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オシロスコープとは
オシロスコープの概要について解説します。
オシロスコープの概要
「オシロスコープ」とは、電気信号の変化を観察するための測定器です。時間とともに変化する電圧を、ディスプレイに波形として表示させることで観察できるようにしたのがオシロスコープ。オシロスコープで電気信号を測定すると、電圧をグラフとしてディスプレイ上に表示してくれます。グラフは垂直軸が電圧を、水平軸が時間の経過により変化する電気信号を表しており、「オシログラフ」と呼ばれるリサジュー図形を応用した2次元の波形として表示されます。
オシロスコープのメカニズム
オシロスコープが電気信号を測定し波形を描くメカニズムは、電子ビームのスクリーン衝突です。電子銃から放出された電子ビームを進路に対して曲げて、スクリーンに衝突させることでリサジュー図形による波形を描きます。電子ビームを同期させるには「同期掃引方式」「トリガ掃引方式」の2種類があり、目的や用途にあわせるためにはそれぞれの種類の特徴を把握し、選び方を熟知する必要がありますが、いずれにしても電子ビームをスクリーンに衝突させることにより波形を表示させるのがオシロスコープのメカニズムです。
オシロスコープの用途や特長
それでは、オシロスコープの用途や特長について見ていきましょう。
オシロスコープで測定できる項目について
オシロスコープで測定できる項目は、電圧・時間・リサジュー図形の3つです。電気信号を観察するための測定器として解説してきましたが、電圧だけでなく、周期や周波数などの時間の測定や、信号間の振り幅・位相差・周波数比などをリサジュー図形により測定することも可能です。オシロスコープは電気信号を測定するために広く用いられていますが、その他、時間測定やリサジュー図形による測定なども可能な測定器です。
用途1:学校での波形観測
オシロスコープは学校での波形観測にて頻繁に用いられます。電気信号を波形として表示してくれるわかりやすさから、教科書の内容を確認するために便利なためです。電気信号は目で観察することができませんが、オシロスコープを活用すれば電圧や音を視覚的に確認しやすくなるため、学校での波形観察のために用いられます。
用途2:電子機器の故障部位特定
オシロスコープは電子機器の故障部位を特定するためにも活用できます。電子機器内におさめられている回路に流れる電気信号をポイントごとに測定すると、電気の流れを観察できることから故障部位を特定しやすくなるためです。もちろん、電気に関する知識が必要とはなりますが、電子機器が故障した際に、故障部位を特定する目的で使用することもできます。
用途3:DIYでの電子工作
DIYにて回路を使用する際に、オシロスコープを活用する人も少なくありません。デジタルのオシロスコープは価格が安価で、個人でも購入・利用しやすい価格です。また、最近では中古品のオシロスコープも見かけられます。自分で電子工作した回路の電圧を測定するために、オシロスコープを活用する人もいるでしょう。
用途4:回路のチェック
作成した回路をチェックすることは、オシロスコープの用途において一般的です。前述のDIYでの電子工作とも共通しますが、回路を作成した後は、机上の計算と同様に電気が流れることを確認する必要があります。そこで、電気の流れをチェックするために利用されるのがオシロスコープです。作成した回路が正常に作動するかどうか確認するために、オシロスコープは必要とされます。
オシロスコープの選び方
オシロスコープは、電気計測において日常的に使用するものなので、使用目的に合う適切なオシロスコープを選定することは、重要な仕事です。各オシロスコープメーカーの製品仕様や機能を、ひとつひとつ比較検討する場合、時間を要し、どうしても無駄が多く、混乱の元になります。本ガイドで紹介する方法は、オシロスコープの選定作業を短縮でき、誤った選択を避けることができます。また、検討中のオシロスコープがどのメーカーのものでも、客観的に評価することができます。
初期投資を抑えるオシロスコープの上手な買い方
装置を選定する場合、現在行っている測定のデータを問題なく取得できるかという点で決定します。
オシロスコープの選定は、帯域幅、サンプリングレート、チャネル数、メモリ長など、多くの要素によって異なり、当然価格も重要視されます。
例えば、購入時は100MHz帯域で問題なく測定できでも、将来は200MHz帯域が必要になるかもしれない場合があります。この場合はまず、100MHz対応のオシロスコープを購入し、後日、200MHzのライセンスを購入することでアップグレードすることで、初期投資を抑えて購入できます。
最近のオシロスコープのハードウェアには、上位機種と同じ回路が組み込まれている為、ライセンスによるアップグレードが可能になりました。レンタルや中古を購入するという選択肢もありますが、初期の購入では最低限必要な機能で購入し、後日、必要に応じてアップグレードをしていくことが賢い買い方としておススメです。
※但しチャンネル数は増やすことはできません。
まずはアナログ項目を押さえよう ~ 機種選択の基本 ~
—— 予算の範囲で、できるだけ周波数の高いデジタルオシロスコープを選ぶのは賢い方法ですか?
