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      • 発行日 2023年7月21日
      • 最終変更日 2024年1月18日
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    CRアクティブフィルタ ガイド

    この記事では、CRアクティブフィルタとは何なのか、その種類や用途を解説しています。(取材協力:株式会社エヌエフ回路設計ブロック)

    機能はシンプルだが

    ~ フィルタの種類と用途 ~

    —— CRアクティブとは何のことですか?

    フィルタの機能は、決められた周波数範囲にある信号は通過させ他は阻止することで、通す範囲によりローパス(Low Pass)ハイパス(High Pass)バンドパス(Band Pass)、バンドエリミネーション(Band Elimination)などのフィルタがあります。周波数成分が入り交じった信号の中から、特定の信号だけを取り出したり、ノイズや不要な信号を取り除いたりすることを目的に、低周波から高周波まで広く使われています。

    フィルタを構成する手段は様々で、用途に応じて使い分けます。通信機器など、主に高周波用途ではコイルとコンデンサで構成するLCフィルタ、圧電素子を利用するセラミックフィルタ、水晶フィルタ、表面弾性波(SAW)フィルタなどが用いられます。一方、音響機器や振動計測などの低周波回路では、デジタルフィルタや今回採り上げるCRアクティブフィルタなどが使われます。デジタルフィルタは、入力のアナログ信号をデジタルに変換して、デジタル演算によってフィルタ処理します。様々な特性を自在に実現できますが、構成が複雑になるため、オーディオ装置などの用途に限られます。これに対してCRアクティブフィルタは、CRつまりコンデンサ[C]と抵抗[R]、それにオペアンプで構成されるアナログ電子回路です。CRアクティブフィルタのアクティブとは、CRなどの受動(Passive)部品の他に能動(Active)部品であるオペアンプを使うことを意味しています。なお、類似するものにスイッチトキャパシタフィルタがありますが、CRアクティブフィルタとは動作原理が異なります。

    作るか使うか

    ~ 製品としてのフィルタ ~

    —— フィルタは設計が難しそうで面倒です

    CRアクティブフィルタは、電子回路の一部として、機器内部で多数使われます。典型的なアナログ回路であり、様々な回路形式が考案されています。設計法も確立されていますが、何れも多段構成の複雑な回路となるうえ、伝達関数やオペアンプの帯域との関係などについての理解を必要とします。その意味では設計が簡単とは言えないかもしれません。

    こうした負担を軽減するため、回路機能のほとんどをモジュール化した製品も出回っています。モジュールでは、例えば遮断周波数を決めるための抵抗を外付けするだけで、所望するフィルタ特性が得られるようになっています。

    一方、音響や機械振動の実験現場などでは、計測・解析信号を分離やノイズ除去のために装置として出来上がったフィルタを必要とすることが少なくありません。こうした目的のためには、ベンチトップやラック組み込みタイプのフィルタがあります。実験や計測に用いるため、多くは遮断周波数をダイヤルで任意に設定でき、100を超えるチャネル数に対応できるものもあります(図1)。

    図1:CRアクティブフィルタの製品例

    上の2品は基盤に実装して使うモジュール 左下はベンチトップの2チャネル機 右下はラック組み込みの多チャネル製品

    CRアクティブフィルタの製品例

    特性の表現と理解

    ~ 用語とその意味 ~

    —— 用語が色々あってよく分かりません

    主なフィルタ用語を、図2に示しました。

    図2:フィルタの用語と意味

    フィルタの用語と意味

    現実のフィルタは、特定の周波数を境に完全に通過あるいは遮断されるわけではなく、通過域から減衰域へと滑らかに移行します。このため、遮断周波数は一般に -3dB点で定義されますが、急峻なフィルタ等では他の方法で定義する場合もあります。減衰傾度は、フィルタの「切れ味」の指標で、単位は[dB/oct]、つまり周波数を2倍したとき通過利得が何dB変わるのかを表します(周波数変化を10倍として[dB/dec]で表現される場合もある)。関連して「次数」もよく使う用語です。特性を表す伝達関数の次数なのですが、フィルタを使う立場からは1次あたり6dB/octもしくは20dB/decと憶えておくと役に立ちます(図3)。

    図3:次数と減衰特性(バタワースの例)

    次数と減衰特性(バタワースの例)

