プリント基板のパターン設計の基礎

回路図に無い回路

電子回路の高速化・高周波化、そして高密度実装化によって、プリントパターンが回路特性に及ぼす影響度が増しています。

パターン設計は自動化が進んでいますが、設計のチェックやトラブルに際してはパターンに寄生的に存在する回路を読み取るチカラが求められます。

基板設計に潜むリスク

電子機器の小型・高機能化要求を満たすために、回路が高速・高周波化し、電子デバイスも小型化されて、実装の高密度化が進みました。同時に、プリント基板の自動設計技術も進化し、複雑な設計ルールに対応したパターンを、回路から自動生成できる時代になりました。電磁解析や熱解析などの技術も高度化し、精度の高いシミュレーションも可能です。また、部品の小型化と高密度実装のおかげで、配線の浮遊容量やインダクタンスは、従来よりも小さくなっています。こうした意味では、ハードウエア技術者にとって、プリント基板設計のリスク負担は減っている様に見えます。

その一方で、パターン設計に起因する、回路のトラブルは後を絶ちません。回路やデバイスの選定に問題は無いはずなのに、予定したアナログ特性が得られない、ディジタルのタイミング余裕が少なく希に誤動作する、ノイズが規制値に収まらない等々、プリントパターンに起因するトラブルは、開発の終盤に実装基板ができあがってから発覚するので、やっかいです。こうした場合の原因の多くは、プリントパターンで形成される静電容量(C)や、インダクタンス(L)、抵抗分(R)など、寄生的に存在する回路要素の見積もりミスにあります。

3次元分布定数回路

プリント板に部品を搭載したボードは、3次元(立体)の分布定数回路です。信号ラインとグラウンドプレーン、ライン間、ビアやスルーホール、さらに実装される部品との間でL、C、Rの分布定数回路が3次元的に形成されます。当然ながら、これらは回路図には現れません。


実際のプリントパターンを回路の一部として見積もったり読み取ったりする場合に必要なのは、分布するCやLなどの大きさと、回路にプラスしたときの動作を瞬時に想起できるチカラです。開発や設計に際しては、自らの手できちんと計算してみる緻密でミクロな姿勢を忘れてはなりませんが、予期しないトラブル源を探索する際などには、一見して概略を見抜くマクロな眼力も持ち合わせるのが、技術者のセンスでもあります。

一を知って十を見抜くチカラ

パターンに寄生する回路要素を一瞬で算定するには、目安となる値を知っておくのが第一歩です。図1に、1mm厚の両面基板に1mm幅で1本のパターン(マイクロストリップ)を描いた場合に形成される、静電容量やインダクタンスなどを示しました。ちなみに、銅箔厚18μmの基板は、重量表示では1/2oz(オンス)の基板に相当します。概略値を合わせて示しましたが、大雑把に初めの一桁目の値と乗数、例えば、1pFなのか10pFなのかを知っておくだけでも意味があります。かなり乱暴なやり方なのですが、後はそれを何倍かしたり何分の一にしたり、暗算で済ませます。実際のパターンは複雑な要素が絡み合うわけですが、概略を把握することを優先するからです。例えば、線幅を1mmから0.5mmにする場合は、パターンを集中定数のコンデンサと考えて、容量を1/2にします。インダクタンスも、図1の条件から大きく外れない限り、パターン幅に反比例し長さに比例するとして大過ありません。最近は、配線ルール(線幅と間隔)も層の厚みも小さく薄くなっていますが、相対的な比率はそれほど変わらないので、容量やインピーダンスなどが何桁も変わるということはありません。

同図には、パターンを線路伝送線路として考えた場合の特性インピーダンスと関係式も示しました。この式から、周波数が低い(jωが小さい)ときは静電容量が支配的になることが分かります。つまり、低周波の回路では、浮遊容量に注目すればよいということになります。反対に、周波数が高くなるに従いインダクタンス分が効いてきます。例えば、パターン1cmの概略値である4nHの100MHzにおけるインピーダンスは約2.5Ωになり、1nsで1mA立ち上がるだけでも L×dI/dt=4[mV]となり、高速デジタル信号の立ち上がりなどに影響します。当然ながら、周波数が高くなるにしたがい分布定数回路として考えないと、現象との差異が大きくなります。

      
            

危ない場所に落とし穴は無い

プリントパターンによる影響は信号の周波数が高くなればなるほど大きくなるため、高速のデジタル回路などでは設計ルールも細かく定められ、誰もが慎重なパターン設計をします。線幅や間隔などの基本ルールの他に例えば、図2aのように、鋭角パターンを無くす、パターン端面からのノイズ放射やインピーダンスの乱れを防ぐために、グラウンド面をパターンより何h(h:基板厚 最低でも3h)拡げる(図2b)、バイパスコンデンサの配線長制限、デジタルとアナログの分離、ビアによるグラウンドプレーン欠如の制限などが厳しく定められているはずです。

人手ではなくレイアウトソフトによって自動的に描かれることが多いわけですが、注意深く行われることに変わりはなく、実際に問題を起こすことは比較的少ないものです。そうしたこともあって、現実のトラブルの多くは、上記等の注意が届かない「ありふれた」回路部分で起きやすいと言われています。したがって、チェックの際は、低周波や低速のインタフェース周りや処理回路、電源配線などに十分な注意を払いたいものです。

        

数MHzでもDCでも

例えば、図3aはクロック発生回路で回路としては一般的なものです。図のインバータや抵抗はマイコン(MCU)などに組み込まれており、発振周波数はたかだか数MHz程度で、配線は水晶発振子と二つのコンデンサをつなぐだけの簡単な回路です。

ところが、この回路はインピーダンスが高く、わずかな容量やインダクタンスで動作が不安定になりがちです。近くに他の信号があると発振波形が変調される可能性もあります。クロックは、他の回路の源ですので、発振停止はもちろん、ジッタなどがあってはなりません。さらに、クロックがノイズ源となって高感度なアナログ回路部などに飛び込んでは元も子もありません。

こうしたトラブルを引き起こさないためには、最短の配線と共に回路の下部に他の配線を通さない、グラウンドは広く採るがループにならないようにするといった配慮が必要です(図3b,c)。この回路は、出力側の方が方形波に近く、高調波分を多く含んでいることを憶えておくと良いかもしれません。

パターンによるトラブルは直流でも発生します。例えば、電源の電流を検出する場合、数十mΩ程度のシャント抵抗器を挿入しますが、始めに述べたようにパターンには抵抗分があり、容易に数十mΩのオーダに達するため、大きな誤差の元になります(図4)。

パターンを構成する銅(Cu)の温度係数は+4000ppm/℃(0.4%/℃)もあって、温度による抵抗値の変化が大きいことも忘れてはなりません。



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