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    強誘電体メモリ FRAM ガイド
     
      • 発行日 2023年7月6日
      • 最終変更日 2024年3月25日
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    強誘電体メモリ FRAM ガイド

    取材協力:富士通セミコンダクター

    FRAMとは

    まずFRAMとは何か、特徴と構造について解説します。

    FRAMの特徴

    —— FRAMとは高速で動作する不揮発性強誘電体メモリのことです。

    FRAMではデータを保存するためにバッテリバックアップがいらず、他の不揮発性メモリより処理速度が速いことが最大の特徴。消費電力は少ないながら書き込み速度は高速で、多くの書き換えにも耐える耐久性を持ちます。FRAMとは他のメモリと比較して高速・少消費電力・耐久性という3つの特徴を誇るメモリのことです。

    FRAMの構造と記憶

    —— 強誘電体メモリであるFRAMは強誘電体薄膜を含む3層構造です。

    強誘電体とは電界を加えることで分極を生じさせながら電界をゼロにしても分極が残る絶縁体のことであり、一度電界が加わると強誘電性を発揮し、安定点に位置した後は電界がゼロになっても分極状態が記憶され位置が変わりません。そして分極が記憶された状態で電極を設けキャパシタを構成すれば、ヒステリシスが得られて記憶が可能となるため、記憶方法が他のメモリとは異なります。以上のようにFRAMは分極状態が記憶される規則素子である強誘電体を、金属の電極で3層構造にして挟んだ構造によって成り立ちます。

    記憶が飛ぶ ~ 半導体メモリの種類 ~

    —— 多様なメモリがありますが。

    電子機器で使用される半導体メモリにはSRAM、DRAM、FLASHをはじめ様々なものがあり、それぞれに進化を続けています。メモリを機能から眺めるとRAM (Random Access Memory)とROM (Read Only Memory)、そして揮発性か不揮発性かに分類できます<表1>。例えば、DRAM (Dynamic RAM)は読み書きが自在なRAMですが電源が断たれると記憶を失う揮発メモリ、FLASHは電源を切っても記憶を保持する不揮発メモリです。また、FLASHは書き込みもできますが書き込みの速度を考えると本質的にはROMです。

    表1:半導体メモリの分類

    適材適所 ~ メリット・デメリット ~

    —— 理想のメモリはできないのですか?

    RAMはROMの機能を包含しますし、揮発より不揮発に越したことはありません。したがって同図の右上に位置するメモリが望ましいと言えますが、メモリでは読み書きのスピードや消費電力なども重要です。<表2>はそれらの比較です。因みに不揮発性を要する用途を想定した場合、DRAMは揮発性なので候補から外れ、SRAM (Static RAM)ではバッテリバックアップを必要とします。

    不揮発メモリの比較

    FLASHは大容量化も可能な上、コスト的にも優れ、多くの箇所で使われるようになりましたが書き換えに時間がかかります。書き換え回数にも制限があるため、ROMとしての利用に向いており、プログラムの格納や大容量データのストレージとして利用されています。EEPROM (Electrically Erasable Programmable ROM)は、機器の設定パラメータ保存などによく使われますが、書き込みの速度と回数に難があるため、書き換えが頻繁に起こる用途には向きません。

    これに対し、FRAM(Ferroelectric RAM [注1])は大容量化や小型化等の面でFLASHに譲るものの、低消費電力かつ不揮発で書き換え回数は事実上無限 (100億回)です。さらに高速の読み書きができ、DRAMの様にワークメモリ(CPUの主記憶)としての利用も可能です。なお、表にはありませんが、MRAM (Magnetoresistive RAM)も不揮発で高速な読み書きが可能です。しかしながら、消費電力が大きいことや外部磁界の影響を受けることなどが課題とされています。

    [注1]:FeRAM、F-RAMなどとも呼ばれる。

    記憶のしくみ ~ 構造と原理 ~

    —— FRAMはどうやってデータを記憶しているのですか?

