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      • 発行日 2023年10月11日
      • 最終変更日 2024年6月6日
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    半導体にシリコンが使われているのはなぜ?業界に起きている変化を踏まえて詳しく解説!

    半導体製品の製造においては、シリコンが長らく主役を務めてきました。それはシリコンの特性と業界のニーズがうまく適合していたからです。また、近年の技術革新により、半導体業界にも大きな変化の波が起きています。本記事では、なぜ半導体にシリコンが使われてきたのか、そして現在半導体業界で何が起きているのかを詳しく解説します。

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    半導体を構成している材料

    「シリコン」は、半導体製造において中心的な役割を果たす素材として広く知られています。その化学的特性から4価の原子として分類され、元素記号は「Si」とされます。他の半導体材料と比較すると、シリコンはその歴史が長く、その利用範囲も非常に幅広いことが特徴的です。

    さらに、シリコンの他にも、「ゲルマニウム」が半導体として一般的に利用されています。また、「セレン」と「カーボン」のような素材も、特定の状況下で半導体として使われることがあります。

    このような材料からできあがる半導体の例として「ディスクリート半導体」があります。

    半導体の原料にシリコンが使われる理由

    半導体の原料にシリコンが使われる理由は、以下の通りです。

    コストが安い

    シリコンは地球の地殻に2番目に多く存在する元素で、岩石、砂、植物、水などに広く分布しています。世界中に資源が豊富であるため、枯渇の危険性はほぼありません。

    そのため、化合物半導体と比較しても、半導体の製造コストを大幅に抑えることが可能です。

    高純度化が可能

    自然界に存在するシリコンは、酸素やアルミニウム、マグネシウムといった他の元素と結びついているため、純粋なシリコンを抽出するには精錬工程が必要となります。

    特に、集積回路(IC)などの半導体に使用されるシリコンは、「99.999999999%」(イレブン・ナイン)という超高純度の単結晶形状が要されるため、抽出後も各種の製造過程を経てさらに精製されます。

    また、シリコンの精錬には大量の電力が必要なため、日本では電力が比較的安価なオーストラリアや中国、ブラジルなどから98%以上の純度をもつ金属シリコン(インゴット)として輸入されています。

    抵抗率制御が可能

    純粋なシリコンは、真性半導体と呼ばれ、高い抵抗率(10立方Ωcm)を持つため、ほぼ絶縁体といえます。

    しかし、微量の不純物を混入することで、電気抵抗率が大幅に低下し、導電性のある物質に変化します。

    たとえば、シリコンにホウ素(B)を微量添加すると、抵抗率は大幅に下がり、p型半導体として機能し、電流が流れやすくなります。同様に、リン(P)をわずかに混ぜることでも抵抗率は劇的に低下し、n型半導体となります。

    これらの添加元素の種類と量を調整することで、シリコンの抵抗率や導電型(n型 MOSFETp型 MOSFET)をコントロールすることができます。

    酸化膜をつくりやすい

    半導体デバイスは必ず絶縁膜を必要とし、シリコンは酸素の存在下で加熱するだけで自然にSiO2の酸化膜を形成します。SiO2は高い絶縁性を持ち、欠陥も少ないため、半導体デバイスにとって非常に信頼性の高い絶縁膜となります。これらの特徴から、シリコンはバランスが良く、酸化膜を作りやすい半導体材料として広く利用されています。

    半導体業界にはシリコンサイクルがある

    半導体業界にはシリコンサイクルがある

    シリコンサイクルとは、半導体製造に関連する技術革新の流れを表す概念です。シリコンが半導体製造の最主要な素材であるため、この考え方は半導体業界において重大な意義を持っています。

    このシリコンサイクルは、製造プロセスに必要な機器や素材の進化によって周期的に進行します。新たな製造手法が生まれると、それに適応した機器や素材が求められます。

    半導体業界とシリコンサイクルは深く結びついています。半導体の需要が増えると、それに伴ってシリコンサイクルも加速し、新たな製造手法が生まれ、その結果、設備・素材の要求が高まっていくという関係性を持っています。

