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二足歩行ロボットによる景品ゲーム機ロボキャッチャーの開発
取材協力:メカトラックス株式会社 様
ロボコンの常連だった若武者が掴んだビジネスチャンス
ボタンを操作してぬいぐるみを捕る。ゲームセンターの定番だったクレーンゲーム(プライズゲーム)に二足歩行ロボットを組み合わせることで、操縦する楽しさと面白さやゲーム性を倍増させ、アミューズメントの世界に切り込みをかけるベンチャー企業がある。元はロボット競技会の常連だったという開発者らがアイデアを形にし、ビジネスとして成立するまで。
ロボット操縦でぬいぐるみをキャッチ
Robo Catcher
ロボット内部と筐体部にそれぞれマイコンが組み込まれ、互いに通信しながら動作する。ロボット本体には19個のサーボモータを搭載。2007年末に出荷を開始し、2008年3月現在30台以上が全国で稼働中。
[ロボキャッチャー]は小型のロボットを操縦してぬいぐるみを捕る新種のプライズゲーム。福岡のベンチャー[メカトラックス]が開発した。
従来のクレーンゲーム等がボタンを押して後は機械任せだったのに対して、ロボキャッチャーではロボットを操縦して景品を掴み運ぶという技が要求される。高さ30cmほどのロボットの操作自体は簡単なのだが、思い通りに動かす操縦の面白みが加わったことで楽しさ倍増、つい感情移入してしまうほどだ。
同品は「第2回モノづくり連携大賞」(日刊工業新聞社主催)で特別賞を受賞したほか、その楽しさが好感され、2007年末の出荷後既に全国のゲームセンター等で30台以上が稼働している。
開発に当たった技術担当取締役の古賀 俊亘 氏に取材した。
学生時代に起業
メカトラックス株式会社
技術担当取締役 古賀 俊亘 氏
実は古賀氏、人型ロボットの格闘競技会[ROBO-ONE]で2連覇を達成するなどロボコンで輝かしい戦績を残す強者だ。大学では機械を学び、大学院修士 2年の時に起業した過去を持つ。ちなみに「ロボットは趣味で始めた」という。 古賀氏はその後、現在社長として経営面を受け持つ永里 壮一氏と出会う。半導体メーカーからスピンアウトした永里氏はIT系を得意とし起業家としては古賀氏の先輩に当たる。ロボキャッチャーの開発は、小型ロボットの使い道を二人で論議したのがキッカケだったという。
「小型のロボットですから、人の直接的なアシストといった人間との共存用途には向きません。また、アクチュエータのトルクなどは結構大きいですから安全性などが確保できる使い方が求められます。つまり稼働環境をある程度限定する必要があるわけです。それでいて楽しく遊べるモノ。これらの条件下で行き着いたのがアミューズメントマシンだったんです。」こうした共通認識のもとで両氏はメカトラックス社を立ち上げた。
アイデアとビジネスとの距離
小型ロボットとアミューズメントの結びつきがロボキャッチャーという形で実現できたことについて古賀氏は「ロボットに景品を捕らせるというアイデアは突飛なものではありません。ただ、これまでは組織の壁などがあって思いついても形として実現することができなかったのではないか」という。
ゲーム機として長時間稼働するための耐久性を持たせることや全体のコストダウンなどの技術課題をクリアする必要はあったものの「基本的に必要な技術要素は我々がそれまでに培っており、それらを組み合わせたり応用することで済んだ」という。ちなみに機構部の核となるサーボモータに関して言えば、従来の小型ロボットにはホビー用のモータが使われていたが、ロボキャッチャーでは高耐久性のものが採用されている。
とはいえ、アイデアを形にし、さらにビジネスとして成り立つようにするのは一筋縄ではいかない。古賀氏も「アミューズメントは未知の世界なので、具体的な商品にするためにロボットの技術以外の面で考えなければならないことが多かった」と証言する。
古賀氏らはまず現行のクレーンゲーム機を入手し、これを徹底検証することから始めたが、技術やノウハウというものは目に見え形あるものとは限らない。例えば、制限時間はどのくらいが適切なのか、中に入れる景品が捕れる割合をどの程度にすればよいのか、ロボット転倒の可能性をどの程度見込み回復動作をどこまで自動化するのがよいのかなど、未知・未経験のパラメータをひとつひとつ決めていかなければならなかった。
1:ロボットを操作して 景品に接近
2:エィっ! と景品抱え上げ
3:抱えたまま景品シューターへ歩行
景品につまずくなどして転倒しても自動で起き上がる
操作自体はシンプルなので誰でも遊べる
制限時間内なら何度でもトライできる
さらに「販売後のサービスやメンテナンスなどについても業界のやり方に合わせた体制を構築する必要がありました。」ゲームセンターでは機器が万一故障した場合などに長時間の稼働停止は許されないうえ、故障したセット全体を送り返すなどもまず無理だ。これに対しては、ロボット部分だけを簡単に交換できる構造にして予備機を持つことで解決した。
また、メンテナンスについても全国に専任のサービスマンを配置するなどということもできないため、産業機器で全国にサービス網を持っている企業と交渉して委託契約を結び迅速な対応を可能にした。そのうえで、古賀氏らは試作機をアミューズメント関連の展示会に出品して顧客の意見を取り入れて改良するといったマーケティングも欠かさなかった。
こうした努力が実を結び、ロボキャッチャーはアミューズメントの世界にロボットを意のままに操作する楽しさを取り込んだ新たなアイデア商品として業界で話題になった。多くの引き合いが飛び込むようになった現在、メカトラックスではロボキャッチャーの量産へと舵を切っている。
人型ロボットの未来
古賀氏に今後について伺うと「当面は、小型ロボットの技術をアミューズメントの世界に応用するというスタンスでやっていきたい」とのこと。
ロボットの将来については、「人型のロボットで考えると、人間生活と共存するためにはサイズ的に人と同じくらいに落ち着くと思います。技術面では、既に多くの課題がクリアできており、今後は安全性の確保など周辺部分を固めていくことが課題です。また、ロボキャッチャーに使ったような小型のロボットでは、アミューズメント性を活かす他に、狭い場所に入って探査をするといった発展の方向性も考えられています。個人的には、(小型の)ロボットがロボットに載るといった形態もあるのではないかと考えています。」
さらに「ロボットには人を楽にさせることのほかに、人を楽しませてくれる要素が大切なのではないかと思っています。実は同じようなことを考える人がいて、ロボットの動きを真似るパントマイム・ダンサーと私が作ったロボットとで掛け合いをしながら踊るパフォーマンスをしたこともありますよ。」という。
未来の小型ロボットは“楽”がキーワードかもしれない。
アールエスコンポーネンツは、古賀氏の大学時代、RSが国内展開を開始した当初からご利用いただいていたとのこと。今では一日のうちに何度もRSオンラインへログインして発注をかけることが多いという。その眼光にはかつてのロボコン戦士が自らの技術とアイデアで起業のチャンスを掴み、これを活かした自信がこもる。