オシロスコープを選定する場合、チャネル数・周波数帯域・サンプリングレートなどが基本要素になります。チャネル数は換えが効きませんから、第一に押さえなければなりません。汎用のデジタルオシロスコープは、2チャネルあればたいていの用途には対応できます。ですが、ロジックと組み合わさった機器などに使う場合は4 チャネル欲しくなるかもしれません。
その次はやはり周波数帯域でしょう。帯域が広い(最高周波数が高い)方が高速信号に対応できますから、できるだけ周波数の高いオシロスコープを選ぶというのは間違えではありません。
ですが、帯域が広がればオシロスコープの価格も高くなります。また、S/N(信号と雑音の比率)の点などから考えても測定する信号に対して帯域が広過ぎるのは最善とは言えません。測定信号が持つ帯域を程よくカバーできるオシロスコープを選ぶのがベストです。
ただ、このとき対象となるのは、信号の繰り返し周波数ではなく、信号の持つ周波数成分(スペクトラム)です。例えば、デジタル回路の方形波は繰り返し周波数の何倍もの周波数成分を含んでいます。波形を正しく測定するには、オシロスコープの周波数帯域がこれらの周波数を包含していることが肝心です。
図1は、繰り返し周波数(基本波)が50MHzの方形波を、60MHz、100MHz、350MHzおよび500MHzのオシロスコープで捉えたものです。この方形波に対しては基本波の10倍に相当する帯域が必要なことが分かります。なお、主に方形波信号を対象とする場合は、周波数帯域よりも立ち上がり時間のスペックで判断するのも賢い方法です。
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必要な帯域幅とは?
デジタル回路において、オシロスコープの帯域幅がアプリケーションに十分対応できるかどうかを確認するには、実際に表示したい信号の帯域幅を考慮する必要があります。
帯域幅はオシロスコープの最も重要な特性です。帯域幅が決まれば、表示される信号の範囲はもちろん、装置の価格もほぼ決まります。帯域幅を決める際には、予算や開発部門におけるオシロスコープの使用目的を考慮して判断します。
通常、オシロスコープが表示する最も周波数の高い信号は、システムクロックです。信号の形状を適切に表示するには、少なくとも周波数の3倍以上の帯域幅が必要です。
オシロスコープの帯域幅条件の決め手となるもう1つの信号の特性は、信号の立上がり時間です。観察するのは純粋な正弦波とは限りません。信号には、基本波周波数以上の高調波が含まれる場合もあります。例えば、方形波の場合は、信号の基本周波数の少なくとも10倍の周波数が信号に含まれています。方形波などの信号を観察する場合、適切なオシロスコープ帯域幅が得られなければ、ディスプレイに表示されるのは、期待どおりの鮮明で急峻なエッジではなく、丸みのあるエッジが表示され、測定の確度にも影響を与えます。
信号の特性を考慮した、適切なオシロスコープ帯域幅を決定する際に役立つ簡単な式:
1. 信号帯域幅 = 0.5 / 信号の立上がり時間 2. オシロスコープ帯域幅 = 2 x 信号帯域幅 3. オシロスコープのリアルタイム・サンプリングレート = 4 x オシロスコープ帯域幅 |
適切なオシロスコープ帯域幅が決まれば、同時に使用したいチャネルのサンプリングレートを考慮します。
上記の式3から分かるように、チャネルでオシロスコープの仕様帯域幅がフルサポートされるには、各チャネルのサンプリングレートをオシロスコープ帯域幅の4倍にする必要があります。
A/Dの仕組みを知って選ぶ ~ チャネル数とサンプリングレートの関係 ~
—— サンプリングレートが速いオシロほど優秀なのですか?
