- 発行日 2023年6月1日
- 最終変更日 2026年5月8日
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スペクトラムアナライザとは?使用方法と使用例を基礎から解説
スペクトラムアナライザとは、高周波信号に含まれる周波数成分を可視化・解析するための測定機器です。電波や無線信号のスペクトラムを周波数領域で観測することで、信号の強度分布や不要輻射、ノイズの状況を把握しやすくなります。通信機器、放送、無線、電波調査など、幅広い分野で活用される重要な測定機器です。

電子技術者に必要なスペクトラムアナライザの基礎知識 ~ 基本機能と活用のポイント
スペクトラムアナライザとは、高周波信号の周波数成分を解析し、スペクトラム(周波数分布)を可視化する測定機器です。一般に「スペアナ」と略して呼ばれることもあります。通信や無線分野で高周波信号の解析が重視されるなか、電子技術者にとっては、スペクトラムアナライザとはどのような機器で、どのような仕組みで信号を解析するのかを理解しておくことが重要です。
この測定器は、単に信号の波形を時間領域で見るのではなく、周波数領域で表示できる点が最大の特徴です。例えば、5GやWi-Fiなどの通信機器の信号品質の確認や、不要輻射の測定、干渉波の特定に役立ちます。電波の異常や不具合の手がかりを周波数成分から把握できるため、設計やトラブルシューティングの効率向上に役立ちます(図1)。
◀図1:波形とスペクトラムの比較(出典:キーサイト・テクノロジー)
(左)オシロスコープで測定した波形
(右)スペアナで測定したスペクトラム(信号は1GHzのAM変調波)
さらに、スペクトラムアナライザは通信分野以外でも、音響機器を含む電子機器のノイズ解析や産業用設備の電磁波監視など、幅広い分野で活用されています。電子技術者がこの機器を活用することで、設計品質の向上と製品の信頼性確保に大きく貢献します。
スペクトラムアナライザの使用方法
スペクトラムアナライザの使用方法について見ていきましょう。
- 電源をオンにする 測定器の電源を入れて起動します。機種によっては、安定した測定のためにウォームアップが必要です。
- センター周波数の設定 観測したい信号の中心となる周波数を設定します。これにより、観測範囲の中央が決まります。
- 周波数幅の指定 スペクトラムの表示幅、つまりスパン(観測する周波数帯域の幅)を決定します。測定対象に応じて、広くしたり狭くしたり調整します。
- 入力信号の接続 測定したい信号源をスペクトラムアナライザの入力端子に接続します。多くの機種では入力インピーダンスが50Ωのため、信号源やケーブルとのインピーダンス整合に注意が必要です。
- アッテネータの設定 入力信号の強さに合わせてアッテネータ(減衰器)を調整し、測定器のオーバーロードを防ぎます。
- IFフィルタ帯域幅(RBW)の調整 IFフィルタの帯域幅を設定し、周波数分解能とノイズレベルのバランスを最適化します。RBWを狭くすると周波数分解能が上がり、表示されるノイズレベルも下がりますが、測定速度は低下します。
- 測定開始とデータ観測 設定が整ったら測定を開始し、スペクトラム(周波数分布)を画面で観察します。必要に応じて、ピーク検出やトレース保存などの機能を利用します。
- 測定結果の解析 観測したスペクトラムから、不要輻射の有無や信号品質、変調に関する状態を分析し、問題点の特定に役立てます。
これらの手順に従うことで、スペクトラムアナライザの使用方法の基本を押さえ、正確な高周波信号の分析に活かせます。用途に応じて、リアルタイム解析やスペクトラムマスク検査などの高度な機能を活用することも重要です。
スペクトラムアナライザの使用例
代表的なスペクトラムアナライザの使用例として、放送機器や携帯電話、無線機器、通信機器、電波調査など、周波数や無線通信に関わるさまざまな場面での測定や解析があります。
- 放送機器 ラジオやテレビ放送の電波強度や品質を測定し、不要輻射や高調波成分をチェックするために使用されます。
- 携帯電話および無線機器 通信信号のスペクトラムや変調状態、位相ノイズ、不要輻射、EMIに関する分析に使われ、通信品質の維持・管理に役立ちます。
- 通信機器の開発・保守 スペクトラムアナライザは通信機器のスペクトラムや信号レベルを測定して仕様通りに動作しているかを検証し、不具合箇所の解析やトラブルシューティングに役立ちます。
