環境に貢献する自動車用Liイオン電池


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環境に貢献する自動車用Liイオン電池

取材協力:NECラミリオンエナジー株式会社 様

先進のMn系イオン電池搭載EV。神奈川県でも試験導入!

ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車など、環境配慮型の自動車に欠かせない二次電池。その中で、次世代型のマンガン系Li(リチウム)イオン電池の製造販売を手がけるのがNECラミリオンエナジーである。この電池は長寿命化が難しいことから、これまで自動車では採用されてこなかった。同社がその実用化に成功した背景には、ものづくりに対するあくなき挑戦がある。内海和明社長に、自動車用電池開発にかける意気込みと将来を聞いた。

独自のMn系Liイオン電池を開発

NECラミリオンエナジー株式会社
内海和明社長

NECラミリオンエナジー株式会社 内海和明社長

NECラミリオンエナジーは2002年5月、日本電気株式会社(以下NEC)と富士重工業株式会社(以下富士重工)の合弁で発足した。NECは1990年初頭から携帯電話用電池の研究開発に取り組んでおり、マンガンスピネル(LiMn2O4)を正極に採用した電池は1992年頃から提供を開始していた。この電池は安全性が高く、パワーが出る。その特性をもっと生かせる分野ということで自動車用を目指し、電気自動車(EV/HEV)開発に取り組む富士重工と提携し、合弁企業を設立したわけである。

自動車への搭載が実現した昨年に合弁は解消したが、富士重工への技術供与や製品提供は継続している。富士重工は東京電力向けにこのMn系Liイオン電池を搭載した「R1e」というEVを開発しており、現在、「TEPCO EV」として約40台が市中を走っている。さらに今年(2007年)9月から、神奈川県が同タイプのEVを業務用に試験導入を開始した。このほか日産自動車の燃料電池車(FCV)にも同社のMn系Liイオン電池が搭載されている。

Li系に移行し始めた自動車電池

国産ハイブリッド車に初搭載されたことから、現行の自動車用電池はニッケル水素電池が多い。ただし課題も少なくない。例えば、鉛やニッカドなどもそうだが、ニッケル水素電池は電解液に水を使う。これは燃えにくいが、水は電気分解するので一つのセルの電圧は1ボルト前後しか取れないというネックがある。

「その点、Liイオン電池は3~4Vという高い電圧が取れる。これは電解液に有機溶剤を使っているからで、Liイオン電池1個でニッカドやニッケル水素を3個直列に繋いだのと同等の高電圧が得られる。それだけエネルギーを蓄えられ、従って小型化が実現できるわけです」

通常の二次電池は充放電を繰り返すうちに、正極と負極の間に新しい化合物ができたり消滅したりする。それによって体積が変動し、機械的な疲労現象を起こし、突然動かなくなったりする。

これに対してLiイオン電池の場合は、インターカレーションといって正極と負極の中間にイオンの出入りする道筋ができている。従って他の二次電池のような化学反応が起きず、非常に安定している。

また、ニッケル水素は充電のために過電圧が必要だが、それはすべて熱になるのでエネルギー効率が悪い。さらにニッケル水素や鉛電池は自己放電が多い。Liイオン電池にはそれが少ないので、走行燃料を比較してもLiイオン電池は回生能力に優れ、効率がよい。こうしたことから、携帯電話が短期間にニッケル水素からLiイオン電池に移行したように、自動車向けも将来的にはLiイオン電池に替わっていくと見られている。

図1:リチウム電池とニッケル水素電池(NiMH)の比較

図1:リチウム電池とニッケル水素電池(NiMH)の比較

過充電安定性に優れるMnスピネル

ひとくちにLiイオン電池といっても、正極材料の違いによってマンガン(Mn)系、コバルト(Co)系、ニッケル(Ni)系など、いくつかの種類がある(負極は、いずれもカーボン)。このうちCo系は携帯電話に使われる。それはエネルギーを多く蓄積できるからだが、過充電に対する安定性や埋蔵量(量産コスト)、環境への負荷という点で課題が少なくない。

「当社がMn系、中でもマンガンスピネル材料を採用しているのは過充電安定性と熱安定性に優れているから。Co系やNi系はCo/NiとLiが層状構造をしており、理論的には全てのLiを負極側に移すことができる。ただし結晶構造なので全部移すとLiがなくなり、結晶構造が崩れる。言い換えれば、過充電によって結晶構造が崩れ、熱暴走して爆発、発火する危険性があります」

