- 発行日 2025年4月30日
- 最終変更日 2025年4月30日
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オシロスコープを使って電気信号を可視化・解析する方法
オシロスコープの基本原理から波形の読み取り方、測定テクニックまでを解説。電子工作や教育現場で役立つ活用法をRSコンポーネントがわかりやすく紹介します。

はじめに:なぜオシロスコープが重要なのか?
オシロスコープは、電気信号の時間的変化を画面上に波形として表示し、その特性を視覚的に分析するための測定器です。目に見えない電気信号を目に見える形でとらえられるという点で、電気・電子分野において極めて重要な役割を担っています。
オシロスコープを使うことで、信号の大きさ(電圧)、周期、周波数、ノイズ、歪み、立ち上がり・立ち下がり時間、さらには位相差などを詳細に把握できます。これは、単なる電圧計やテスターでは得られない情報であり、回路の設計や検証、故障診断の精度を飛躍的に向上させることができます。
日本国内でも、大学や専門学校での電子工学教育、製造業での品質管理、車載機器の開発、通信機器の評価、医療機器の安全試験など、さまざまな現場でオシロスコープは日常的に使用されています。また、日本特有の条件、たとえば100VのAC電源や50Hz/60Hzの周波数区分、JIS規格との整合性、学校教育での活用ニーズなども、選定時には重要な要素です。
この記事では、初心者にもわかりやすい形で、オシロスコープの基本から選び方、使用方法、アプリケーション別の実践例、よくあるトラブルとその対処法までを総合的に解説していきます。
オシロスコープの基本を理解する
まず、オシロスコープにはアナログ式とデジタル式の2種類があります。アナログオシロスコープはかつて主流だった装置で、CRT(ブラウン管)を使ってリアルタイムに波形を描画する仕組みでした。しかし、現在では、メモリやマイコンを活用したデジタルストレージオシロスコープ(DSO)が主流となり、記録・保存・解析機能が飛躍的に進化しています。
オシロスコープを使う上での基礎概念には以下のようなものがあります。
- タイムベース(時間軸):信号の時間的な変化を表示。1目盛あたりの時間(例:1ms/div)で調整可能
- 垂直スケール(電圧軸):波形の振幅を表す。1目盛あたりの電圧(例:2V/div)で設定
- トリガ:波形を安定して表示させるための基準点
- 波形表示:サイン波、矩形波、パルス波、三角波、PWM波などの形状を観察可能
また、信号帯域幅(MHz単位)、サンプリングレート(MS/sまたはGS/s)、メモリ深度(ポイント数)は、表示される波形の正確さや解析能力を左右する重要な性能指標です。特に誤差原因の多くは、サンプリングレート不足や帯域制限によって生じることがあります。
オシロスコープの種類と選び方
用途に応じて、オシロスコープにはさまざまな種類があります。以下は主なカテゴリーです。

ベンチトップ型オシロスコープ
最も一般的なタイプで、教育機関、開発現場、試験ラボなどで広く使われています。機能が豊富で高性能ですが、サイズが大きめで持ち運びには不向きです。
ハンディ型オシロスコープ
持ち運びに便利な小型タイプで、フィールドワークや車載機器の診断に適しています。耐衝撃性やバッテリー駆動など、現場仕様に特化しています。
PC接続型オシロスコープ
PCのUSBやLANに接続して使用する省スペースタイプ。表示・操作はPC上で行い、コストパフォーマンスに優れます。ホビーユースや小規模ラボに向いています。
混合信号オシロスコープ(MSO)
アナログ波形とデジタル信号を同時に測定可能。マイコン開発や組み込みシステムのデバッグに最適です。
日本市場では、機材設置スペースの限られる教室やオフィス環境を考慮して、PC型やコンパクト型の需要も高まっています。
比較すべき主な仕様と機能
オシロスコープを選ぶ際には、以下の仕様と機能のバランスが重要です。
- 帯域幅:測定対象の最高周波数の3〜5倍を確保するのが目安
- サンプリングレート:信号を正確に再現するためには、ナイキスト定理に基づいて2倍以上の速度が必要
- チャンネル数:2chが標準。複数信号の同時比較には4ch以上が便利
- メモリ深度:長時間・高解像度の記録に必要
- トリガ機能:特定のイベント発生時に波形をキャプチャ。エッジ、パルス幅、ビデオ、プロトコルなど
- 表示解像度:教室や屋外でも見やすいディスプレイ性能が求められる
