電池を長持ちさせ、急速充電もできる新時代のエコ充電器を開発


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電池を長持ちさせ、急速充電もできる新時代のエコ充電器を開発

取材協力:テクノコアインターナショナル株式会社 様

寿命5~6倍、充電時間3割短縮で電池の節約、省エネの一挙両得で環境にもやさしい

これまでの常識を覆す5~6倍以上という充放電回数を誇り、しかも充電時間が1/3~1/4と短い並みはずれた充電器が現れた。2次電池の充電回数や急速充電は電池で決まるのではなく、今は充電方法で決まるという。これを裏付ける充電器を設計製造している企業が兵庫県尼崎市のインキュベーションセンターに入居しているテクノコアインターナショナル(株)だ。実は充放電回数試験は3年以上続け2900回をクリヤーしてもまだ劣化しないため試験を中止したというくらい寿命が長い。その秘密に迫る。

「昨日充電したばかりなのに携帯電話の電池がすぐなくなる」。「そのわりに充電するのに2~3時間もかかってしまう。もっと速くできないか」。「充放電回数200~500回程度でもう電池がへたばってしまう」。「2次電池と一体型の音楽プレーヤーだと電池を交換できないから、電池が使えなくなるとプレーヤーを捨てざるをえない」。

2次電池にまつわるこうしたユーザーの不満は多い。こういった不満を解消してくれる充電器を実は兵庫県尼崎市のベンチャーが開発している。従来の最大500回に対して「すでに2900回も突破し、充放電の寿命試験時間があまりにも長すぎて3年もすぎてしまったため試験の継続を止めてしまいました」。このように語るのは、2000年2月設立のベンチャー企業、テクノコアインターナショナル(株)の代表取締役を務める高岡浩実氏。

環境にやさしい、人命救助に、稼働率の向上

テクノコアインターナショナル株式会社
代表取締役 高岡浩実氏

テクノコアインターナショナル株式会社 代表取締役 高岡浩実氏

元シャープのエネルギー変換研究所の所長だった高岡氏は、かねてからもっと効率よく蓄電できないものか、と悩んでいた。太陽電池は太陽光によって発電した電気を貯めることができないため、家庭用では送電線によって電力会社に電気を戻している。系統電力は変電所が地震などの天災により停電してしまうと、接続している全戸が停電してしまう。各家庭が蓄電できれば夜でも電灯が使えるため人命救助しやすくなる。

また、真夏の電力を最大限に使う時間に太陽電池の発電をもっと積極的に使えるようになれば電力の平準化ができる。家庭と系統電力とを分離する分散型電力システムを広めるためにも、寿命が長くて安い電池が使えるようにしたい。

電池が長持ちできれば簡単に捨てなくて済むため、当然環境負荷は減る方向だ。環境にやさしい電池に変身する。

こういった電池を実現するのは実は電池自身ではない。「充電器です」と高岡氏は言い切る。充電器を改良するだけで、2次電池の寿命が長くなり、しかも短時間に充電でき、一石二鳥のメリットが出てくるという。しかも、「ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、いずれの電池でも充電器次第で寿命は長くなり、充電時間は短くなります」(同氏)。

例えば、フォークリフト向けの鉛蓄電池だとこれまで12時間必要だった充電時間がわずか3時間で済んだ。こうなると、24時間稼働の配送センターで使うフォークリフトの稼働率はぐんと上がる。これまで充電している間、フォークリフトが全く使えなかったため、複数台のフォークリフトを購入し、しかもシフト勤務で作業せざるをえなかった。

その秘密は温度上昇を抑えること

なぜ充電器だけで電池がこんなにも改善するのか。その秘密は、これまでの充電の仕組みが電池を痛めていたことによると高岡氏は分析する。これまでの充電では、図1に見られるように、充電電圧とともに温度も上昇していた。できるだけ余分な温度を上げずに充電するという考えが、テクノコア社が特許を持つI.C&C(Interrupted Check & Charge)及びAdvanced I.C&C方式だ。

図1:充電の原理 充電時は電圧が上がるとともに温度も上昇する

充電の原理 充電時は電圧が上がるとともに温度も上昇する

温度の上昇がなぜ重要か。温度が余分に上昇することで起きてほしくない化学反応が起きるため電池の電極が損傷するのだと分析する。温度上昇の原因は電池の内部抵抗を正確に測っていないために純粋の起電力を測定せず、これまでは上昇する温度を検出するだけで充電を止めていた。

