミング制御が不可欠です。一方、レーザーを用いた微細加工では、レーザーパルスの精密なタイミング制御が求められます。
適切なタイミング技術の種類は用途によって異なります。高度な計測技術や研究用途ではセシウム原子時計が必要となる一方、CNC加工や3Dプリントでは、精度向上と環境耐性の両方が求められる場合に温度補償型(TCXO)やオーブン制御型(OCXO)水晶発振器 が必要となります。
RSはPLC・HMI・産業用コンピューティング 、MOSFET製品を幅広く提供し、産業オートメーションを支えています。