- 接続性:USB、LAN、Wi-Fi対応でデータ保存やリモート操作が可能
初めてオシロスコープを使うときの準備
購入後、最初に行うべきことは、正しい設置と安全確認です。日本の100V AC電源で使用する場合、接地(アース)を正しく取ることが大切です。次に、インターフェースの把握です。各種ノブやボタン、メニュー表示を理解し、表示単位(time/div, volts/div)の調整を行いましょう。
プローブの接続にも注意が必要です。正しいアッテネーション比(1:1または10:1)の設定、プローブのグラウンドクリップの接続、そして使用前のプローブ補正(compensation)を忘れずに行ってください。
校正は波形の正確な表示に欠かせません。多くの機種には本体にプローブ補正信号出力端子があり、これを使ってプローブの周波数特性を調整します。適切な校正が行われていない場合、位相差や波形歪みといった誤差原因になりえます。
代表的な信号タイプの測定方法
オシロスコープは多様な信号に対応しています。
- DC信号:定電圧源のチェックなど、安定性やオフセットの確認に使用
- AC信号:周波数、振幅、位相差の確認。オーディオ信号や電源波形に利用
- パルス・デジタル信号:立ち上がり時間、デューティ比、周期などを解析。PWM信号の確認にも利用
- ノイズや変動信号:平均化やFFT表示で傾向を分析。フィルタ設定によって不要な高周波ノイズを除去可能

オシロスコープの用途
電子回路設計とデバッグ
電子回路の設計とデバッグにおいて、オシロスコープは極めて重要な役割を果たします。特にアナログ回路においては、電圧の変動や時間的挙動を正確に捉えることで、回路が意図した通りに機能しているかどうかを判断することができます。たとえば、電源ラインのリップル電圧やスパイク、レギュレータの応答速度、アンプの出力波形の線形性、オペアンプの飽和動作など、数多くの測定ポイントが存在します。
設計段階では、試作基板上で信号の立ち上がり時間や伝送遅延を確認し、適切な部品選定やパターン設計がなされているかを検証するのに役立ちます。特に高速信号や高精度なアナログ信号では、誤差原因となるノイズやクロストークの影響を定量的に観察することが求められます。
日本国内の製造業ではJIS規格に準拠した設計が一般的であり、回路の動作が基準値に収まっているかを定量的に確認する必要があります。オシロスコープを活用することで、試験項目ごとの波形を蓄積・比較し、設計の妥当性を客観的に判断することができます。また、複数チャンネルによる差動信号の比較や位相差の測定、電圧と電流の同時計測など、総合的な回路特性評価にも応用されます。
組み込みシステムとマイコン
マイコン(マイクロコントローラ)を使った組み込みシステムでは、デジタル信号の入出力タイミング、PWM制御、ADC変換の挙動など、時間軸に対する解析が欠かせません。オシロスコープを使えば、GPIOのトグル出力、PWM波形のデューティ比、センサからのアナログ入力信号の変化などをリアルタイムで確認できます。
また、I2C、SPI、UARTといった通信プロトコルは、オシロスコープのプロトコル解析機能によって可視化・デコードが可能です。これにより、正しいデータが送受信されているか、エラーやタイミングミスマッチがないかといった詳細な解析が行えます。通信エラーの原因がハードウェアにあるのか、ソフトウェアにあるのかを切り分ける際にも、オシロスコープは非常に有効なツールです。
特に組み込み開発では、イベントが突発的に発生することも多く、単純なループの中での信号変化をトリガ機能によって確実に捉えることで、バグの特定やタイミングの最適化が行えます。MSO(Mixed Signal Oscilloscope)では、デジタル信号とアナログ信号の両方を同時に解析できるため、ソフトウェアとハードウェアの連携部分の挙動を詳細に評価することが可能です。
自動車診断
近年の自動車には多くの電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、センサ信号やアクチュエータ制御、通信プロトコルの検証が不可欠です。オシロスコープは、これらの信号を可視化するために広く使用されています。
たとえば、クランクシャフトセンサやカムシャフトセンサの出力波形を観察することで、点火タイミングのずれやセンサ不良を診断できます。また、インジェクターの駆動パルスやイグニッションコイルの波形を測定することで、燃焼不良や失火の原因を特定することも可能です。