    フィルタを選択する際には、遮断周波数(中心周波数)と減衰傾度(次数)の他に、減衰カーブの名称と特性を知っておく必要があります。図4に、4次の場合について主要なものを掲げました。この場合、周波数特性の他にステップ応答も併せて考えることが重要です。例えば、バタワース特性は通過域が平坦で最もよく使われますが、方形波を入力した際の波形はオーバシュートを伴います。したがって、パルス波形などに対しては、振幅特性がやや甘くなるものの、オーバシュートを押さえたベッセル特性のフィルタが適します。同様に、チェビシェフ(Chebyshev)特性は減衰特性に優れますが、通過域にわずかなリップル(周波数特性のうねり)があり、連立チェビシェフ(Ellipticとも呼ばれる)特性は、遮断周波数付近の特性はさらに急峻ですが、遷移域に跳ね返りがあるという具合です。どちらを使うかは、通過させたい信号と、阻止したい信号の周波数と、レベル分布から判断します。

    図4:周波数応答とステップ応答 (何れも4次の場合、チェビシェフはリップル=0.3dB、連立チェビシェフはエヌエフ回路SR4BLの特性)

    メリット/デメリット

    ~ 扱いのコツと注意 ~

    —— デメリットとか注意点とかはありませんか?

    多CRアクティブフィルタはCRとオペアンプで構成されるのでメリット/デメリットもそれらを反映しています。例えば入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスは低い回路にできるので、入力や出力に接続する相手方のインピーダンスをさほど気にせずに使えます。このことは、他の例えばLCフィルタなどが入出力共にインピーダンス整合しないと所定の特性が得られないのと比べて大きなメリットです。設計面では周波数の変更が抵抗やコンデンサなど入手性の良い部品の値を変えるだけで比較的簡単に済むのもメリットです。一方、オペアンプを使うことから使用できる周波数の範囲には限りがあります。実質的上限は 10MHz程度までです。扱う信号の大きさ(電圧範囲)も電子回路として正常に動作する範囲に限られるのでレベルの大きな信号を扱う場合は飽和に注意してください。反対に、微小レベルの信号を対象にする場合にはオペアンプ内部で発生する雑音を考慮する必要があります。

    アクティブフィルタの選び方

    —— それでは、アクティブフィルタの選び方のポイントについて見ていきましょう。

    上限周波数を考慮して選ぶこと

    CRアクティブフィルタを選ぶ際には、まず周波数の上限を考慮して選ぶことが大切です。アクティブフィルタが対応する上限周波数を超えてしまった場合、信号が少なくなってしまうことがあります。特にHPFとBEFでは上限周波数を超えると急激に信号が減退するため、HPFとBEFを使用する際には特に注意したいポイントです。 またLPFで上限周波数を超えた場合、信号の減衰が少なくなり予測していた減衰量とならないこともあります。いずれの種類のアクティブフィルタを選ぶ場合でも、信号帯域を確認して上限周波数を超えないように選びましょう。

    フィルタ応答から選ぶ

    フィルタ応答の特性から選ぶこともCRアクティブフィルタ選びのポイントのひとつです。代表的なフィルタ応答の特性は次のとおりとなります。

    • チェビシェフ:ロールオフ特性に優れているが、通過帯域か阻止帯域にリップルが現れることがある
    • バタワース:通過帯域にはリップルがないものの、減衰量の傾きが小さくロールオフ特性が緩やか
    • ベッセル:幅広い周波数帯域において周波数応答がフラットだが、ロールオフ特性は緩やか
    • エリプティック:ロールオフ特性に大変優れるが、通過帯域と阻止帯域にリップルが現れる
    • ルジャンドル:ロールオフ特性に大変優れるが、通過帯域において減衰量が大きい

    以上のようなフィルタ応答の特性により選ぶと、アクティブフィルタの設計の際に役立つはずです。

    発熱の大きさにより選ぶ

    CRアクティブフィルタを選ぶ際には、発熱の大きさも考慮することが必要です。アクティブフィルタの使用には電力源が必要となりますが、内部の部品に電気が流れると発熱します。発熱量は高周波数帯域に対応するアクティブフィルタほど大きくなるため、必要とする信号帯域を把握して、電流量が最適なものを選び発熱を避けるようにしましょう。

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