放射ノイズを抑圧しサージノイズに強くなるクランプフィルタ

ケーブルからの放射ノイズが低減する

プリント基板上での素子の配置、グランド、フィルタリングなどノイズに配慮して設計された電子機器でも、インタフェースケーブルで他の機器と接続したら、大きなノイズが発生したりノイズに弱くなったりします。特にケーブルは、システムの中でも長く表面積の大きい部品なので、大きな電磁波を放射したり受信する可能性があります。

写真1にクランプフィルタの外観を示します。2つの半円状のコアで構成されており、ケーブルを切断することなくワンタッチで装着できます。後付けできるので、製品出荷直前の時期にノイズトラブルに見まわれたときなどに重宝します。写真1(c)は、機器内部のケーブルに取り付けるタイプです。

弾性と耐久性のあるプラスチックケースに2つの分割したフェライトコアを格納しており、使用ケーブル径に応じていろいろな製品があります。

(a)ZCAT2436-1330A-M-BK

ZCAT2436-1330A-M-BK

(b)ZCAT1229-0530E-F

ZCAT1229-0530E-F

(c)ZCAT3618-2630D-BK

ZCAT3618-2630D-BK

写真1 クランプフィルタの外観


コモンモードフィルタの1種である

コモンモードフィルタ(以下、CMF)というと、プリント基板上にマウントされる部品をイメージする人が多いかもしれませんが、実はこのクランプフィルタも1種のコモンモードフィルタです。ディファレンシャルモード電流を減衰することなく、インタフェースケーブル上に流れるコモンモードノイズだけを除去します。

巻線されたCMFに比べると、浮遊容量や電磁的な結合が小さくほとんど無視できるため、ディファレンシャルモードインピーダンスが広域まで低く、信号に与える影響がほとんどありません。コモンモードインピーダンスは低目ですが、巻線による分布浮遊容量の影響がないため、約1GHzにまで自己共振することがなく、安定したインピーダンス特性を示します。


巻き付け回数を調節する

クランプフィルタにケーブルを2回、3回と巻き付けると、実効インピーダンスが高まり、高い減衰特性が期待できます。ただし、巻き付け回数が増えると浮遊容量や電磁的な結合が大きくなります。いろいろ試しながら、1番効果のある回数を見つけます。

放射ノイズの低減効果を実験で確認する

モバイルPCに代表される携帯端末には、AC電源アダプタだけでなく、デジタルスチルカメラや携帯電話など各種の周辺機器をいろんなインタフェースケーブルで接続します。ここでは、これらのインタフェースケーブルにクランプフィルタを装着してその対策効果を実験で見てみます。


AC電源ケーブルを接続する

AC電源ケーブルによるクランプフィルタを装着したときの放射ノイズの変化を調べる実験システム

図1
AC電源ケーブルによるクランプフィルタを装着したときの放射ノイズの変化を調べる実験システム

図1に、電源ケーブルにクランプフィルタZCAT1518-0730を装着する前後の携帯端末からの放射ノイズのスペクトラムを示します。このとき、ケーブルは2回巻き付けます。

図2に測定結果を示します。装着前は、250~600MHzに渡ってノイズが放射されており、かろうじて規制規格VCCI(B)を満足しています。クランプフィルタを装着すると相対的に5~10dB程度ノイズが減衰します。

クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果
クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果

図2 クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果


携帯電話も接続する

携帯電話と接続する専用ケーブルにクランプフィルタを装着したときの放射ノイズの変化を調べる実験システム

図3
携帯電話と接続する専用ケーブルにクランプフィルタを装着したときの放射ノイズの変化を調べる実験システム

図3に示すように、電源ケーブルにクランプフィルタZCAT1518-0730を装着した状態で、専用ケーブルで携帯電話と接続します。

図4に測定結果を示します。対策前は、100~600MHzの広い帯域にわたってノイズが放射されています。先ほどと同様に、クランプフィルタZCAT1518-0730に専用ケーブルを2回巻き付けると、相対的に5~10dBノイズが低減します。対策前後で変化のない600MHz以上のノイズは、ケーブル以外から放射しているようです。

クランプフィルタによる携帯電話専用ケーブルからの放射ノイズ低減効果
クランプフィルタによる携帯電話専用ケーブルからの放射ノイズ低減効果

図4 クランプフィルタによる携帯電話専用ケーブルからの放射ノイズ低減効果

静電気放電に対する耐性が向上する

クランプフィルタを装着すると、放射ノイズが低減するだけでなく、サージや静電気など外来ノイズに対する誤動作も減ります。ここでは、イミュニティ試験の国際規格IEC61000-4に基づく、静電気放電試験を行い、クランプフィルタ装着前後の誤動作の頻度やレベルの変化を調べます。静電気放電とは、衣服の摩擦などによって体に帯電した電荷が、電子機器の筐体部などに接触したとき放電される現象、イミュニティとは、外来ノイズに対する耐性のことです。


