水晶振動子 ガイド

取材協力:京セラ株式会社

電子回路の源
~起源と成り立ち~

—— 高精度な発振回路には水晶が使われますね。

水晶の振動を元にした発振回路は、通信機器などの周波数信号源、時計(クォーツ)のタイミング源、テレビのカラーバースト信号源などとして、従来から大量に使われてきました。近年では、デジタル回路のクロック源として、膨大な数が使われています。発振回路には、水晶発振の他に、LC発振、CR発振、セラミック素子を使った発振などがありますが、水晶発振ではppmオーダの精度が得られるのに対して、他は%の精度が許容できる回路に限られます。

ちなみに、水晶が電気回路素子として使えるのは、水晶に圧電効果があるからです。フランスのキューリー兄弟らが圧電効果を見出したのは、1880 年~1881年にかけてのことですし、アメリカで水晶発振器が発明されたのも1920年代です。トランジスタの発明は1948年、ICが生まれたのは1958年とされていますから、水晶は半導体などよりずっと古くから利用されてきたわけです。

水晶は水晶から造る
~ 原理と構造 ~

—— 水晶振動子はどうやって作るのですか?

水晶の組成は、石英(SiO2:二酸化ケイ素)です。また、現実の水晶振動子は人工水晶でできています。実は、その人工水晶は、ラスカと呼ばれる天然の水晶が原料です。アルカリ溶液を満した炉(オートクレーブ)の中にラスカを入れ、高温高圧中で溶かし、炉内の温度を制御することで発生する自然対流により、高い純度で再結晶した大きな人工水晶を得ています。振動子にするには、これを薄く切り出します。

その際に、結晶軸に対してどのような角度で切り出すかで、周波数温度特性や振動モードが決まります。最も多く使われるMHz帯の水晶では、ATカットと呼ばれるものが広い温度範囲で、偏差の小さな特性が得られます。腕時計などに用いる水晶では、室温(体温)付近で温度係数がゼロになるような角度で切り出します(図1)。

図1:水晶片の切り出し角度と温度特性
左はMHz帯の発振に、右は時計に用いる
        
 
     

振動モードというのは、水晶の機械的な振動形態のことです。ATカットでは厚み滑り振動といって、丁度、まな板の上に豆腐を載せて揺すったときのような動きになります。この場合の発振周波数はカットの厚みで決まり、 f=1.650/t (t:厚み[mm] f:発振周波数(基本波)[MHz])になります。


一方、時計では32.768kHz(15回分周で1秒)と周波数が低いため、水晶を音叉型にして、屈曲振動モードで発振させます。何れも機械的に振動するので、中空のケースに収められます。石英の薄い板が中に置かれるわけですから、振動や衝撃などのストレスを与えないことが大切です。

何れも振動子として動作している状態では、共振状態にあるわけですが、共振は基本となる振動数の他に、奇数倍の振動数でも起こります。例えば、10MHzの水晶は、30MHzや50MHzでも発振します。これをオーバートーン発振と言います。図2は、基本波と3次オーバートーン発振時の水晶片断面イメージです。

図2:厚み滑り振動

左は基本波、右は3次オーバートーン(実際の水晶では中央部でのエネルギーが高い)

 
     


デジタルの源はアナログ回路だった
~ クロック生成回路 ~

—— 発振回路の上手な設計法を教えてください。

水晶発振は周波数の確度と安定度がメリットですから、TCXO(温度補償型水晶発振器)など、メリットをさらに引き出す使われ方もありますが、ここでは、マイコンなどデジタル回路のクロック用発振回路について説明します。

図3は、インバータ(NOT回路 / 反転アンプ)を利用した回路です。図のRxとRdは不要な場合もあるため、RxとRd無しで覚えている人もいるかもしれません。この回路はシンプルなこともあり、「つなげば動く」と考えがちです。しかし、この回路の動作はアナログです。それに加え、水晶という機械振動素子が回路中に在ることなどの理由から、幾つもの配慮が必要です。回路図の段階で言うと、例えば、C1とC2の容量は水晶メーカで指定された値にしますが、水晶のデータシートに記載されている値は、配線やデバイスの入力等によって形成される容量も含めた値です。絶対値が数pF~20pF程度と小さいので、浮遊容量なども無視できませんから、実装するC1、C2は、他の容量を差し引いた値にします。入出力間の浮遊容量も小さく抑えてください。

 

図3:クロック発生回路   


     


もう一つは、RxとRdです。これらは、発振の強度(負性抵抗や励振電力)を調節するための抵抗です。水晶発振では、水晶振動子を振動させるのに十分なゲインを必要とする一方で、オーバートーンの周波数帯でゲインが大き過ぎると、回路がオーバートーン発振してしまうなど、信号の純度や安定度の低下を招くからです。ちなみに、RxやRdが要るのか要らないのか、要る場合はいくらの値にするかは、水晶とインバータの組み合わせで決まります。値は実験的に求めることもできますが、マイコンなどと組み合わせる場合には、水晶メーカーのWEB上で各マイコンに対応するRxとRdの値がリストアップされているので、これを利用するのがよいでしょう。

次は、回路の動作についてです。意外に知られていないことの一つに、発振開始の直流条件があります。インバータの入出力間に5mV~200mV程度の電位差が無いと、水晶が振動するキッカケが得られず、発振が始まりません。実際に「発振しない」というトラブルの一部は、電位差の不足が原因であることが分かってきています。もう一つ知っておくと良いのが、入力と出力の信号波形の違いです。出力側はインバータの出力ですから、方形波です。言い換えれば、高調波成分を多量に含んでいます。これに対して、入力側は水晶振動子の自由振動波形が表れますので、ほとんどの場合に正弦波です(図4)。

 

図4:回路動作のポイント   



クロックはノイズ発生源
~ EMIへの配慮 ~

——クロック信号はノイズの元凶だったりしますよね

クロック信号は、デジタル回路の動作に不可欠なものですが、周辺のアナログ回路や高感度電子機器にとっては不要な信号であり、ノイズです。したがって、クロック回路からは不要な輻射や伝導が起きないように、注意しなければなりません。不要な輻射や伝導(EMI)は、回路形態よりも実装状態に大きく左右されます。

図5に示したように、水晶発振回路を形成する配線は、ノイズを放射するアンテナになってしまうことを念頭に置いた設計が求められます。

 

図5:クロック回路の配線はノイズを出すアンテナ   


     

図6は、EMIを考慮した基板の、パターン設計の具体的注意事項です。配線はできるだけ短くし、ループにならないことに注意して、グランドで囲むといった工夫が必要です。なお、入出力で配線長が異なる場合は、高調波を多く含む出力側が短くなるようにします。また、発振回路エリアの中層は、配線を通さず空きになるようにしてください。浮遊容量を小さくすると共に、回路が他の信号などと結合することで、周波数が変調されるといった不具合を避けるためです。
 

図6:EMIに配慮したパターン設計  


     




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