    半導体業界は技術革新のスピードが非常に高い分野で、新製品は絶えず生み出されています。そのため、半導体製造企業は、競争相手よりも先行して優れた半導体を開発することを目指し、日々の努力を怠りません。

    そして、その努力が結実し、新製品や技術の開発が成功すると、自然と多くの人々がそれを欲し、半導体の需要が高まります。

    しかし、開発が成功した初期段階では、生産設備はまだ十分に整備されていないことが多く、その結果、初期には生産が追いつかず、需要に応えるために大規模な設備投資や大量の部品発注が行われます。

    そうなると半導体価格は上昇し、市場は好景気に突入します。

    好景気では、供給不足を解消するために大規模な設備投資が行われ、生産量が大量に増加します。しかしながら、この設備投資は即座に成果を上げるものではありません。製品の製造が安定するまでにはおおむね1年半から2年の時間が必要とされています。

    この1年半から2年という期間には、各半導体製造企業の技術レベルが均一化し、競合が激化していきます。

    これにより、製品や技術が広範に普及し始め、需要が頭打ちになることが見込まれます。この結果、供給が需要を上回り、価格が下落。需要と供給のバランスが逆転し、半導体市場は不況期に突入します。

    このような、革新的な技術の登場による需要増と、設備投資の成果が現れた頃の供給過剰による不況期が繰り返される現象が「シリコンサイクル」の構造です。

    半導体産業におけるシリコンの重要性

    電子製品の重要なパーツとなる半導体は、世界的な需要増加と共にその重要性が増しています。その結果、半導体製造に不可欠な素材であるシリコンウェーハも、価値を増すことになりました。

    シリコンは高品質な結晶を生成する能力と洗練された製造技術を持つため、半導体の材料として理想的な存在となっています。

    全世界の半導体製造に不可欠なシリコンウェーハですが、日本の製造業者が世界市場の50%以上を占めています。そして、これからもシリコンウェーハの需要増加に伴い、その市場シェアはさらに拡大すると予想されています。

    現在では、数社の日本のシリコンウェーハメーカーが海外地域に進出し、その拠点を設けています。これは今後もシリコンウェーハ製造における日本企業の市場シェアがさらに拡大することが予想されています。

    近年の半導体業界に起きている変化

    近年の半導体業界では以下のような変化が起こってきています。

    半導体製品は高集積化、少量多品種が主流に

    基本的に、半導体装置の性能向上は集積度の増加に大きく依存してきました。実際のところ、集積度は年々向上し、性能や製造コストも急速に改善されてきたのですが、近年その微細化は限界に近づいているとされています。

    しかし、半導体に対する性能要求は常に高まり、高機能化の動きを止めることはできません。そのため、微細化だけに頼らない様々な手段による性能向上が進行しています。

    半導体製品があらゆる場所に普及すると、これまで大量生産を強みとしてきた半導体製造業界でも新たな体制が求められるようになりました。

    半導体チップは大量に消費されるICと、システムに1〜2個しか必要とされないICに大別できます。たとえば、パソコン1台にはメモリが8個または9個搭載され、これを1ユニットとしますが、マイクロプロセッサは1個のみ必要です。

    さらに、通信用のチップや周辺機能を集積するICなども必要ですが、それぞれ1〜2個で事足ります。メモリは増設したい場合はプリント基板の両面に16個または18個搭載するモジュールも使います。こうした動きから、メモリは大量生産され、その他のICは少量多品種という形が一般的となりました。

    シリコンウェーハは経費削減のため大口径化

    集積回路の発展に伴い、トランジスタの集積度が増すとともに、チップ面積も一定の拡大が見られました。その結果、一枚のウェーハから得られるトランジスタ数が減り、大口径化によりチップ数を保ちつつコストの上昇を抑える措置が採られました。

    ウェーハの大きさが増えると、一回の処理で製造できるICの量も増加し、結果としてICの生産単価が下がるという傾向が見られます。かつては直径がおおよそ20mmだったウェーハは、現代では最大で300mmにまで進化しました。