- 電波環境の調査・監視 不明な電波の発信源を絞り込んだり、周辺環境のノイズレベルを測定したりする際に用いられ、電波障害の予防・解消に役立ちます。
- 高精度信号解析 シグナルアナライザのような機器では、無線通信信号の各種パラメータの詳細な測定や変復調情報の解析が可能で、高度な通信設計に活用されています。
これらのスペクトラムアナライザの使用例からも、通信インフラや放送設備の性能監視、無線技術の開発において広く活用されていることがわかります。
スイープかFFTか ~ 2つの基本原理 ~
スペクトラムアナライザの代表的な測定原理には、「同調掃引(スイープ)方式」と「FFT(高速フーリエ変換)方式」があります。どちらにも一長一短があり、測定目的によって使い分けることが重要です。
同調掃引方式(スイープ方式)
同調掃引方式は、受信機の同調ダイヤルを回すのに似た方法で、観測する周波数を連続的に変化させながら信号を測定する方式です。実際にはローカルオシレータの周波数を変えることで、GHz帯を含む広い周波数範囲のスペクトラムを1回のスイープで観測できます。
この方式はダイナミックレンジが広く、広い周波数範囲を測定できますが、信号が時間的に変化する場合には測定結果に追随できないことがあります。
なお、フィルタの周波数自体は固定されており、ヘテロダイン受信機と同様にローカルオシレータの周波数を変化させることで、等価的に掃引同調動作を得ます(図2)。
◀図2:ブロック図(出典:キーサイト・テクノロジー)
※下は上の点線内をデジタル化した場合
FFT方式(高速フーリエ変換方式)
FFT方式は、アナログ信号をデジタル化し、時系列データを高速フーリエ変換してスペクトラムを算出します。スペクトラムの時間的な変化を迅速に取得でき、突発的に発生する信号や変動するスペクトラムの観測に適しています。
ただし、FFT方式は解析できる周波数幅が特定の範囲に限られる点や、使用されるA/Dコンバータのビット解像度によってダイナミックレンジに制限がある場合があります。近年のスペクトラムアナライザでは14bitクラスなどの高分解能A/Dコンバータを搭載した機種もあり、解析性能の向上が進んでいます。また、短い時間窓で切り取った時系列信号のスペクトラムが次々と得られるため、スペクトラムが刻々と変化する信号の観測にも役立ちます(図3)。
◀図3:変動するスペクトラムの測定例(出典:キーサイト・テクノロジー)
上はスペクトラムの時間推移表示(横軸:周波数、縦軸:時間、色:強度)
下は通常のスペクトラム表示
この2方式はそれぞれの特性を理解し、用途や目的に応じて適切に選択することで、スペクトラムアナライザによる効率的かつ正確な信号解析に活かせます。例えば、広帯域の概観にはスイープ方式を用い、その後、時間変動する信号や突発的な信号の詳細解析にFFT方式を活用するといった使い分けが効果的です。
RBWの役割と設定のポイント ~ 結果を正しく読むために
アナライザの能力を活かすコツを教えてください。
スペクトラムアナライザの大切な設定項目の一つに「RBW(分解能帯域幅、Resolution Bandwidth)」があります。RBWは、中間周波数(IF)フィルタの通過帯域幅を指し、観測する信号の周波数分解能に直結します。
RBWの基本的な役割
RBWを狭く設定すると、スペクトラムで隣接する周波数の信号をより細かく分離して観測できます。つまり、周波数分解能が高まるため、スペクトラム上の細かな成分や複数の近接信号を識別しやすくなります。
また、RBWが狭くなるとノイズの通過帯域も減少するため、表示されるスペクトラムのノイズレベルが低下します。これにより、画面上では信号とノイズの差を確認しやすくなり、より鮮明な測定表示が得られます。
RBW設定のトレードオフ
一方で、RBWを狭くするとフィルタの応答が遅くなり、スペクトラムの掃引(スキャン)にかかる時間が長くなります。これはIFフィルタの時定数が長くなることが原因で、スイープ速度とRBWはトレードオフの関係にあります。
したがって、測定内容に応じて適切なRBWを選ぶことが必要です。例えば、全体の信号状況を大まかに把握したい場合は広めのRBWで素早く測定し、細部の解析や重要な信号の識別が必要なときは、RBWを狭く設定して分解能を高める方法が効果的です。
◀図4:RBWによる表示スペクトラムとスイープ時間の違い(出典:キーサイト・テクノロジー)
RBWが測定結果に与える影響