車載通信では、CANやLINといったバスシステムが標準となっており、これらの信号が正しく伝達されているかどうかの検証が重要です。通信波形の立ち上がり時間、バスレベル、ノイズの重畳状況などをオシロスコープで測定することで、通信トラブルの早期発見に繋がります。日本の軽自動車やEVなど、狭いエンジンルームでも使えるコンパクトなハンディ型オシロスコープは、実地での診断作業に適しています。
通信および高周波システム
通信機器や無線システムでは、高周波信号の波形を正確に測定・解析することが求められます。AMやFMの変調波形、ディジタル通信の信号形状、立ち上がり時間、信号遅延、ジッターなどをオシロスコープで観察することで、回路の設計妥当性や信号品質を評価することが可能です。
また、高速通信では誤差原因となるリフレクションやクロストークが波形に影響を及ぼすため、アイパターンやタイミングマージンをオシロスコープ上で確認することが有効です。適切なプローブ選定も重要で、高周波信号には高帯域のパッシブプローブやアクティブプローブ、差動プローブを使い分ける必要があります。
RF系の測定では、インピーダンス整合が測定精度に直結します。特に日本の無線法や技術基準適合に対応した機器の測定では、50Ω終端や同軸ケーブル、シールド環境の整備が求められます。これらの条件下での波形解析には、高精度なトリガと高帯域なオシロスコープが必須です。
医療機器テスト
医療機器の開発や品質保証においては、微小な生体信号を正確に測定し、ノイズやドリフトのない状態で波形を解析することが重要です。心電図(ECG)や脳波(EEG)などの信号は、μVオーダーで変化するため、高感度かつ低ノイズの測定系が必要です。
オシロスコープは、信号増幅回路やフィルタ回路の特性確認、異常検出機能の動作検証、インターフェースの信号整合性の確認などに使われます。絶縁プローブや光アイソレータ付きプローブを使用することで、安全性と信号品質の両方を確保できます。
また、日本国内ではIEC 60601規格の準拠が求められており、医療機器開発においてはEMC試験や電源ノイズの評価なども含めて、オシロスコープによる波形観察が活躍しています。測定時には、接地・絶縁の確認や高電圧との絶縁距離を確保するなど、安全性に最大限配慮する必要があります。

教育と研究
オシロスコープは、日本の教育現場でも広く導入されており、電子工学、物理学、情報通信などの授業で活用されています。高校や高専、大学の実験では、波形観察によって基本的な電気回路の理解が深まり、実践的なスキル習得にも役立ちます。
たとえば、RC回路の過渡応答、オペアンプの反転増幅回路、発振器の波形観察、PWM信号のデューティ比制御など、多様な実験テーマに対応できます。記録機能やスクリーンショット機能を使えば、レポート作成や発表資料への活用もスムーズに行えます。
また、研究室ではより高度な測定が必要とされ、FFT解析や長時間のデータ収集、自動測定スクリプトの作成など、発展的な活用が行われています。日本の教育機関では、操作が直感的であること、マニュアルやサポートが日本語で提供されていることも重要視されています。
よくある問題とトラブルシューティング
よくある問題とトラブルシューティング :
- 波形が表示されない:プローブの接続ミス、トリガレベルの不適切な設定、時間軸や電圧軸の拡大不足が原因
- 波形が歪んでいる・クリップしている:電圧レンジが狭すぎる、帯域幅不足、アッテネーション比が合っていない
- 表示が不安定:適切なトリガモード(オート、ノーマル、シングル)の選択が必要
- 位相差や数値が正しく測定できない:プローブ補正未実施、プローブ倍率設定のミスマッチ
- グラウンド問題:フローティング信号測定時の接地ループ、測定対象と共通接地していない
- 日本独自の注意点:100Vと200Vの単相二線の識別、商用周波数50/60Hzのトリガ選定など
まとめ:オシロスコープ選定と使用のポイント
はじめは中程度の性能からスタートし、使用目的が明確になった段階で上位機種に移行するのが無理のない選び方です。日本の住宅や学校では設置スペースが限られていることも多いため、小型機やPC接続型のメリットは大きいです。
また、測定精度を高めるためには、オシロスコープ本体だけでなく、プローブやアクセサリにも目を向けることが重要です。日本語対応のマニュアルやファームウェアが用意されている製品であれば、導入や教育のハードルも下がります。
測定データを記録・保存してレポートに活用する機会が増えているため、波形の保存や画像キャプチャ機能も活用するとよいでしょう。


