ものづくりの夢と楽しさをロボット開発で具現化


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ものづくりの夢と楽しさをロボット開発で具現化

取材協力:ヴイストン株式会社 様

「無ければ作ってしまえ」のクラフトマンスピリットが生きる現場

2050年までにサッカーの世界チャンピオンチームに勝てる自律型ロボットのチームをつくる――そんな夢を描いて始まったロボカップ。毎年世界各地で大会を開いているが、そのヒューマノイドリーグで3連覇を果たしたのが産学官連携のロボットベンチャー・ヴイストンである。そのノウハウを活かして、ホビー向けの本格的な二足歩行ロボットキットも発売している。アールエスコンポーネンツが提供するサービスは、そんな栄光も裏支えしている。

全方位センサの事業化を目的に産学官が連携したベンチャー

ヴイストンは2000年8月、大阪大学石黒研究室(石黒浩教授)が開発した全方位センサの事業化を目的に民間企業数社と個人が出資し、大阪市のインキュベーション施設と連携して設立した産学官連携のベンチャー企業である。

全方位センサ

全方位センサ

全方位センサは、カメラの先に双曲面ミラーと呼ぶ特殊な鏡を設け、周囲360度から届く光をミラーで反射し丸画像を生成する。パソコンでこの反射の逆演算を行って360度のパノラマ変換画像や通常のカメラと同じ透視投影変換画像を作成できる。キーデバイスになるのは、双曲面ミラーの先端に付いているニードル(針)で、逆演算アルゴリズムと共にこれが特許になっている。

「全方位センサには多くのアプリケーションがありますが、その一つがロボット。360度同時に見ることができる全方位センサはロボットの視覚センサに適するのです」(前田取締役)

相性の良いアプリケーションとしてのロボットが、全方位センサの事業化の一端を担った。

ヴイストン株式会社
R&Dセンター 前田武志取締役(左) R&D Team 今川卓郎氏(右)

好きこそものの上手なれ 初参加でも優勝の快挙

折から大阪市がロボカップ出場チームを公募しており、ヴイストンへの出資会社でもある機械加工業のシステクアカザワ、京都大学ベンチャーのロボ・ガレージ、大阪大学およびヴイストンの4者で「Team OSAKA」を結成し、2004年のリスボン大会にエントリーした。

初代「VisiON」(ヴィジオン)は前田氏が趣味で作ったロボットをベースに開発したが、ロボカップ向けのロボットは初めてなので手探りの連続だった。

例えばロボカップは自律行動が前提なので、それなりの高度な性能を持ったCPUが要る。かつ、同社の場合は全方位センサなので画像処理機能が必要だ。そこでCPUのボードから開発した。

「当時は外部にパソコンを置き、無線通信を使ってパソコンで画像処理をし、最後のコマンドだけロボットに返すリモートブレイン方式が許されており、その手法を取るチームも多かった。だが我々はあくまでも自律に拘りました。技術のハードルが高いほうが挑戦しがいがあるし、ロボカップは海外での開催が多いので無線トラブルや障害が起きても、解決が難しいということもありました」と前田氏は語る。

ヴイストン株式会社 R&D Team 今川卓郎氏

とは言うものの、ハードルは少なくなかった。今川氏は当時をこう回想する。

「搭載部品が多いのに、ペイロード(搭載スペース)は小さいのでどう収納するかが難しかった。それと“ちゃんと動いて、かつカッコいいもの”という厳しい要求がTeam OSAKAのメンバーから出て、出来る・出来ないの激しいやり取りを(笑)。でも、そのおかげで多彩な動きができるようになりましたね」

いざ大会が始まると新たな問題が発生した。試合中に関節が次々と動かなくなってしまったのである。

「今思っても辛かった。何しろ、ロボットは1台だけでバックアップがないのですから。あの時点ではどの部品がどれだけ壊れやすいか分からなかったし、つくりもこなれていなかったわけです」(前田氏)

それでも優勝した。かつて国際電気通信基盤研究所(ATR)の知能ロボット研究者だった前田氏を始めとする、チームのクールな知見とホットな好奇心の賜物であろう。

既成に頼らぬ新規開発 無ければ作ってしまえばいい

ヴイストンは2005年の大阪大会、2006年のブレーメン(ドイツ)大会と立て続けに優勝、3連覇を果たしている。注目すべきは、2005年の 「VisiON NEXTA」(ヴィジオン ネクスタ)、2006年の「VisiON TRYZ」(ヴィジオン トライズ)ともに、“全方位センサを搭載したヒューマノイド”という以外、フレーム、外装など殆どを新規開発している点である。

