小型パワーチョーク(インダクタ) 編


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小型パワーチョーク(インダクタ) 編

太陽誘電株式会社に聞く!小型パワーチョーク(インダクタ) 編

使う前に、選ぶ前に、これだけは知っておきたい部品のジョーシキ。
今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。

取材協力:太陽誘電株式会社 様

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小さいのにはワケがある
小型化の背景

部品の小型化が進んでいますね

電子部品の小型化は電子機器の小型・高密度実装化に伴う必須要求であり、インダクタ( コイル) の小型化も例外ではありません。小型インダクタの用途は<図1>に示す3種に大別できますが、スイッチング電源に用いるパワーチョークでも小型化が進展しています。パワーチョークの小型化にはスイッチング電源の回路動作とデバイスの進化が密接に関連しています。一般に、インダクタのインダクタンス値は巻き数が多いほど、大きく巻くほど、そして磁束が貫く媒体の透磁率が高いほど大きくなります。パワーチョークではフェライトなど透磁率の大きな磁性体をコア(巻き枠)に使用し、空芯に比べてはるかに大きなインダクタンス値を得ていますが、コイルを小型化すると巻き径は小さくなり巻き数も減るのでインダクタンス値は小さくなってしまいます。また、小さなコアの巻き線に大きな電流が流れるとコアの磁気が飽和してインダクタンス値が急激に減少します。その意味からもパワーチョークの小型化は難題です。このため、機器を小型化するにあたっては、それまでよりも小さなインダクタンスでも動作するように回路が進化してきました。具体的には電源のスイッチング周波数を高くしてパワーチョークのインダクタンス値を小さくする傾向にあります。<図2>にスイッチング周波数とインダクタンス値の変遷を、<図3>には大きさとの関係を示しました。スイッチングを速くするとスイッチデバイスでの損失が増えるため一意に高速化することは難しいのですが、高速・低損失のパワーMOSFETが手に入るようになってきたこともあり、最近の小容量電源ではμHオーダのインダクタを数MHz台の周波数でスイッチするものが主流となっており、1μH以下が使われる例も見られるようになってきました。

図1:小型インダクタのアプリケーション

小型インダクタのアプリケーション

図2:スイッチング周波数とインダクタンス

スイッチング周波数とインダクタンス

図3:スイッチング周波数とインダクタの形状

スイッチング周波数とインダクタの形状

磁界を閉じこめる
種類と構造

種類と選択法を教えてください

インダクタは一台の機器内でも多数使用される汎用部品ですので、メーカ等によらず標準化されていることが望ましいと言えます。そのため、インダクタンス値や基本形状など基本的なパラメータはJISなどで規格化されています。しかしながら、実際の商品ではバリエーションが多く、抵抗やコンデンサなど他の汎用部品に比べ標準化の度合いが弱い部品でもあります。形状についても必ずしも統一されていないのが実状です。

パワーチョークを構造面で分類すると、積層の技術で巻き線を形成したもの、棒状のコアに巻き線を施したもの、ドラム型のコアに線を巻いたものの三つがあります。この順に適応する電流が大きくなりますが、例えばフェライト樹脂で封止することで磁束の漏れを防ぐなど、それぞれに小型化の工夫が凝らされています<図4>。選択に際しては、回路動作で決まるインダクタンス値とンダクタに流れるピーク電流を出発点とし、形状や周波数特性などを要件に加えて品種を絞り込みます。スイッチングレギュレータのインダクタに流れる電流はオフセットを伴った三角波状であり、直流電流と高調波を含んだ交流電流の合わさったものでだからです。

図4:インダクタの種類と構造

インダクタの種類と構造

LなのにLCR
電気特性と等価回路

構造のわりに特性は複雑みたいです

世の中に理想の部品というものは存在しません。インダクタとして実際に線を巻けば線間に浮遊容量(Cp)が生じますし、巻き線や端子には直流抵抗分(Rdc)があります。さらに、コアにも交流損失(Rac)があります。これらを考慮したインダクタの等価回路が<図5>で、通常はこの回路で考えて大きな間違えはありません。ただし、コアの特性は周波数や電流に対して非線形性を示すなど、各素子(特にRac)の値は必ずしも一定ではなく、非線形の要素を含むことも承知しておくべきです。

<図6>はインダクタンス値とインピーダンスの周波数特性の例です。インダクタンス値は高い周波数で急低下しており、インピーダンスは共振特性を持っていることが分かります。ちなみに、カタログ記載のインダクタンス値(公称インダクタンス値)は多くの場合100kHzでの値です。

なお、インダクタは抵抗などに比べてバラツキが大きくなりがちな部品です。比較検討に際しては誤差などの定義や測定条件にも注意を払ってください。例えば直流抵抗や温度上昇などはメーカによって異なり、maxで規定するものとtypで規定しているものがあります。

図5:インダクタの等価回路

インダクタの等価回路

図6:周波数特性例

周波数特性例

熱と戦う
直流重畳と温度上昇

設計や実装上での注意点は何ですか

一般のインダクタと異なり、パワーチョークでは、直流電流が重畳した状態で使用される事がほとんどです。このため、設計や実装に当たっては重畳する直流電流が及ぼす影響を考慮することがポイントになります。主要な要素はインダクタンス値の変化と発熱で、この二つによって流せる直流電流の大きさが決まります。前述のようにインダクタに電流を流していくと磁気飽和によって実効的なインダクタンスは低下してゆきます。コアの磁気飽和が原因ですので、低下の割合はコアの大きさにも深く関係します。<図7>にサイズによるDCバイアスの重畳特性の違いを掲げました。一方、直流重畳による発熱は巻き線の抵抗に起因するジュール熱です。発熱の電力(銅損)は電流の2乗に比例しますので電流が増えると発熱は急激に増加します。なお、発熱にはスイッチングの交流成分による損失(鉄損)も加わります。パワーチョークでは直流重畳許容電流と温度上昇許容電流が規定されていますので、いずれも満足する定格電流値での回路設計を心がけてください。

図7:サイズによる直流重畳特性の比較

サイズによる直流重畳特性の比較

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