被災建物内探査システム「ロボ・スコープ」。
レスキューの未来を見つめる開発のそばに、RS。
東北大学大学院情報科学研究科
田所研究室
昆陽 雅司 准教授
二次崩壊を防ぐ新たなソリューション
もしも大地震で建物が倒壊した場合、何よりも優先されるのが生存者の救出である。そのためには現場の正確な状況把握が欠かせないが、ガレキ化した被災建物は非常に不安定なため、従来のように作業員や小型移動式ロボットによるガレキ上からの調査では、荷重によりガレキの二次崩壊を招く可能性が高い。その課題を解決するのが、東北大学と清水建設(株)、国際レスキューシステム研究機構(IRS)が共同開発した被災建物内探査システム"ロボ・スコープ"だ。
障害物を避けながら建物内部に進む
ロボ・スコープ。
「ホース状の能動スコープカメラを搭載した装置をクレーンで吊り下げ、遠隔操作することにより、ガレキに負荷をかけることなく、建物内を調査することが可能になりました。」と説明されるのは、東北大学大学院情報科学研究科 田所研究室の昆陽 雅司准教授。探査システムは、ガレキ内に下向き侵入するカメラを備えた探査ユニット、同ユニット先端をガレキ開口部に導くユニット、両ユニットの制御と通信を行う動力・制御ユニットの3つから成る。そしてそのシステムの核となるのが、東北大学の田所教授が実用化した能動スコープカメラである。直径約70mm、長さ10mの装置で、先端にカメラ、LED照明を備える。ホース外部は繊毛で覆われており、この繊毛に振動を与えることで挿入方向の推進力が発生する仕組みだ。ガレキをかいくぐるための方向制御は、内視鏡のように先端部の関節を折り曲げることで対応。能動スコープカメラの推進、関節の首振り、照明のオン・オフなどは、ビデオゲーム機同様のコントローラで遠隔操作する。
2013年2月、"ロボ・スコープ"は宮城県内で倒壊建物を再現した実証実験で、優れた探査性能を備えることを示した。今後、位置検知機能を付加することで、より確実な探査が行えるよう1年以内の実用化を目指す。「画像のみではなく、音声や温度などの機能を付けることで、その可能性はさらに拡がります。」と昆陽准教授。線量計やガレキの削孔・切断機能を付加すれば、原子炉建屋内部の探査も可能になるという。
RSの小ロット対応でベストな部品を選択
もともと能動スコープカメラは、東北大学の田所教授がレスキュー用ロボットとして開発したものだが、当初は被災建物の側面からの潜入を想定していた。だが、横からのアプローチだけでは制約が多く、新たな施策を模索していたところに、清水建設からクレーンを組み合わせた上方から潜入するユニットの提案があったという。
「横からではなく、上からカメラを落としていく場合にはより自由度が求められます。それに重力も考慮しなければなりませんでした。」と昆陽准教授が指摘するように開発は単純ではなかったが、能動スコープカメラの自由度を増すために従来は1カ所だった関節機構を2カ所に増設したり、重力による変形を考慮して機構の剛性を調整するなど、改良を重ねることで、探査性能を飛躍的に向上させることに成功した。
進化を遂げた能動スコープカメラだが、そこにはDC-DCコンバータやモータードライバーなど制御部品、電源関係やケーブル関連など、RSの部品が多用されていることも見逃せない。その理由を、10年以上にわたりRSを活用し続けている昆陽准教授が教えてくれた。「たとえば熱収縮チューブなどは、実際に熱を加えてみないとわからないことがあります。その点、RSなら小ロットからすぐ届くので、いろいろ試せてベストな部品を選択することができるのです。」
また能動スコープカメラは、過酷な環境下での使用を想定して開発しているため、他にも技術を転用しやすいという。水道やガスといった配管検査もそのひとつで、地面を掘り起こさずに検査が可能なため、インフラ系の老朽化対策としてのニーズがますます高まっている。
東北大学と清水建設(株)による被災地探索の新たなソリューション"ロボ・スコープ"。ロボット研究と建設のスペシャリストが手を組むことで、これまでにない価値を生み出すことができた。
「狭い世界だけで開発していると、限られたソリューションしか出てきません。異分野との交流を図ったり、新しい技術や素材からロボットを設計してみることも、新たなロボット開発につながります。」昆陽准教授のその言葉に、これからのモノづくりのヒントが隠されている。
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