最高サンプリングレートだけでオシロスコープを比較することは適切とは言えません。ササンプリングレートは、A/Dコンバータの構成や信号の周波数成分とオシロスコープのアナログ帯域、表示の際の補間法(ドット間の表示)、それにメモリ容量などと密接に関係するからです。
したがって、どの条件でのサンプリングレートかに注意してください。例えば、デジタルオシロスコープでは複数のA/Dコンバータを組み合わせて一つの高速なコンバータとして動作させるインタリーブ方式の回路構成がしばしば採用されます。この場合、基本となるA/Dコンバータのスピードとその組み合わせ方によって得られるサンプリングレートが異なってきます。
図2に、AとB二通りの構成例を示しました。AB共に1チャネル動作時は 1GS / s(毎秒1ギガサンプル)が得られます。ところがAの場合、2 チャネル動作時は 500MS / sに低下します。これに対してBの構成では2チャネル時も1GS / s が維持されます。4チャネルの時にサンプル速度が1 / 4 になるものもあります。何チャネルでどの速度が得られるかはカタログに示されています。
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必要なチャネル数とは?
オシロスコープのチャネル数は、2個または4個で、一見したところ重要な問題には思われません。しかし、今やデジタル信号は至る所に存在し、デジタル信号の量の多少に関わらず、信号にトリガをかけて表示するには、従来の 2 / 4 チャネルのオシロスコープのチャネル数では必ずしも十分ではありません。このような状況では、外部トリガ用ハードウェアを作成するか、動作を分離するための特殊なソフトウェアを書く必要があり、手間が増えます。
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このようなデジタル回路の特殊性を考慮して、デバッグ用にミックスドシグナルオシロスコープが登場しました。ミックスドシグナルオシロスコープでは、一例をあげると、16個のロジックタイミングチャネルが追加され、オシロスコープチャネルと緊密に連携します。その結果、最高20チャネルの時間相関したトリガ、捕捉、表示が可能になりました。
ミックスドシグナルオシロスコープでのデバッグ例として、SDRAMを考えてみます。SDRAMの書込みサイクルを分離するには、5種類の信号(RAS、CAS、 WE、 CS、 クロック)を組合わせてトリガする必要があります。4チャネルのオシロスコープでは、このような基本的な測定も十分に行えません。
図3から分かるように、16個のロジックタイミングチャネルは、RASハイ、CASロー、WEハイ、CSでのトリガを設定するために使用されています。オシロスコープのチャネル1は、クロックの立上がりエッジの表示とトリガに使用されています。ロジックアナライザ/オシロスコープの一体型ソリューションでは、ロジックアナライザはオシロスコープにクロストリガをかける、またはその逆にオシロスコープはロジックアナライザにクロストリガをかけますが、ミックスドシグナルオシロスコープでは、オシロスコープチャネルとロジックタイミングチャネルの両方の条件が同時に満たされたときにトリガをかけることができます。
必要なサンプリングレートとは?