これに対し、マンガンスピネル材料は、Li層Mnの中にMnの柱が立っている構造なので過充電状態でも結晶構造は変化せず、安定性に優れる。従って本質的に熱暴走などを起こさない。これは人命に関わる自動車用電池としては不可欠の条件といえる。

図2:マンガンスピネル材料の優位性 ─ 過充電安定性 ─

図2:マンガンスピネル材料の優位性 ─ 過充電安定性 ─

また、埋蔵量が豊富なために材料コストや量産コストを抑えることができ、熱分解温度や環境負荷の点でもCo系やNi系に比べて優れている。こうしたことから、市場もMn系に移行しつつある。

ラミネート構造も特徴の一つだ。正極、セパレータ、負極を重ね合わせ、タブと呼ぶ引き出しを正極と負極に設け、電解液を封入してアルミラミネートで外装したもの。この構造は非常に薄くでき、表面積も広いので、放熱性に優れる。サイズ変更が容易というメリットもある。

図3:ラミネート型リチウムイオンセル構造

図3:ラミネート型リチウムイオンセル構造

飽くなき研究心で課題を克服

自動車は平坦な街中だけでなく、熱帯や寒冷地など温度条件の厳しい中で、振動や衝撃を受けながら走行する。従って搭載する部品や装置には民生機器とは桁違いの性能を要求される。それは自動車用電池も同じだ。

「最低10年は持たないといけません。ところがMn系は従来から長寿命化が難しいと指摘されてきました。その最大の要因はMnが電解液に溶けてしまうことです。そこで、正極材料に特殊な添加物を加えることによってMnの溶解量を3桁ほど下げることが出来ました。そこが一つのブレイクスルーでした」

ただし、マンガンスピネル材料を使った自動車用電池は、現実には開発してから10年経ってはいない。そこで同社では10年の耐久性を検証できるアルゴリズムを確立している。

そうしたブレイクスルーはあるが「基本的には日々の細かい要素の積み重ね」と内海社長は語る。それによって生産技術を進歩させていく。自動車用電池には、民生用とは違った難しい評価項目が少なくない。それを対処するには評価方法そのものから確立しなくてはならず、少量のサンプルを手づくりで試行錯誤しながら開発する必要も出てくる。

「そういうときアールエスコンポーネンツを利用しています。昔は秋葉原まで出かけたものですが、あの頃こういうものがあったら、その時間を研究開発に有効に使えたと思うと、今のエンジニアたちが少し羨ましいですね(笑)」

今後はEV化、環境貢献に精力注ぐ

同社は今後、HEV用、EV用、プラグイン用の3種に対応した自動車用電池を開発していく計画だ。HEV用は通常、電池の中に半分ほど電気が入っている状態で電気を出し入れすると最も有効に使える。EVはフル充電した電気を1日かけておいて使う、プラグインはEVのような使い方の中で電気の出し入れを行う中間的なエネルギーの出し入れをするので、電池としてはかなり難しい使い方になるが、それらに対応できる電池を開発していく。

自動車以外では同じNECグループのNECトーキンを中心に、風力、太陽光など、分散電源に向けた蓄電装置の開発に取り組む。電気は発電すると同時に使わないといけないというネックがあるが、電池というストック装置があれば、風力や太陽光など発電量が一定しないエネルギーも安定して使うことが可能になる。

「社会インフラとしては各家庭に蓄電用の電池があることが理想で、そのためには値段が安くなる必要があります」

その先にあるのは環境貢献だ。地球温暖化を抑制するには、その要因であるCO2の排出を極力抑えないといけない。発電所や工場で排出するCO2は集中して行うので回収できるが、自動車の出すCO2は回収できない。

「その意味では、自動車は究極的にはEVになるべきだと思います。EVは初期投資が大きく見えるからコストが高いように捉えられがちですが、実はそうではない。東京-大阪間を数百円で行けます。従ってもっと電池をアピールして電気自動車の啓蒙、普及に貢献したいですね」

2007年5月、自動車電池の普及拡大を図るべく日産自動車、NEC、NECトーキンの合弁でオートモーティブエナジーサプライが設立された。今後はこの合弁会社と連携して、先進の自動車用電池開発に精力を注ぐことになる。

図4:NLEリチウムイオン電池の性能(エネルギー密度/パワー密度)

図4:NLEリチウムイオン電池の性能(エネルギー密度/パワー密度)