RBWの設定次第で、同じ信号でも表示されるスペクトラムの形状やピーク値に違いが出る場合があります。広いRBWでは複数の信号が一つにまとまって表示されることもあり、狭いRBWではそれらを個別に分離して表示できます。
このため、特に変調信号や複雑な混合信号を扱う際は、RBWを適切に設定することが測定結果を正しく読み取り、解析するうえで重要です。
ひずみとノイズが測定結果に与える影響 ~ あるはずのないものが見える理由
スペクトラムアナライザで測定を行う際、時に実際には存在しないはずの信号やピークが観測されることがあります。これは、測定回路や装置自体が生み出す「ひずみ」や「ノイズ」が原因となる場合があります。これらの不要信号を正しく理解し対処することが、信頼性の高い測定結果を得るうえで重要です。
ひずみの発生原因
スペクトラムアナライザ内部や測定対象回路には、ミキサやアンプ、入力アッテネータなどが含まれます。このうち、主にミキサやアンプなどの非線形動作により、2次高調波や3次相互変調ひずみ(IMD)などのひずみ成分が発生します。これらは本来の信号とは異なる周波数成分として現れ、スペクトラム上に「偽のピーク」として観測されることがあります。 その結果、測定のダイナミックレンジは、測定信号(キャリア)に対して、ノイズやひずみなどの不要成分をどこまで低く観測できるかによって制限されます(図5)。
◀図5:ダイナミックレンジ(出典:キーサイト・テクノロジー)
ノイズの種類と影響
スペクトラムアナライザ自身にも内部雑音が存在し、測定信号に重なって表示されます。このノイズフロアが微小信号の観測限界を決める要因となり、信号とのレベル差(ダイナミックレンジ)に影響を与えます。ノイズの要因には熱雑音やフリッカーノイズ(1/fノイズ)などがあり、高精度な測定にはこれらの影響を抑える設計が求められます。
測定の適正化と対策
測定信号のレベル設定は非常に重要です。入力信号が弱すぎるとノイズに埋もれ、強すぎるとミキサやアンプの飽和やひずみの原因となります。スペクトラムアナライザの入力アッテネータを適切に調整し、適切な入力レベルを維持することで、信頼性の高い測定結果を得やすくなります。
◀図6:ミキサレベルとの関係(出典:キーサイト・テクノロジー)
バケットと検波モードとは ~ 表示結果を左右する最後の重要な仕組み
検波モードの違いについて教えてください。
スペクトラムアナライザの画面に表示されているスペクトラムは、多くの測定データ点の代表値を表示したものです。この代表値の区間は「バケット(Bucket)」や「ビン(Bin)」と呼ばれ、一定の範囲内に含まれる複数のデータポイントをまとめています。
バケットの役割
1つのバケットは一定の時間幅内に収録された複数の測定値を含み、その中からどの値を画面に表示するかは検波モードによって決まります。この区切りによって、表示の解像度や測定結果の読み取りやすさが変わります。
◀図7:バケットと表示点(出典:キーサイト・テクノロジー)
主な検波モードの種類と特徴
- ノーマルモード バケット内の最大値と最小値を組み合わせて表示し、信号の変動を視覚的に捉えやすくします。
- ピーク検波モード 各バケット内の最大値を表示し、信号のピークを見逃しにくくします。設定によっては、最小値を表示する場合もあります。不規則な突発信号や微弱なピーク成分の確認に適しています。
- サンプル検波モード バケット内のデータから1点を抽出して表示します。ピークを強調せずに表示するため、ノイズ状の信号の見え方や連続した信号の状態を確認する際に利用されます。
- アベレージ検波モード バケット内の複数のデータ点を平均して表示します。リニア平均・対数平均・RMS平均などがあり、ノイズや短時間の変動をならして表示する効果があります。
バケット内のサンプル数と表示への影響
バケット内のサンプル数が多い場合、検波モードによっては信号の細かな変動が見えにくくなることがあります。そのため、目的に応じてサンプル数や検波モードを適切に設定することが重要です。
測定・信号解析に関連する商品
任意波形発生器とも呼ばれ、さまざまな信号の電気波形を生成するための信号発生器です。
物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定して、物体の温度を測定する温度計です。
電気の品質を測定および制御するために使用される機器です。
関数発生器とも呼ばれ、任意の周波数を持つ様々な電気波形を、電圧信号として出力できる信号発生器です。