サンプリングレートも、オシロスコープを評価する際に極めて重要な仕様であり、注意すべき点があります。
多くのオシロスコープでは、インタリーブ方式が組み込まれており、2個以上のチャネルのA/Dコンバータを連動させると、4チャネルオシロスコープの1個か2個のチャネルで最高のサンプリングレートが実現されます。
オシロスコープの仕様には、このように最大限に高められたサンプリングレートだけが強調して明記され、サンプリングレートが単一チャネルにしか適用できないことは明示されていません。4チャネルオシロスコープの購入を検討する際には、単一チャネルだけではなく複数のチャネルでフル帯域幅を使用したい場合もあることを考慮してください。
必要な帯域幅を考慮する際に使用した式より:
3. オシロスコープのリアルタイム・サンプリングレート = 4 x オシロスコープ帯域幅 |
オシロスコープのサンプリングレートはオシロスコープの帯域幅の少なくとも4倍は必要でした。4 x の乗率は、オシロスコープが sin (x) / x 補間などのデジタル再構成方式を採用している場合に使用します。オシロスコープがデジタル再構成方式を採用していない場合、乗率は10 x でなければなりません。ほとんどのオシロスコープでは、何らかのデジタル再構成方式が採用されているので、4 x の乗率で十分なはずです。
sin (x) / x 補間を採用している 500MHz オシロスコープについて考えてみましょう。このオシロスコープの場合、各チャネルで 500MHz のフル帯域幅をサポートするための最低サンプリングレートは、1チャネルあたり 4 x ( 500MHz )、すなわち 2Gサンプル / s です。従来の 500MHz オシロスコープには、最大5Gサンプル / s のサンプリングレートを宣伝する製品もありますが、5Gサンプル / s のサンプリングレートが単一チャネルにしか適用できないことの指摘はありません。
これらのオシロスコープで3個または4個のチャネルを使用する場合には、実際には1チャネルあたりのサンプリングレートは、1.25Gサンプル / s になります。複数のチャネルで 500MHz 帯域幅をサポートするには不十分です。
サンプリングレートを調べるためのもう1つの方法は、捕捉するポイント間の分解能を先に決定する方法です。
サンプリングレートは、簡単に言えば分解能の逆数です。例えば、ポイント間の分解能を 1ns にしたい場合は、サンプリングレートは、1 / 1 (ns) = 1G サンプル / s になります。
結論としては、複数のチャネルを同時に使用する際に、検討中のオシロスコープが1チャネルあたりのサンプリングレートを十分に確保できるのか、また各チャネルがオシロスコープの仕様帯域幅をサポートできるのかという点を確認してください。
長さとスピードの深い関係 ~ メモリ長とサンプリングレートの注意点 ~
—— 機種によってメモリ長に大きな差があるように思えます。オプションだったり標準搭載だったりよく分かりません。
デジタルオシロスコープは、メモリに取り込まれたデータを画面に表示するわけですから、無限大のメモリを使って一度に全ての信号を取り込むのが理想です。高速・大容量記憶しておけば、後から好きな部分を拡大して見ることもできます。ですが、実際には有限のメモリを使いますし、メモリが長くなればデータの処理時間も多くかかってしまいます。そこで機種毎の処理性能に合わせた現実的なメモリ長が採用されているわけです。
メモリ長で注意したいのは、サンプリングレートと信号が取り込まれる時間長の関係です。例えば、1GS / s (1ns) で4,000点(4Kポイント)分のメモリを搭載している場合、記録できる時間長は4μs です。オシロの時間軸設定を遅くしていくと、画面の横軸が 4μs 以上になりますが、その場合は画面の一部にしか波形が表示されないことになります。そこで多くのオシロスコープでは、時間軸設定が遅い場合はサンプリングレートも追従して遅くなるようになっています。常に最高速度でサンプリングされるわけではないことに注意してください。
図4は、80MHz の方形波を低速(1ms / div )で掃引した場合の二つの結果を示しています。左側(A)は 2M ポイントのロングメモリ、右側(B)は 2K ポイントの場合です。2M ポイントの場合は高速サンプルのまま信号が取り込まれていますが、2K ポイントではサンプリング周波数が下がった結果、エリアジングを生じ、あたかも信号であるかのように見えています。エリアジング(aliasing)というのは、サンプリングがナイキスト周波数(信号周波数 × 2 )を下回った場合に、別の周波数に変換されて現れる現象で、本来の信号とは全く別のものです。
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必要なメモリ長とは?