実験の方法

図5に示すように、動作状態の携帯端末とプリンタを接続して、携帯端末に静電気を放電し、誤動作の状態を記録します。接続ケーブルの携帯端末側のコネクタプラグシェル部に1秒間隔で10回連続して放電します。放電の方法は、イミュニティの国際規格IEC61000-4-2に規定されている接触放電法に準じました。図6にIEC61000-4-2で規定されている試験用の静電パルス波形を示します。放電の強さは2kV、4kV、6kVの3種類です。

クランプフィルタの静電気ノイズ抑圧効果を調べる実験システム

図5 クランプフィルタの静電気ノイズ抑圧効果を調べる実験システム

携帯端末に加えるIEC61000-4-2で規定されている静電パルス波形

図6 携帯端末に加えるIEC61000-4-2で規定されている静電パルス波形


実験結果

表1に実験結果を示します。

◎:異常なし ○:自己回復する誤作動 △:システムのリセットを要する誤作動 ×:機能損傷により回復不能

表1 クランプフィルタ装着後の静電気ノイズ耐性の向上

クランプフィルタがない場合は、4kVでもプリンタの動作が停止するなど誤動作が確認されました。6kVに上げるとプリンタは停止してしまいます。

クランプフィルタZCAT2035-0930Aを1個装着する(巻き付け回数1)と、4kVではまったく動作に支障はなく、6kVでも誤動作は少なくなります。巻き付け回数を2回にすると誤動作はなくなります。

図7に、クランプフィルタ装着前後の静電気波形を示します。巻き付け回数は2です。静電気はクランプフィルタによって大きく減衰しています。波形は、クランプフィルタ―プリンタ間のケーブルのクランプフィルタよりのところで観測しました。

クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果
クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果

図7 クランプフィルタによるAC電源ケーブルからの放射ノイズ低減効果

平行2線線路における静電気ノイズ抑圧効果

平行した2本の線路にクランプフィルタを装着したときの静電気ノイズの抑圧効果を実験で評価してみます。前出の基板実装型CMFと比較します。


実験の方法

図8に実験システムを示します。平行した長さ1mの2本の線材をグランドプレーンから0.1mの高さに設置します。配線の入力側に静電気発生器で発生させた6kVの静電気をESDガンで加えます。

ESDガンと配線は接触させます。静電気発生器から出力される波形は、立ち上がり時間0.7~1nsのとても高速なスパイク電圧です。

平行した2本の線路にクランプフィルタを装着したときの静電気ノイズ抑圧効果を調べる実験システム

図8 平行した2本の線路にクランプフィルタを装着したときの静電気ノイズ抑圧効果を調べる実験システム

平行線の中間地点に、クランプフィルタZCAT2035-0930A(以下、ZCAT)と基板実装型CMF ZJYS51R5-2P(以下、ZJY)を挿入し、出力側で静電気の波形の変化を観測します。図9に示すように、ZJYを実装する基板は2種類準備します。1つは、裏面に銅箔パターンのない厚さ1mmの基板(基板A)、もう1つは裏面全体がグランドプレーンの厚さ0.3mmの基板(基板B)です。

実験に使用したコモンモードフィルタ実装用の2つの基板
実験に使用したコモンモードフィルタ実装用の2つの基板

図9 実験に使用したコモンモードフィルタ実装用の2つの基板


サージノイズの抑圧効果が高い

図10に出力端に観測された波形を示します。

図10(a)から、クランプフィルタを装着すると相対的に約40%減衰することがわかります。立ち上がり直後のリンギングも減衰しています。

平行した2本の線路に施したクランプフィルタとコモンモードフィルタの静電気ノイズ抑圧効果
平行した2本の線路に施したクランプフィルタとコモンモードフィルタの静電気ノイズ抑圧効果
平行した2本の線路に施したクランプフィルタとコモンモードフィルタの静電気ノイズ抑圧効果

図10 平行した2本の線路に施したクランプフィルタとコモンモードフィルタの静電気ノイズ抑圧効果

ZJYSを実装した場合の波形、図10(b)と(c)を見ると、リンギングはZCATと同じくらい減衰しますが、立ち上がりのスパイク電圧が減衰しないことがわかります。特に基板Aはほとんど減衰効果がありません。原因を調べるために基板Aと基板Bの入出力間容量をCメータで測定してみると、基板Aは約0.1pF、基板Bは約7.3pFでした。基板B は、部品面の銅箔間に存在する浮遊容量が大きいため、図11に示すように、静電ノイズがこの容量を通って出力側に抜け出たようです。参考までに、図12に実験で使ったクランプフィルタと基板A、基板Bのインピーダンス周波数特性を示します。

この実験結果から、クランプフィルタは基板実装タイプのCMFより、サージ電圧の抑制効果が高いことがわかります。

これはフェライトコアの物理的な容量が大きいため、大きなサージ電圧が加えられても飽和しにくいからです。基板に実装して使う部品ではないので、入出力間の容量結合への配慮は不要です。

静電気ノイズは基板の表面と裏面に存在する容量を通って出力にすり抜け

図11 静電気ノイズは基板の表面と裏面に存在する容量を通って出力にすり抜け

静電気ノイズは基板の表面と裏面に存在する容量を通って出力にすり抜け

図12 クランプフィルタと基板に実装したコモンモードフィルタの入出力間インピーダンスの周波数特性