ソーラーカーレースの体験を生かす東海大学のエコカー


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ソーラーカーレースの体験を生かす東海大学のエコカー

東海大学のソーラーカー「東海ファルコン」号
総合優勝した東海大チームとソーラーカー

09 年、東海大学チームが世界最大級のソーラーカーレースで見事に総合優勝!

今年、オーストラリアで開催された世界最大級のソーラーカーレース「グローバル・グリーン・チャレンジ」のソーラーカー部門で、東海大学チームが見事に総合優勝をしました。おめでとうございます! (RS社員一同)

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教育的効果は言うまでもないが、チームワークや人間力、専門を超えた知識の習得など、授業だけでは学べない社会人としての資質を磨くことができる。

太陽電池の電気自動車、すなわちソーラーカーで南アフリカ共和国1周4200kmのレースに出場し2008年総合優勝、今年はオーストラリア大陸縦断3000kmレースに挑む、東海大学の木村英樹教授を中心としたグループは、環境にやさしいクルマ作りに力を入れる。エコカーの製作にとどまらずレースにも出場する、木村教授たちの取り組みに迫る。

「ソーラーカーの教育的意義は、究極のエコカー技術を学べること。さらにレースを通じて競争に生き残れる人材を育てることもできる」と木村教授はその狙いを語る。電気自動車や燃料電池車はCO.そのものを出さないが、エネルギー源の電気や燃料の水素を作り出すときにCO.を排出している可能性がある。しかし、太陽電池は一度作ってしまえば、CO.は排出しない。究極のエコカーであり、自然界のエネルギーだけで動くクルマ技術である。環境技術はこれからの重要な技術であり、教育的な意義は大きい。 レースへの参加は単なる興味本位なものではない。大学や研究者の世界で学会発表したり研究したりすることはある意味で自己満足に終わることがある。「外部のレースに参加すれば、製作した自分の実力が客観的にわかる」と単なる自己満足には終わらないことに、木村教授はその意義を見出している。

さらにチームワークを養うという意義もある。人と人との関わり、すなわち人脈作りやチームワークを養うことは社会に出てから特に重要になる。単にカリキュラムをこなしただけの学生なら企業側もリクルーティングの食指が動かない。しかし、「ソーラー、ロボット、人力飛行機、フォーミュラなどを経験してきた学生はたとえ他の成績が悪くても採用することが多いと企業の人事部が言っていた」(木村教授)。

ソーラーカー作りに奮闘

東海大チームは、2008年9月28日から10月8日にかけて南アフリカ共和国をほぼ1周する全長4200kmという過酷なレースに参戦し、エントリーした12チームの頂点に立った。日本列島の北海道から沖縄までが約3000kmだから、それよりも長い距離になる。「優勝できたのは運が良かっただけ」、と木村教授は謙遜する。ドライバは通常4名くらいが交替で運転する。パリ・ダカールラリーで優勝経験のある篠塚建次郎氏も参加した。

ソーラーカーのエネルギー源となる太陽電池パネルはこれまではメーカーから購入したり、譲り受けたりしたものが多く、すべてシリコン結晶系材料を基本としてきた。大会レギュレーションにより太陽電池パネルの大きさには制約があり、長辺×短辺の面積は8m2以内、と決められていた。太陽電池セルの性能が年々上がり、速くなりすぎた速度を落とすために2007年からは6m2以内に変わった。

太陽電池セルの出力電圧はシリコン系で0.5V程度であるから、セルを直列接続して電圧を高めることが常套手段。このためセルを32~36枚直列接続したものを8枚さらに直列接続することで120V程度まで高める。商用100V電源に近づけるためだと、木村教授は言う。商用電源電圧付近に合わせると使える市販の電気部品が増えてくる。

技術のベースは電気自動車

ソーラーカーレースに使ったクルマ(ページ上部のソーラーカー)はエネルギー源こそ太陽光であるが、モーターを駆動し制御したり、転がり抵抗の少ないタイヤを利用したりするという点では電気自動車の技術と共通する。車体の空気抵抗を減らすための設計には3次元CADと流体シミュレーションツールを用いて設計したり、あるいは経験を生かしながらシミュレーションに頼らず設計したりしている。車輪を3輪だけにしているのは少しでも軽くするためだという。