帯域幅とサンプリングレートには密接な関係がありますが、メモリ長もまた、サンプリングレートと密接に関係しています。A/Dコンバータが入力波形をデジタルに変換し、そのデータがオシロスコープの高速メモリに保存されます。オシロスコープの選定する際の重要な要因に、この保存情報がオシロスコープでどのように使用されるのかについて理解する必要があります。これにより、データの捕捉、拡大表示、演算、測定、捕捉データに対する後処理などの機能が大きく異なってきます。
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オシロスコープの最大サンプリングレートの仕様が、すべてのタイムベース設定に適用されると勘違いしている場合があります。そのようなオシロスコープは理想的ですが、ユーザの誰も購入できないほどの大容量のメモリが必要になります。
メモリ長は限られており、どのようなオシロスコープも、タイムベースの設定範囲が広がれば広がるほど、サンプリングレートが低下します。装置のメモリ長が増えれば増えるほど、フルサンプリングレートで捕捉できる時間は長くなります。現在市場で一般的なオシロスコープには、1秒あたり数ギガ(G)サンプルのサンプリング速度と10,000ポイントのメモリが備わっており、タイムベースを 2 ms / div 以下に設定すると、サンプリングレートは強制的にキロサンプル / s のオーダまで遅くなります。サンプリングレートがタイムベース設定によってどのような影響を受けるのかを確認するには、オシロスコープを調べる必要があり、システム動作のフルサイクルを表示するために必要な掃引速度で動作している場合には、数キロヘルツ( kHz )の帯域幅しかありません。必要なメモリ長は、維持したいサンプリングレートだけでなく、表示時間によっても決まります。高いポイント間分解能で長期間にわたり観察する場合は、ロングメモリが必要になります。タイムスパンとサンプリングレートが決まれば、次の簡単な式から必要なメモリ長が求められます。
メモリ長 = サンプリングレート x ディスプレイ上の表示時間 |
波形を拡大表示してさらに詳細に調べる場合は、オシロスコープ上のすべての時間設定で高いサンプリングレートが必要です。そうすれば、信号のエリアジングを回避できるだけでなく、波形の細部まで詳細に表示できます。
メモリ長が決まれば、最長のロングメモリ設定でオシロスコープ動作を確認することも重要です。従来のロングメモリアーキテクチャを採用しているオシロスコープは、応答が遅く、生産性にマイナスの影響を与える可能性があります。応答が遅いので、ロングメモリをスペシャルモードにするメーカーも多く、エンジニアは通常、他に方法がない場合のみ、ロングメモリを使用していました。メーカーは長年にわたって、ロングメモリアーキテクチャを研究して来ましたが、依然として低速で、動作に時間がかかりすぎるロングメモリもあります。購入する前に、最長のロングメモリ設定でのオシロスコープの応答性を評価する必要もあります。
異常を確実に捉える能力 ~ 波形更新レートに注目 ~
—— 突発的な現象をとらえるにはメモリが長いほど有利ですよね?
デジタルオシロスコープは、信号の全ての部分を捉えているわけではないことは、突発的・偶発的な異常の解析に当たって留意しなければならない事項の一つです。そして、メモリ容量が大きいほど偶発的な現象を捉える確率は高くなります。
図6は、連続した正弦波の一部に欠陥がある場合を示しています。赤い枠で囲んだ四角の部分はオシロスコープに取り込まれる範囲を示しています。メモリ容量を増やすということは、図で赤い枠の横幅を広げることを意味します。したがって異常部分と重なる確率は確かに大きくなります。
しかしながら、実際のオシロスコープでは波形データの処理に時間がかかるため、波形を取り込む時間よりも波形を取り込むことができない“デッドタイム”の方がずっと長くなります。サンプリングレートとメモリ長にもよりますが従来型のオシロスコープのデッドタイムは全体の90~99%にもなります。したがって、効果的に異常部分を捉えるには、メモリ容量を増やすことよりも波形を更新するレートを上げた方が有利です。オシロスコープによっては、毎秒10万回という高速波形更新レートを持ち、デッドタイムは全体の50%以下というものもあります。
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必要な表示機能は?