    FRAMのFは、Ferroelectrics (強誘電体)に由来し、強誘電体の持つ分極作用を利用したメモリです。あまり知られていませんが、考案されたのは50年以上も前(1963年発表)で、量産が始まってからも既に10年以上経過した実績あるメモリです。

    <図3a>に強誘電体の典型であるPZT (チタン酸ジルコン酸鉛) の結晶構造を示しました。格子の中にZr/Tiイオンが置かれていますが、このイオンは二つの安定点を持ち外部の電界によってその位置を変える性質(分極作用)があります。さらに、一度どちらかの点に位置すると電界を取り去っても位置が変わることがありません。つまり、分極状態が記憶されます。上下に電極を設けてキャパシタを構成し電極電圧と分極量をプロットすれば<図3b>のようなヒステリシス(履歴)曲線が得られ”1”,”0”を記憶できることになります。分極による記憶状態は安定で、FLASHなどで問題になるソフトエラー[注2]の危惧もありません。データの読み書きは、他のメモリと同様にビットライン (BL) とワードライン (WL) のマトリクスをトランジスタで結ぶことにより行います。

    [注2]:データの保持に際して宇宙線などによって希にデータが書き換わること。

    図3:PZTの結晶構造[a]と電気特性[b]

    FRAMでは電界をかけて電界を反転させ電流が流れるか否かで分極状態を判定します。そのため、FRAMでは原理的に破壊読み出しになりますが、直ちに再書き込みができるようになっています。なお、実際にはトランジスタとキャパシタを二組 (2T2C)使うものもあります<図4>。

    図4:データの読み書き

    因みにキャパシタに記憶させる点ではDRAMも同じで構造も似ていますが、DRAMはシリコン酸窒化膜キャパシタの蓄積電荷を利用しており、短時間で電荷が抜け、情報が揮発してしまいます<図5>。

    図5:FRAM (メモリセル) の断面構造

    サッと憶えて忘れないから ~ 単体FRAMの適用アプリ ~

    —— FRAMはどんなものに応用されていますか?

    FRAMは、メモリ単体やSoCなどに組み込まれる形で提供されています。単体FRAMを適用する第一のアプリケーションは、これまでSRAMバックアップやEEPROMを使う他なかった分野です<表6>。

    表6:単体FRAMのアプリケーション例

    FRAMならSRAMのようにバックアップの電池が不要になるほか、書き換え時間が短いので電源オフ時の機器設定状態の格納なども素早く確実に行え、書き換え回数も気にせずに済むからです。そのため、ドライブレコーダ、スマートメータ、複合機のカウンタなどのようにリアルタイムで頻繁に書き換えが起こる用途に適しています。ICカードやRFIDなどにも使われています。例えばRFIDでは使える電力が極小であるためEEPROMを使うとデータの書き込みと読み出しで通信距離が異なってしまうことがありましたが、FRAMなら問題を解決できます。消費電力量は電力×時間なので、高速・低消費電力性能が活きるわけです。因みに、単体FRAMのインタフェースはSPIやパラレルなど他のメモリと同じなので、特別な設計は必要ありません。

    高速不揮発メモリの未来 ~ 組み込み応用 ~

    —— FRAMは、単体以外の使われ方もあるのですか?

    FRAMは、RFIDタグ用LSIなどASIC(特定用途向けIC)に組み込まれているものが多数あります。一方、汎用的な応用のひとつにマイコンへの搭載が挙げられます。FRAMマイコンはフラッシュマイコンに比べてはるかに高速なデータ書き込みが可能なほか、不測の電源遮断でもデータを速やかに格納、電源再投入に際しても迅速に復帰できます。低消費電力かつ不揮発な点を活かし敢えてこまめに電源を切って省エネを図るといった使い方も可能です。また、FRAMはROMの機能・性能を有するので、プログラム領域としても使うことができ、ソフトウエア開発における容量制限の自由度が大きいというメリットもあります。

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