- 発行日 2023年6月1日
- 最終変更日 2025年10月22日
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スペクトラムアナライザの基礎知識
スペクトラムアナライザ(スペアナ)は、高周波信号に含まれる周波数成分を可視化・解析するための重要な測定機器です。電波や無線信号のスペクトラムを周波数領域で観測し、信号の強度分布や不要輻射、ノイズの状況を正確に把握できます。これは通信機器や放送、無線、電波調査など多岐にわたる産業で不可欠な技術です。

無線技術は電子技術者に必要 ~ スペクトラムアナライザの基本機能と活用ニーズ~
スペクトラムアナライザ(スペアナ)は、高周波信号の周波数成分を解析し、スペクトラム(周波数分布)を可視化する高度な測定機器です。無線通信技術が進展する現代において、電子技術者にはスペクトラムアナライザの理解と操作スキルが必須となっています。
この測定器は、単に信号の波形を時間領域で見るのではなく、周波数領域に変換して表示できる点が最大の特徴です。例えば、5GやWi-Fiなどの通信機器の信号品質の確認や、不要輻射の測定、干渉波の特定に役立ちます。電波の異常や不具合を周波数単位で検出できるため、設計やトラブルシューティングの効率が大幅に向上します。 (図1)。
◀図1:波形とスペクトラムの比較(出典:キーサイト・テクノロジー)
(左)オシロスコープで測定した波形
(右)スペアナで測定したスペクトラム(信号は1GHzの AM変調波)
この測定器は、単に信号の波形を時間領域で見るのではなく、周波数領域に変換して表示できる点が最大の特徴です。例えば、5GやWi-Fiなどの通信機器の信号品質の確認や、不要輻射の測定、干渉波の特定に役立ちます。電波の異常や不具合を周波数単位で検出できるため、設計やトラブルシューティングの効率が大幅に向上します。
さらに、スペクトラムアナライザは通信分野以外でも、音響機器のノイズ解析や産業用設備の電磁波監視など、幅広い分野で活用されています。電子技術者がこの機器を使いこなすことで、設計品質の向上と製品の信頼性確保に大きく貢献できるのです。
スペクトラムアナライザの使用方法
—— スペクトラムアナライザの使用方法について見ていきましょう。
- 電源をオンにする 測定器の電源を入れ、起動させます。温まるまで数分待つこともあります。
- センター周波数の設定 観測したい信号の中心となる周波数を設定します。これにより観測範囲の中央が決まります。
- 周波数幅の指定 スペクトラムの表示幅、つまり観測する周波数帯域の幅を決定します。測定対象に応じて広くしたり狭くしたり調整します。
- 入力信号の接続 測定したい信号源をスペクトラムアナライザの入力端子(一般的に50Ω)に接続します。インピーダンス整合が重要です。
- アッテネーターの設定 入力信号の強さに合わせてアッテネーター(減衰器)を調整し、測定器のオーバーロードを防ぎます。
- IFフィルタ帯域幅(RBW)の調整 IFフィルタの帯域幅を設定し、周波数分解能とノイズレベルのバランスを最適化します。狭くすると分解能が上がり、ノイズが減りますが測定速度は低下します。
- 測定開始とデータ観測 設定が整ったら測定を開始し、スペクトラム(周波数分布)を画面で観察します。必要に応じてピーク検出やトレース保存などの機能を利用します。
- 測定結果の解析 観測したスペクトラムから不要輻射の有無や信号品質、変調状態を分析し、問題点を特定します。
これらのステップに従うことで、スペクトラムアナライザを使った正確な高周波信号の分析が可能になります。用途に応じて、リアルタイム解析やスペクトラムマスク検査などの高度な機能を活用することも重要です。
スペクトラムアナライザの使用例
スペクトラムアナライザは、放送機器や携帯電話、無線機器、通信機器、電波調査など、周波数や無線通信に関わる各種機器で幅広く活用されています。
- 放送機器 ラジオやテレビ放送の電波強度や品質を正確に測定し、不要な輻射や高調波の歪みをチェックするために使用されます。
- 携帯電話および無線機器 通信信号の変調状態や位相ノイズ、不要輻射(EMI)などの分析に使われ、通信品質の維持・管理に不可欠なツールです。