アナログオシロスコープの時代、画質はCRTディスプレイにより決まっていましたが、デジタルオシロスコープでは、ディスプレイの物理的な特性ではなく、主にデジタル処理アルゴリズムによって決まります。一部のメーカーは、従来のアナログオシロスコープのディスプレイとデジタルディスプレイの差を少しでも克服するために、製品に特別な表示モードを追加しました。しかし、開発部門に最適なオシロスコープを選ぶには、仕様を検討するだけでは十分ではありません。
ニーズに最適なオシロスコープを決定するには、デモで実際に波形を観察するしかありません。
今日のデジタルオシロスコープは、波形ビュワーと波形アナライザの2つのカテゴリに大別されます。表示用のオシロスコープは、通常、テスト/トラブルシューティングに使用されます。このようなアプリケーションでは、波形の画像から必要な情報を入手することになります。
波形解析では、Microsoft® Windows®の機能や高度な解析機能を使用して、ターゲットの情報を解析します。この場合でも、製品のデータシートを検討するだけでは、オシロスコープが最適であるかどうかを判断することはできません。オシロスコープから期待どおりの表示が得られるかどうかは、実際のデモで確認する必要があります。
必要なトリガ機能は?
多くの汎用オシロスコープには、エッジトリガ機能が備わっています。アプリケーションによっては、拡張トリガ機能があると便利な場合もあります。高度なトリガ機能を使用すれば、表示したいイベントを分離することができます。例えば、デジタル回路では、パターンでトリガがかけられると大変便利です。一体型のロジックアナライザ / オシロスコープソリューションでは、2つの測定器の各入力 / 出力トリガ信号をケーブルで接続して各測定器にクロストリガをかけるだけですが、前述のように、ミックスドシグナルオシロスコープを使えば、ロジックチャネルとオシロスコープチャネルの両方のパターンでトリガをかけることができます。
シリアル通信用に、一部のオシロスコープには、SPI、CAN、USB、I2C、LINなどのシリアルトリガ機能が内蔵されています。さらに、高度なトリガオプションがあれば、日常のデバッグ作業に要する時間を大幅に短縮することができます。
発生頻度の低いイベントの捕捉には、グリッチトリガ機能が便利です。グリッチトリガを使えば、グリッチでトリガをかけたり、特定の幅よりも大きなまたは小さいパルスでトリガをかけることができます。これらの機能は、特にトラブルシューティングに便利な機能です。障害箇所でトリガをかけ、トリガ前の状態を調べて、問題の原因を突き止めることができます。
市販されているオシロスコープの多くには、TV / ビデオアプリケーションに対応するトリガ機能が備わっています。オシロスコープのTVトリガを使用すれば、表示したいフィールドや特定のラインでトリガをかけることができます。
信号のプロービングに最適な方法は?
周波数が高くなるにつれ、オシロスコープの特性だけでなく、プローブの特性も重要になってきます。パッシブプローブは通常 600MHz までに制限されているため、オシロスコープの性能をフルに発揮できるプローブが必要になります。システム帯域幅、すなわちオシロスコープ/プローブの組合わせの帯域幅は、2つの帯域幅のうちの小さい方によって制限されます。例えば、1GHz オシロスコープと 500MHz パッシブプローブを組み合わせた場合のシステム帯域幅は 500MHz になります。プローブのために 500MHz の帯域幅しか得られないのであれば、1GHz オシロスコープを購入しても無駄になります。プローブを接続すると、被試験回路の一部になります。プローブの先端は、基本的には短い伝送ラインです。
