スペクトラムアナライザ ガイド

取材協力:キーサイト・テクノロジー合同会社

無線のスキルは電子技術者に必須
~ 基本機能とニーズ ~

—— いろんな名前のアナライザがあって混乱しています。

スペクトラムアナライザ(以下スペアナ)は高周波信号に含まれる周波数成分の分布、すなわちスペクトラム(Spectrum)を表示・解析する測定器です。高周波信号(電波)はパワーメータや周波数カウンタなどでも測定されます。また、高周波信号や電磁波ノイズを時間領域(Time domain)の「波形」として表現することもできますが、横軸を周波数にして周波数領域(Frequency domain)でスペクトラムを観測した方が多くの情報が得られます(図1)。

スペアナに類似した機能を持った測定器としては、変調解析なども可能なベクトルシグナルアナライザ、信号源を内蔵し回路や部品の伝達特性を測定するスカラネットワークアナライザ、放射ノイズの測定に用いるEMC受信機などがあり、これらの機能を併せ持ったアナライザもあります。


図1:波形とスペクトラムの比較

 
オシロスコープで測定した波形 スペアナで測定したスペクトラム 
信号は1GHzの AM変調波
      

スイープかFFTか
~2つの基本原理 ~

—— 先輩に動作原理を知ってから使えと言われました。

スペアナには同調掃引とFFTの二方式があります。どちらが良いというわけではなく、測定の目的により使い分けます。まず、同調掃引方式は、受信機の同調ダイアルを回してゆくのと同じように、バンドパスフィルタの中心周波数を掃引(Sweep)していく方式です。実際にはフィルタの周波数は固定されていて、へテロダイン受信機と同様にローカルオシレータの周波数を変化させることで等価的に掃引同調動作を得ます(図2)。同調掃引方式はアナログ時代からあるスペクトラムアナライザの基本方式ですが、近年のスペアナは検波部以降、あるいは、IF段以降はデジタル処理になっています。掃引同調方式の周波数範囲はローカルオシレータの周波数で決定されるため、ギガヘルツオーダの広帯域スペクトラムも1回のスイープで観測できます。また、当該周波数の信号レベルに応じて内部の利得を調節できるためダイナミックレンジが広いという特長があります。しかしながら、フィルタの周波数を変えてゆくので測定中に変化する信号には原理的に適しません。

     

図2:ブロック図 下は上の点線内をデジタル化した場合

             


一方のFFT方式は、デジタル技術の進歩によって実現した方式です。FFT方式ではIFフィルタの出力をAD変換し、FFT(高速フーリェ変換)することで時系列データから直接的にスペクトラムを得ます。短い時間窓で切り取った時系列信号のスペクトラムが次々と得られるため、突発的に発生する信号やスペクトラムが刻々と変わる信号にも対応できます(図3)。一方で、IF(ベースバンド)信号をFFTするので、解析周波数幅は特定の周波数で切り出した範囲に限られます。ちなみに、高速オシロスコープのFFT機能を使っても、広帯域信号のスペクトラムを得ることができますが、ADコンバータの分解能は8bit程度なため、無線信号の解析などにはダイナミックレンジが不足します。これに対してFFT方式スペアナは、14bitクラスのADコンバータが搭載されています。

    

図3:変動するスペクトラムの測定例

上はスペクトラムの時間推移表示
(横軸:周波数、縦軸:時間、色:強度)
下は通常のスペクトラム表示
 

結果を疑うべし
~ RBW(Resolution Band Width)~

—— アナライザの能力を活かすコツを教えてください。

同調掃引方式のスペアナでは、IFフィルタの通過帯域幅すなわちRBW(Resolution Band Width)で実質的な周波数分解能が決まります。RBWは任意に設定でき、RBWを狭くするほど周波数分解能が向上し、スペクトラムの細部をより忠実に測定できます。また、RBWを狭くするとノイズのパワーも減るのでノイズレベルが下がってダイナミックレンジが向上します。しかし、RBWを狭くすると応答が遅くなるため緩やかに掃引しなければならず、測定に時間がかかります(図4)。したがって、測定対象に合わせて適切なRBWを選択・設定する必要があります。実際には、まず広めのRBWで全体の概要を把握し、次に狭いRBWでクリティカルな部分を詳細に測定するのがよいでしょう。

 

図4:RBWによる表示スペクトラムとスープ時間の違い  

     

有るはずのないものが見える
~ ひずみとノイズ ~

—— アンプとアッテネータが同居しているのは何故?

ブロック図で示したように、測定信号は入力のアッテネータで一度減衰させたものをミキサでIF(中間周波数)に変換した後に増幅されます。このとき、わずかではありますがミキサやアンプの非線形性によって2次高調波(SHD)や2信号の3次の相互変調成分(TOI)など不要なひずみ成分を生じます。有害なひずみを生じているか否かは、入力信号のレベルを変えた場合に測定値が従うか否かで判定できます。ちなみに飽和レベル以下のとき、基本波レベルは入力レベルに追従しますが、二次高調波はミキサの入力レベルが1dB上がる毎に2 dB、3次相互変調成分は3 dBの割合で増加します。

もうひとつ、アナライザ自体には内部雑音があり信号と共に増幅されます。その結果、測定のダイナミックレンジは測定信号(キャリア)とノイズあるいは不要成分の何れかとのレベル差で制限されます(図5)。

 
図5:ダイナミックレンジ       
  


その際、測定信号に対するノイズや不要成分の相対的な値は、ミキサに入力されるレベルによって別々の変化をします(図6)。したがって、良好なダイナミックレンジが得られるミキサレベルになるように、入力アッテネータの減衰量(IFの連動を含む)を調節することが肝腎です。

 
図6:ミキサレベルとの関係     
  

最後が肝腎
~ バケットと検波モード ~

—— 検波にもモードとかあって よく分かりません。

実はスペアナの内部では、画面に表示されたスペクトラムよりも測定値を細かく算出しています。画面の表示分解能の制約や測定値の見やすさを考えての処置ですが、何れにせよ画面上の1点はバケット(Bucket)やビン(Bin)と呼ばれる時間範囲で区切られた複数の測定点の値を代表した値であることを念頭に置いてください(図7)。バケット内のどの値を表示させるかは検波モードで選択できます。検波モードにはノーマル/ピーク/サンプル/アベレージなどがあります。例えば、ノーマルは隣接するバケット毎に正負のピークを交互表示、ピークはバケット内の最大(最小)値、サンプルはビン内からランダム抽出、アベレージはバケット内の平均(リニア/ログ / RMS)など処理が異なるので、測定の目的によって使い分けます。その場合、バケット内のサンプル数にも気を配ってください。例えば、ノーマルモードでサンプル数が多いと、細かな変化を見失う可能性を生じるからです。

  

図7:バケットと表示点     

 

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