- 通信機器の開発・保守 スペクトラムアナライザは通信機器の送信波形や周波数レベルを測定して仕様通りに動作しているかを検証し、不具合箇所の解析やトラブルシューティングに役立ちます。
- 電波環境の調査・監視 不明な電波の発信源特定や周辺環境のノイズレベル測定に用いられ、電波障害の予防・解消に貢献します。
- 高精度信号解析 「シングルアナライザ」のようなスペクトラムアナライザは、無線通信信号の各種パラメータの詳細測定や変復調情報の解析が可能で、高度な通信設計に活用されています。
これらの用途を通して、スペクトラムアナライザは通信インフラや放送設備の性能監視、無線技術の開発において欠かせない計測機器として利用されています。
スイープかFFTか ~2つの基本原理 ~
スペクトラムアナライザには「同調掃引(スイープ)方式」と「FFT(高速フーリエ変換)方式」の2種類の基本的な測定原理があります。どちらも一長一短があり、測定目的によって使い分けることが重要です。
同調掃引方式(スイープ方式)
同調掃引方式は、受信機の同調ダイヤルを回すのに似た方法で、バンドパスフィルタの中心周波数を連続的に変化させながら信号を測定します。実際にはローカルオシレータの周波数を変えてフィルタを「掃引」する動作で、ギガヘルツオーダーの広帯域スペクトラムを1回のスイープで観測可能です。
この方式はダイナミックレンジが広く、周波数の広範囲を一度にカバーできますが、信号が時間的に変化する場合には測定結果に追随できないことがあります。
実際にはフィルタの周波数は固定されていて、へテロダイン受信機と同様にローカルオシレータの周波数を変化させることで等価的に掃引同調動作を得ます(図2)。
◀図2:ブロック図(出典:キーサイト・テクノロジー)
※下は上の点線内をデジタル化した場合
FFT方式(高速フーリエ変換方式)
FFT方式は、アナログ信号をデジタル化し、時系列データを高速フーリエ変換して直接スペクトラムを算出します。時間ごとのスペクトラム変化を迅速に取得でき、突発的に発生する信号や変動するスペクトラムの観測に適しています。
ただし、FFT方式は解析できる周波数幅が特定の範囲に限られる点や、使用されるADコンバータのビット解像度によってダイナミックレンジに制限がある場合があります。最新のスペクトラムアナライザでは14bitクラスの高解像度ADコンバータを搭載し、精度と解析能力が飛躍的に向上しています。 短い時間窓で切り取った時系列信号のスペクトラムが次々と得られるため、突発的に発生する信号やスペクトラムが刻々と変わる信号にも対応できます(図3)。
◀図3:変動するスペクトラムの測定例(出典:キーサイト・テクノロジー)
上はスペクトラムの時間推移表示(横軸:周波数、縦軸:時間、色:強度)
下は通常のスペクトラム表示
この2方式はそれぞれの特性を理解し、用途や目的に応じて適切に選択することで、スペクトラムアナライザによる効率的かつ正確な信号解析が可能になります。例えば、広帯域の概観にはスイープ方式を用い、その後詳細解析にFFT方式を活用するといった使い分けが効果的です。
結果を疑うべし ~ RBW(Resolution Band Width)~
—— アナライザの能力を活かすコツを教えてください。
スペクトラムアナライザの大切な設定項目の一つに「RBW(分解能帯域幅、Resolution Band Width)」があります。RBWは、中間周波数(IF)フィルタの通過帯域幅を指し、観測する信号の周波数分解能に直結します。
RBWの基本的な役割 RBWを狭く設定すると、スペクトラムで隣接する周波数の信号をより細かく分離して観測できます。つまり、周波数分解能が高まるため、信号の微細な変化や複数の近接信号を正確に識別可能になります。
また、RBWが狭くなるとノイズの通過帯域も減少するため、スペクトラムのノイズレベルが低下します。これにより、ダイナミックレンジ(信号とノイズの差)が向上し、より鮮明な測定が可能となります。
RBW設定のトレードオフ
一方で、RBWを狭くすると応答速度が遅くなり、スペクトラムの掃引(スキャン)にかかる時間が長くなります。これはIFフィルタの時定数が長くなることが原因で、実際にはスイープ速度とRBWはトレードオフの関係にあります。