    このウェーハの大型化に伴って、製造装置もまた規模を拡大しています。製造装置の内部には、ウェーハを取り扱う部分、実際に処理を行うチャンバと呼ばれる部分、ウェーハを自動で取り扱うロボットアーム、さらには様々な配管や電気回路等の部品やサブシステムが含まれています。

    また、これらのチャンバは単一ではなく、前処理や後処理、あるいは並行処理を行うために複数設置されたマルチチャンバ構造が一般的です。こうした要素から、ウェーハの大きさが増すほど製造装置が複雑化し、そのサイズも大きくなります。

    このように、ウェーハと呼ばれる半導体の基板とその製造過程は、ICの生産コストや製品の品質、そして生産性を直接的に左右します。これらの要素を考慮に入れながら、最適なウェーハサイズと製造プロセスを探求することは、半導体業界において常に求められる課題といえるでしょう。

    シリコンICは企業向けから一般消費者向けへ

    半導体産業は、企業などを対象とするビジネス向け市場に、一般消費者向けの市場が食い込むことにより二極化の様相を見せています。

    半導体ICの浸透範囲は、かつてはテレビやコンピュータに限られていましたが、現在ではエアコンや自動車から冷蔵庫や洗濯機、照明器具までと幅広くなりました。

    さらにIoTの台頭により、センサICとデジタル回路、通信回路が組み込まれたデバイスが河川や橋梁の監視、オフィスビルの電力や空調の制御、病院の医療機器や生体モニターなど、民生用・工業用だけでは分類できないほど、社会・インフラ分野にも広がっています。

    2021年は新型コロナウイルスのパンデミックによりテレワークが広く普及し、ノートパソコンなどの通信機器への需要が後押ししており、市場の高まりを見せました。全球的なインフレや金利の上昇による家計の余裕の減少や、経済的な制約の緩和に伴う家での過ごし方からの脱却、そして旅行やエンターテイメントなどの他の分野への興味の移行がその理由とされています。

    次世代の主流な半導体原料はやはりシリコン

    かつてはゲルマニウムがダイオードやトランジスタの製造に用いられていましたが、シリコンの台頭により、電子機器の多くはシリコンを素材とする原料に置き換えられました。

    最近は、化合物半導体が台頭し、次世代の半導体として取り上げられていますが、これらの化合物半導体がシリコンICを置き換える可能性は低いと見られています。たとえば、当初GaAs(ガリウム砒素)は、シリコンを凌ぐ新星として期待が集まりましたが、集積化による性能向上やコスト削減が見込めず、シリコンに敗れる結果となりました。

    しかしGaAsは、半導体レーザーとして通信装置や光ファイバの送受信機に大量に使用されるようになり、LEDとしても使用されています。RGB(赤・緑・青)の三原色の中で長らく作ることができなかった青色も、GaN材料の改良により明るい光を出すことが可能となり、現在ではRGB全色の光を半導体LEDやレーザーで発生させることが可能となりました。

    さらに、個々のトランジスタや小規模なICでは、GaAsの性能はシリコンを上回っています。そのため、携帯電話やスマートフォンの送受信スイッチではGaAsが採用されています。

    そして最近ではGaNやSiCが注目されており、これらは高耐圧、大電流ではシリコンよりも性能が優れ、電力効率も良好です。そこで、最近ではパワー半導体としての利用が進められています。ただし、集積化はシリコンに比べて難しく、コストも10倍ほど高いです。また、コスト削減も困難で、SiCは硬く処理温度も2000度と高く、適切な炉が手に入りづらいという一面があります。

    しかし、高価でもトランジスタ単体としての使用用途には、シリコンの絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を置き換える可能性はありますが、全体のシリコンICを置き換えるほどのメリットはまだ見込めません。半導体技術の限界は主にコストによって決まります。これまでの電子回路の集積度を高める技術の進歩は全て、システムコストを下げることを目的としており、そのコストが許容される範囲内であるからこそそのビジネスは拡大してきました。

    結局のところ、シリコンが大量のトランジスタを集積してシステムを構築することができ、さらにコスト面でも優位性があるという現状があります。今のところは、次世代半導体の主役はシリコンであることに変わりはありません。