この伝送ラインはLC共振回路であり、この伝送ラインは1/4波長で、LC共振回路のインピーダンスがロー(ゼロに近い)でドライブされ、被試験デバイスに負荷をかけます。遅い立上がり時間や信号のリンギングにより、LC共振回路がかける負荷を簡単に確認できます。
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アクティブプローブは、パッシブプローブより帯域幅が広く、プローブを被試験デバイス(DUT)に接続した際に伝送ラインへ与える影響を多少緩和することができます。
アクティブ・プローブにプローブ先端の「ダンピング」抵抗やアクセサリを組み合わせることで、信号負荷とその結果生じる信号の歪みを最小限に抑えたプローブでは、「ダンピング」アクセサリの働きで、LC共振回路のインピーダンスが低くなり過ぎることはなくなり、信号に負荷がかかることによって生じるリンギングや信号の歪みが回避されます。
さらに、「ダンピング」アクセサリを使用すれば、プローブの周波数応答はプローブの帯域幅全体でフラットになります。応答がフラットであれば、プローブの帯域幅全体で信号の歪みを回避することができます。
次は、高速信号をプロービングする際に、プローブ・ヘッド・アクセサリを使用しても、プローブがフル帯域幅を提供できるかどうかを確認することです。プローブ・アンプとプローブ先端の間に制御伝送ラインを使用して、プローブ帯域幅を最適化したプローブを使用することで、単一の増幅器を使用して、ブラウジング、ソケット、はんだ付け、SMAなどの様々な差動/シングルエンド・プローブ・ヘッドを接続でき、フル・システム帯域幅を確保できます。また、プローブ・アンプは、実際には制御伝送ラインによってプローブ先端から離れているので、狭いプロービング・スペースにも簡単に手が届きます。
重要なことは、様々なプローブ・ヘッドやアクセサリを使用する際に、プローブの帯域幅仕様を把握しておくことです。アクセサリは、プローブの性能を劣化させる可能性があります。何十万円も広帯域アクティブ・プローブでも、プロービングの構成によっては著しく性能が劣化する可能性があります。
必要なドキュメント / コネクティビティは?
デジタルオシロスコープの多くは、パソコン(PC)で使用可能なGPIB、RS-232、LAN、USBインタフェースなどを備えています。画像をプリンタに送信したり、データをPCやサーバに転送する作業は、従来よりはるかに簡単です。オシロスコープからデータをPCに転送する作業が多い場合は、上述の接続オプションのうちの少なくとも1つはオシロスコープに装備されていることが重要です。内蔵のCD-ROMドライブは、USBまたはLAN接続経由によるファイル送信に比較すれば、多少労力を伴いますが、データの転送に便利です。LANやUSBなどの高度な接続オプションを持たない低価格のオシロスコープについては、波形イメージやデータをGPIBやRS-232経由で簡単にPCに転送できるようにするソフトウェアパッケージを、ほとんどのメーカーが用意しています。
PCにGPIBカードがない場合や、波形をラップトップPCに簡単に転送したい場合は、GPIB/USBコンバータを使用します。さらに、データ保存にも使用できる数GBのハードディスクドライブも多くのオシロスコープに備わっています。どのようなコネクティビティやドキュメント機能がオシロスコープに必要なのかを考えておく必要があります。
オシロスコープを自動テストシステムの一部として使用する場合は、ソフトウェア、プログラミング環境に対応するドライバが付属していることを確認する必要があります。
波形の解析方法は?