したがって、測定内容に応じて適切なRBWを選ぶことが必要です。たとえば、全体の信号状況を大まかに把握したい場合は広めのRBWで素早く測定し、細部の解析やクリティカルな信号の識別が必要なときはRBWを狭く設定して精度を高める方法が効果的です。
◀図4:RBWによる表示スペクトラムとスープ時間の違い(出典:キーサイト・テクノロジー)
RBWが測定結果に与える影響 RBWの設定次第で、同じ信号でも表示されるスペクトラムの形状やピーク値に違いが出る場合があります。広いRBWでは複数の信号が一つにまとまって表示されることもあり、狭いRBWではそれらを個別に分離して表示できます。
このため、特に変調信号や複雑な混合信号を扱う際は、RBWの適切な設定が正確な測定・解析に不可欠です。
有るはずのないものが見える ~ ひずみとノイズ ~
スペクトラムアナライザで測定を行う際、時に実際には存在しないはずの信号やピークが観測されることがあります。これは、測定回路や装置自体が生み出す「ひずみ」や「ノイズ」が原因です。これらの不要信号を正確に理解し対処することが、信頼性の高い測定結果を得るうえで重要です。
ひずみの発生原因
スペクトラムアナライザ内部や測定対象回路には、ミキサやアンプ、入力アッテネーターなどが含まれます。ミキサやアンプの非線形動作により、2次高調波や3次相互変調歪み(IMD)などのひずみ成分が発生します。これらは本来の信号とは異なる周波数帯に現れ、スペクトラム上に「偽のピーク」として観測されることがあります。 その結果、測定のダイナミックレンジは測定信号(キャリア)とノイズあるいは不要成分の何れかとのレベル差で制限されます(図5)。
◀図5:ダイナミックレンジ(出典:キーサイト・テクノロジー)
ノイズの種類と影響
スペクトラムアナライザ自身にも内部雑音が存在し、信号とともに増幅されます。このノイズフロアが測定での基準となり、信号とのレベル差(ダイナミックレンジ)に影響を与えます。ノイズには熱雑音やフリッカーノイズ(1/fノイズ)などがあり、高精度測定にはこれらを最低限に抑える設計が求められます。
測定の適正化と対策
測定信号のレベル設定は非常に重要です。入力信号が弱すぎるとノイズに埋もれ、強すぎるとミキサやアンプの飽和や歪みの原因となります。スペクトラムアナライザの入力アッテネータを適切に調整し、理想的な入力レベルを維持することで、正確な測定が可能となります。
◀図6:ミキサレベルとの関係(出典:キーサイト・テクノロジー)
最後が肝腎 ~ バケットと検波モード ~
—— 検波モードの違いについて教えてください。
スペクトラムアナライザの画面に表示されているスペクトラムは、多くの測定データ点の代表値を表示したものです。この代表値の区間は「バケット(Bucket)」や「ビン(Bin)」と呼ばれ、一定時間範囲で区切られた複数のデータポイントをまとめています。
バケットの役割 1つのバケットは一定の時間幅内に収録された複数の測定値を含み、その中からどの値を画面に表示するかは検波モードによって決まります。この区切りは表示の解像度や分析の精度に影響を与えます。
◀図7:バケットと表示点(出典:キーサイト・テクノロジー)
主な検波モードの種類と特徴
- ノーマルモード 隣接するバケットで最大値と最小値を交互に表示し、信号の変動を視覚的に捉えやすくします。
- ピーク検波モード 各バケット内の最大値(または最小値)を表示し、信号のピークを見逃しません。不規則な突発信号や微弱信号の検出に適しています。
- サンプル検波モード バケット内のデータからランダムに1点を抽出して表示し、リアルタイム性が要求される測定に利用されます。
- アベレージ検波モード バケット内の複数のデータ点を平均して表示します。リニア平均・対数平均・RMS平均などがあり、ノイズや短時間の変動を滑らかにする効果があります。
バケット内のサンプル数と表示への影響
バケット内のサンプル数が多い場合、ノーマルモードでの表示は信号の細かな変動が見えにくくなることがあります。そのため、目的に応じてサンプル数や検波モードを最適に設定することが重要です。
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