    化合物半導体は次世代の主流となるか

    シリコンの時代がまだしばらく続くとされていますが、シリコン以外の化合物半導体がシリコンを取って代わる可能性はあるのでしょうか。現在、注目を集めているのは炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)です。

    化合物半導体はシリコンが持たない特性を持ち合わせています。ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)などは発光性を有し、世界中の光ファイバ通信で使用されるレーザーダイオードの光源となっています。さらに、光ファイバ通信の受信機や赤外線センサとしても活用されています近頃注目されている炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)も、青色LEDの基礎材料として使われています。

    また、シリコンの10倍以上の絶縁耐圧性を持つため、1000V以上の高耐圧や100A以上の大電流を求められるパワートランジスタに対する期待が高まっています。まだ研究段階ではありますが、高耐圧半導体として酸化ガリウム(GaO)もパワートランジスタの候補とされています。具体的には、シリコンカーバイドのパワーMOSトランジスタは、米国Teslaの電気自動車(EV)Model 3にすでに採用されています。また、テスラ社から分離したLucid MotorsのLucid Airにも同様に採用されています。

    しかしこれら2社の採用は、積極的な企業文化が背景にあると考えられ、他の企業はまだ追随していません。その理由としては、他のメーカーのEVのインバータ回路では、価格が10倍も安いIGBTが使われているためです。こういった化合物半導体は、製造面での高集積化が難しく、デジタル回路では低電圧と小電流が必要なため、主にデジタル回路では使用されにくいです。デジタル回路の主役である半導体集積回路で使用されていないと、次世代半導体と呼ぶにはふさわしくありません。

    それでも、シリコン以外の材料が部分的に使用される可能性は残されています。

    MOSトランジスタのチャンネル部分だけを移動度の大きな材料にしたり、カーボンナノチューブやグラフェンといった1次元や2次元の材料を電子や正孔が通るチャンネルとしてゲートオールアラウンド(GAA)新構造にして、MOSトランジスタの耐用年数を延ばすといったアイデアが出ています。

    これからのシリコン半導体市場の展望

    国際半導体製造装置材料協会であるSEMIは、2022年のシリコンウェーハの出荷面積は前年比3.9%増の147億1,300万平方インチ、販売額は前期比9.5%増の138億ドルを記録したと2023年2月7日に発表しています。

    具体的には市場を推進する要素 パワーデバイス、MEMS、ディスクリート半導体、アナログ光学、IC、化合物半導体などの需要が高まる中、これらの半導体の製造にはシリコンウェーハが頻繁に用いられることにより、シリコンウェーハ市場の需要は今後益々増加することが予想されます。

    また、新しい製造装置への投資の増加も、予測期間中のシリコンウェーハ需要の増大を後押しするでしょう。

    たとえば、衣服や腕時計のように身に着けたまま使えるウェアラブルデバイスの進化は、市場に新たな成長の可能性を引き出します。さらに、小型デバイスの需要は絶えず高まっており、これが半導体シリコンウェーハ市場にとっては好機を生むとみられています。

    まとめ

    半導体ICの浸透範囲は、かつてはテレビやコンピュータに限られていましたが、現在ではエアコンや自動車から冷蔵庫や洗濯機、照明器具までと私たちの日常生活にかかわる部分にまで拡大しました。

    さらにIoTの台頭により、センサとデジタル回路、通信回路が組み込まれたデバイスが河川や橋梁の監視、オフィスビルの電力や空調の制御、病院の医療機器や生体モニターなど、民生用・工業用だけでは分類できないほど、社会・インフラ分野にも広がっています。

    半導体の原料となるシリコンは、半導体製造において中心的な役割を果たす素材として広く知られており、その利用範囲も非常に幅広いことが特徴的です。

    他の化合物半導体は、製造面での高集積化が難しく、デジタル回路では低電圧と小電流が必要なため、主にデジタル回路では使用されにくいという特徴があります。

    以上の理由からシリコンに取って代わる存在とは現状言い難いですが、それでも部分的に使用することが検討されています。

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