自動測定や内蔵の解析機能により、時間を節約できるだけでなく、作業が簡単になります。ほとんどのデジタルオシロスコープには、アナログオシロスコープにはない測定機能や解析オプションが用意されています。演算機能には、加算、減算、乗算、除算、積分、微分があります。統計測定(最小、最大、平均)により、測定の不確かさが明確になり、ノイズ / タイミングマージンの特性を評価することも可能になります。さらに、FFT機能も多くのデジタルオシロスコープに内蔵されています。
波形解析用に、メーカーは、従来より優れた柔軟性を備えたミッドレンジおよびハイパフォーマンスのオシロスコープを提供しています。また、一部のメーカーでは、複雑な測定をカスタマイズしたり、演算機能や後処理機能をユーザインタフェースから直接実行することができるソフトウェアパッケージを用意しています。例えば、C++やVisual Basicなどの言語で測定ルーチンを書いて、オシロスコープのGUI(グラフィカルユーザインタフェース)のメニューから実行することも可能です。この機能を使用すれば、外部PCへのデータ転送が不要になり、時間を大幅に節約することができます。
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オシロスコープを試してみる
本ガイドの内容を考慮すれば、要件に適合するオシロスコープの選択範囲を絞ることができます。
その後、対象となるオシロスコープを実際に試して、個別に比較検討します。数日間、オシロスコープを借りて、十分に評価します。オシロスコープを使用する際に考慮すべき点は以下です。
- 使いやすさ:試用期間中、次の点に関してオシロスコープの使いやすさを個別に評価します。
- 垂直感度、タイムベース速度、トレース位置、トリガレベルなど使用頻度の高い調整項目について使いやすい専用のつまみがあるか
- ある操作から次の操作に移るときいくつの押しボタンを操作する必要があるか
- 回路を試験している最中でもオシロスコープの操作は分かりやすいか
- ディスプレイの応答性:オシロスコープの評価では、ディスプレイの応答性に注目します。これは、オシロスコープをトラブルシューティングに使用する場合でも、大量のデータを収集する場合でも重要な要素です。V/div、Time/div、メモリ長、位置の設定を変更する際に、オシロスコープが迅速に応答するかどうかをチェックします。また、測定機能をオンにして同じことを試し、応答が著しく低下するかどうかを調べます。
オシロスコープ 関連商品
用語集
エリアジング信号 |
ナイキストレート(信号の最大周波数成分の2倍)以下でサンプリングされたため、信号の周波数成分が変更されてしまった信号(一般に電気信号)。 | ||
CAN |
コントローラエリアネットワーク(Controller Area Network)。自動車業界や産業界でよく使用される信頼性の高いシリアル通信バス規格。 | ||
デジタルオシロスコープ | 高速A/Dコンバータ(ADC)を使って信号を測定し、コンピュータグラフィックス技術を用いて画面上(CRTまたはLCD)に表示するオシロスコープ。 | ||
GPIB |
IEEE-488バスとも呼ばれる汎用測定器バス。テスト機器をコンピュータに接続したり、プログラミング可能な機器制御を提供するためのインタフェースとして広く使用されている。 | ||
高調波 | 信号の基本波の整数倍の周波数成分。 | ||
I2C | 集積回路間バス。同一プリント基板上の複数の集積回路間のトークによく使用される、2つの信号(クロックとデータ)から構成される短距離シリアル通信バス規格。 | ||
インタリーブ | デジタルオシロスコープに用いられる技術で、異なるアナログチャネルのADCを同時に使用して、使用するチャネル数を減らすと、サンプリングレートやメモリ長を増加させることができる。 | ||
LC共振回路 | インダクタンスとキャパシタンスから構成される回路。回路が共振または同調状態にある周波数近傍に連続分布するバンドに電気を蓄えることができる。 | ||
LIN | ローカルインターコネクトネットワーク。短距離シリアル通信規格で、CANバスが備わったシステムでよく使用される。LINは、CANバスより低速だが、CANバスほど複雑ではない。 | ||
ミックスドシグナルオシロスコープ (MSO) |
アナログ信号およびデジタル信号を観察するために、従来より多数のチャネルが備わったデジタルオシロスコープ。MSOには、通常、2個か4個のアナログ・チャネルがあり、最低でも8ビットの垂直軸分解能が備わっている。通常16個のデジタルチャネルがあるが、各チャネルの垂直軸分解能はほとんどの場合1ビットしかない。 | ||
SDRAM | 同期ダイナミックランダムアクセスメモリ(Synchronous Dynamic Random Access Memory)。最も一般的なデジタルメモリ。すべての信号のタイミング基準が1つのクロックである点で、前世代のDRAMと異なる。 | ||
SPI | シリアル周辺機器インタフェース(Serial Peripheral Interface)。ADCなどのマイクロコントローラ周辺機器からデータを読み込むために広く使用される。2つ(クロックとデータ)か3つ(クロック、データ、ストローブ)の信号から構成される非常に簡単な短距離シリアル通信バス規格。 | ||
USB |
ユニバーサルシリアルバス(Universal Serial Bus)。テスト機器を含めた周辺装置をコンピュータに接続するためのインタフェース。 |