満充電を検出する設定温度を60℃、あるいは45~50℃としていた。低い温度ならゆっくりと低い電流で充電するため時間がかかっていた。急速充電方式では60℃で検出していた。しかし、リチウムイオン電池を60℃で検出すると発火する事故が起きたことがあった。

そこで、高岡氏のグループは温度上昇の決め手となる内部抵抗を正確に測定することに注目した。2次電池の性質として、充電のスイッチをオフにすると、電圧は必ず少し下がった(図2)。この電圧こそ真に充電されている電圧(起電力)で、電圧ドロップ分が内部抵抗だと考えた。外部の充電電圧は起電力に内部抵抗降下分を加えたものになるため、起電力を測ることで、真の充電電圧を検出できるというわけだ。

図2:充電直後の電圧 内部抵抗の影響により充電直後は電圧が下がる

図2:充電直後の電圧 内部抵抗の影響により充電直後は電圧が下がる

このためには、充電するための外部からの印加電圧にオン期間とオフ期間を設け、オン期間で充電し、オフ期間で下がった電圧をチェックするという方法を採った。外部の印加電圧と内部抵抗に加わる電圧降下分の差が起電力となる。外部電圧をオフにすると内部抵抗に流れていた電流は即座に電圧計の方に流れてしまうため、起電力を測定できる。

充電していくと起電力が上昇していき、この起電力を満充電の検出指標とする。オンオフのパルス動作を繰り返し、最後に所望の電圧(起電力)を検出したら充電を止めればよい。

オン/オフのいわゆるデューテイ比は、電池の種類によって異なる。リチウム電池なら、オン時間が60秒、オフ時間は5秒で、鉛蓄電池だとオン時間が200秒、オフ時間はやはり5秒に設定する。この5秒間で起電力を測定し、所望の電圧レベルに達したかどうかを判定する(図3)。達していなければさらにパルスを加える。

図3:制御回路 充電・測定・検出を満充電になるまで繰り返す

図3:制御回路 充電・測定・検出を満充電になるまで繰り返す

3年使用の電池の内部抵抗は3倍に

電池の劣化が進むと、内部抵抗は上昇する。ここでの内部抵抗とは、電池動作の反応速度や反応面積、電極へ到達するイオンの拡散速度などを総合して外部的に抵抗として観測できるものを指している。こういった反応速度や反応面積、拡散速度などの劣化が内部抵抗の上昇として現れてくると高岡氏は見る。「これまで30機種程度の電池をすべてチェックして使い古した電池と新品の電池を比べると内部抵抗は3倍程度上がっています」と高岡氏は実測した。

携帯電話を3年間使用したリチウムイオン電池と新品のリチウム電池を比較してみた。新品の電池では650mAHという表示に対して、実測値は630mAHとほぼ同じ程度だったが、使い古した電池では表示は650mAHとなってはいるものの、実測では220mAHしか容量がなかった。内部抵抗は約3倍に上昇していたことになる。

無線機用のリチウムイオン電池充電器内部

無線機用のリチウムイオン電池充電器内部

テクノコア社は内部抵抗の増加を電極の一部が損傷して電極面積が減少したためだと説明する。

電池のメモリー効果も解消するという。メモリー効果は電池を使いきらないうちに充電を何度か繰り返すと、使いきらない電圧までの時間を放電終了したとみなしてしまう現象で、この現象についても高岡氏は明快に説明する。「メモリー効果の起きやすいニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池では少しずつ充電しています。これは砂場に水を少しずつ流すようなもので、小さな土手ができてしまい、それ以上水を流せなくなるから起きるのです。水をちょろちょろではなく一度にどさっと流せばメモリー効果は起きません。私たちの充電方法はパルス的に大量に流すため、メモリー効果は起きません」。

この技術は米国、韓国、中国およびEUにおいて特許を取得している。基本特許に加え、周辺特許も合わせて23件程度取得あるいは申請している。

良いことずくめの充電器ではあるが、充電器の価格が高いという問題もある。量販店で売られている充電器は電池込みで2900円程度だが、テクノコア社の充電器は電池なしで7000円。これまで購入した人たちはラジコンマニアや報道関係のカメラマンなどヘビーユーザー。

ハイエンド用途では自動車用の電池の充電器として、イタリア製の軽電気乗用車「ジラソーレ」が使っている。現在、トヨタ車体のクルマ「コムス」向けの充電器を開発中である。

エコ充電器搭載のイタリア製軽電気乗用車「ジラソーレ」

エコ充電器搭載のイタリア製軽電気乗用車「ジラソーレ」