当然、苦労は少なくない。3連覇を果たしたVisiON TRYZはCFRP(炭素繊維強化プラスチック=カーボンファイバー)をフレームに用いたが、折り曲げられない素材のため、別途アルミの棒にネジ穴を開け、両方からネジ止めでフレームを固定するものを作ったりした。

また、初代のVisiONはフレームはCAD、外装はロボ・ガレージの手づくりだったが、2代目のVisiON NEXTAからは、3次元CADデータを活かせるのが強味のRP(ラピッドプロトタイピング)による手法に変えている。が、RPは樹脂を積層する3Dプリンタなので、表面を磨いて塗装してやる必要があった。

自分で組上げ、サッカーをやらせることも出来るなんて夢膨らむ(VisiON TRYZ)

画像のキャプション

自由な仮説と実行が生む次代を牽引するクラフトマンシップ

ロボカップによって蓄積したノウハウを商品化したのが2006年秋に発売を開始した一般消費者向けのホビーロボット「RB2000」「RB300」の2機種(発売元は日本遠隔制御)。とくにRB2000は二足歩行が可能なのは当然だが、回転をしたり、鉄棒運動をしたり、標準搭載のモーション連動スピーカーで、動作モーションをしながら「歌う・喋る・効果音を出す」といったことまでできる。

RB2000

2005年に市販を始めたRB1000の後継機だが、これまた挑戦的な取り組みをしたロボットだ。例えばRB1000では軸数(自由度)が19あった。それを「一般に軸数が多いほうが高級だと思われているが、シェイプアップしたらどうなるか」と、RB2000では6軸減らして13軸にした。重量を従来の1.5kgから1.1kgに減らし、適正なサーボモータを採用することによって「従来と同等あるいは良くなった面もある」というほど、軽快な動きを実現した。CPUボードを高性能化し、それによって音声も出せるようになった。400kバイトあるので、それを全て音声に割り当てれば、かなりしゃべることができる。パソコンから音声ファイルを転送できるので、何の音でも出せる。RB2000は歩くときにガシャ、ガシャとロボットらしい音を立てるが、実は意図的にそうした音を発生させている。こういった「音」を作るのは「動き」を作るのと同じくらい楽しいらしい。

無論、ここまで完成度を高めるには、どの軸を減らすかという議論から始まり、多々あった。だが、取りあえず試作してみようとすぐに取り掛かるのが同社だ。

ヴイストン株式会社 
R&Dセンター 前田武志取締役

「当社の売りは開発速度の速さ。これが外注に出すと答が出るまでに1ヵ月はかかりますが、当社の場合は3日くらいで出てしまう(笑)。その代わり、部品を3~4回は作り直したりしている。そうした試作品づくりに、実はアールエスコンポーネンツを頻繁に利用しています。試作品だけでなく、VisiONTRYZ本体でも電子部品やコネクタなどの機構部品には採用しています。RB2000の電子回路の試作にも多用しています」(前田氏)

今では全方位センサよりもロボット関連の売上のほうが多いというヴイストンは、ロボカップ4連覇を目指す。そして、商品化では「見た目も動きもカッコいいロボット」づくりに取り組む。その理由は、かつての子供たちは鉄腕アトムにロボットの夢を抱いていたが、今の子供は実際のロボットを見て夢を持つ環境にあるからだ。「格好のよいスタイルで格好よく動くロボットに夢を抱き、次の技術者を目指してもらえたらいいなと思います」と今川氏はいう。ロボットづくりは夢づくり、というわけである。

RB2000 SPEC
【全 高】295mm
【重 量】約1.1kg
【自由度】合計13軸
【CPU】ヴイストン社製VS-RC003
【電 源】ニッケル水素 6V
【備 考】モーション連動スピーカー搭載
VisiON TRYZ SPEC
【全 高】495mm
【重 量】約2.7kg
【自由度】合計25軸
【CPU】ピノー社製 PNM-SG3 500MHz
【電 源】リチウムポリマー 7.4V
【備 考】加速度センサ(3軸)