RSものづくりレポート
注目のパワーアシストスーツ

介護する人を助けるパワーアシストスーツ。
その長き開発のそばに、RS。

神奈川工科大学  創造工学部 ロボット・メカトロニクス学科
山本 圭治郎 教授


介護する人を力持ちにするという発想。

  神奈川工科大学の山本研究室に足を踏み入れると、近未来を予感させるパワードスーツが迎えてくれた。人を包み込むアルミの骨格、背面に備えつけられた機器類。しかしそれは、迫力ある出で立ちとは裏腹に、人を助けるために開発された医療・福祉用のパワーアシストスーツである。

  「少子・高齢化が進み介護の重要性が高まるにつれ、切り離せないのが介護をする側の健康問題。たとえば、車椅子からベッドへの移乗などの重労働によって、腰を痛めてしまい、介護したくてもできなくなってしまうケースが多々あるのです。」と開発者の山本教授。機械による介護システムが急務となるなか、山本教授が目指したのが、介護する人の代わりとなるロボットではなく、“介護する人を力持ち"にするという人中心の発想。その鍵となったのは、アクチュエータとして利用しているエアバッグだった。アシスト力の発生にはモーターを用いりがちだが、それだと動きが固く使い心地も悪い。だが、風船のような弾力性がある空気なら、やわらかさは維持しつつ、強力なアシスト力で関節の働きを助けることができる。事実、これを装着すれば、体重を意識せずに介護される方を軽々と持ち上げることが可能だ。また、スーツ自体に足底が付いているため、着る人がスーツの重さを感じることもないという。

  「患者さんの身体にふれるのは、機械ではなく人間であるべきです。ですから、介護を受ける方が機械と直面しないように、機械類は背負う形にしました。これだと抱き上げられる際も、通常と同じ感覚でいられますから。」

  介護する人が動きやすく安全に使用できること。介護される側にもやさしいシステムであること。難題を解決するのが、このスーツである。

「パワーアシストスーツ」(下)

  
アシストスーツをRSの部品もアシスト。

   注目を集めるパワーアシストスーツだが、開発は決して順調なものではなかった。ポンプやバッテリの軽量化など、人が機械を背負いバランス良く歩けるまでには、約10年の歳月を費やしたという。さらに、肩と腕の前後・左右の動きに対応するユニットの開発や、関節トルクを検出する筋肉硬さセンサーの搭載など、いくつもの進化を重ね、ようやく実用化の目処が見えてきた。パワーアシストスーツには、回路内の電子部品をはじめ、コネクタやケーブルなどRSの部品が数多く使用されている。RSの部品もまた、その長い開発の歴史をともに辿ってきたのだ。「試作はもちろん、展示会前の改良など納期がずらせないシチュエーションでも、すぐに部品が届くRSは欠かすことができません。必ず手に入る保証はとても大きい。実用化の際にも、RSの小ロット対応のサービスは役立つと考えています。」と山本教授は笑顔で語る。
  
  そうしたエアバッグ技術を活かし、ひと足早く実用化したのがベローズハンドと呼ばれるアシストグローブだ。手のマヒのリハビリに利用されるもので、ベローズというふいご状のチューブ内の空気を出し入れすることにより、指先の動きをやさしくサポートする。原理は至ってシンプルだが、すでに医療現場から高い評価を得ているという。

  スーツにしても、グローブにしても、見た目は決して目新しいものとは言い難い。だが、既存のものや考え方を活かすことも大切と山本教授は付け加えられた。「私たちの目的は技術開発ではなく、人を助けることです。だから、活かせる技術があれば、形はどうあれ何でも取り入れていく。難しく考えすぎないことが、ブレークスルーの近道ではないでしょうか。」実は、このスーツはかつてLSIの登場により衰退した、空気を使う流体制御素子がその礎となっている。目的を完遂するための柔軟な発想。そこに、これからの時代を切り拓くヒントがあるのかもしれない。

「ベローズハンド」(下)

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