電気自動車「ファラデーマジック2」号(写真2)は、省エネのレース「ワールド・エコノ・ムーブ」において2004年から2008年まで5連覇を達成した。このレースはエネルギー144Whの鉛蓄電池を用いて、2時間で何kmまで走れるかを競う。優勝した時は90kmを走ったという。平均して72Wを消費していることになる。1 馬力が736Wであるから、72Wは0.1馬力程度。原付バイクが4.5馬力あることから、原付バイクのわずか1/45の馬力だけで2時間で90kmも走ることができるわけだ。

写真2 : 電気自動車「ファラデーマジック2」

ファラデーマジック2

モーター駆動では直流電源からインバータで3相モーターを回すわけだが、永久磁石と電磁石を組み合わせたSPMであり、現在ハイブリッドカーに使われている方法と同様なメカニズム。変換効率を高めるために電磁石のコアには鉄系のアモルファスコアを用いたことが特徴である。この鉄系アモルファスコアをモーターメーカーの特殊電装やミツバに持ち込み、開発してもらったという(写真3)。とにかく、手間が増えたとしても効率を上げることに注力したという。効率が高いと発熱が減るため、冷却ファンを設置しなくて済み、省エネルギー性能はさらに改善される。

写真3 : 産学共同で開発した鉄系アモルファスコアのモーター

産学共同で開発した鉄系アモルファスコアのモーター

電気自動車用のコントローラ部分には米Microchip社のPICマイコンを利用し、進角制御と、同期整流のPWM(パルス幅変調)制御をかけ、効率を上げた。進角制御は、通電のタイミングを早めて、モーターの回転数を高めるために使う。同期整流は、モーターの回転数をチョッパで遅くしたい場合に、PWMのデューティ比が小さくなると損失が大きくなるのを防ぐため。最終段のパワーデバイスには電圧がさほど高くないためMOSFETを使った。動作電圧が低いと効率はMOSFETの方がIGBTよりも高いためである。モーターとコントローラを合わせた効率は96%以上を達成したという。

リチウムイオン電池との併用をうまく最適化

ソーラーカーでは、動力が太陽電池だけという訳ではない。補助バッテリとしてリチウムイオン電池を併用する。5kWhの容量を持ち、3時間程度走行できる。レースは午前8時から午後5時まで行われるため、太陽が沈まない残り時間をフルに使ってリチウムイオン電池を充電するという。ソーラーカーラリーでは、取り外せるようになっているソーラーパネルを外し、日の出から日の入りまでの限られた時間内にリチウムイオン電池を充電するためにソーラーパネルを斜めに太陽に向けている と木村教授は語る。

ソーラーカーラリーでは、伴走車がソーラーカーの前後に1台ずつ付く。特に後方を走る伴走車がさまざまな指示をソーラーカーに送る。例えば、現在位置はGPS(グローバルポジショニングシステム)を使い目的地までの距離や、登坂などの道路情報をドライバに伝える。しかもこの伴走車にはソーラーカーから太陽電池の電圧や電流をテレメトリーによって知ることができる上、気象衛星「ひまわり」からの気象データなどが、通信衛星インマルサットBGANを使用して受信できるようになっている。携帯電話が圏外となる砂漠エリアであっても、イリジウム携帯電話で通話することも可能だ。

レースに勝つためにはスピードコントロールが大事だと木村教授は言う。例えば、空気抵抗力は速度の2乗に比例するが、その消費電力は3乗に比例するため、スピードを一定気味にして、さらに風雨などの気象条件や、坂道などの道路条件を加味して最適化する必要がある。加速しスピードを上げたり、天候の悪い日に走行したりするために太陽電池だけではなく、リチウムイオン電池も併用する。このため無駄にリチウムイオン電池を使わないように注意する必要がある。トランシーバーを使い、走行中にもっとスピードを上げろとか緩めろといった指示を出すだけでなく、ドライバが眠くならないように会話することもあるという。

2009年10月末にダーウィン~アデレード間のオーストラリア縦断レースでは、シリコン系の太陽電池に代わり、化合物半導体の太陽電池パネルを東海大チームにシャープが提供することが決まった。セルの変換効率は30%、出力1.8kWの高性能太陽電池パネルだという。この太陽電池を搭載して、世界の強豪チームと競い合い、表彰台を目指す。