デジタルオシロスコープ ガイド

取材協力:キーサイト・テクノロジー株式会社

まずはアナログ項目を押さえよう
~ 機種選択の基本 ~

—— 予算の範囲で、できるだけ周波数の高いデジタルオシロスコープを選ぶのは賢い方法ですか?

オシロスコープを選定する場合、チャネル数・周波数帯域・サンプリングレートなどが基本要素になります。チャネル数は換えが効きませんから、第一に押さえなければなりません。汎用のデジタルオシロスコープは、2チャネルあればたいていの用途には対応できます。ですが、ロジックと組み合わさった機器などに使う場合は4 チャネル欲しくなるかもしれません。

その次はやはり周波数帯域でしょう。帯域が広い(最高周波数が高い)方が高速信号に対応できますから、できるだけ周波数の高いオシロスコープを選ぶというのは間違えではありません。

ですが、帯域が広がればオシロスコープの価格も高くなります。また、S/N(信号と雑音の比率)の点などから考えても測定する信号に対して帯域が広過ぎるのは最善とは言えません。測定信号が持つ帯域を程よくカバーできるオシロスコープを選ぶのがベストです。

ただ、このとき対象となるのは、信号の繰り返し周波数ではなく、信号の持つ周波数成分(スペクトラム)です。例えば、デジタル回路の方形波は繰り返し周波数の何倍もの周波数成分を含んでいます。波形を正しく測定するには、オシロスコープの周波数帯域がこれらの周波数を包含していることが肝心です。

図1は、繰り返し周波数(基本波)が50MHzの方形波を、60MHz、100MHz、350MHzおよび500MHzのオシロスコープで捉えたものです。この方形波に対しては基本波の10倍に相当する帯域が必要なことが分かります。なお、主に方形波信号を対象とする場合は、周波数帯域よりも立ち上がり時間のスペックで判断するのも賢い方法です。


図1:周波数帯域による波形の違い
50MHz方形波の観測波形




A/Dの仕組みを知って選ぶ
~ チャネル数とサンプリング速度の関係 ~

—— サンプリング速度が速いオシロほど優秀なのですか?

最高サンプリングスピードだけでオシロスコープを比較することは適切とは言えません。サンプリングスピードは、A/Dコンバータの構成や信号の周波数成分とオシロスコープのアナログ帯域、表示の際の補間法(ドット間の表示)、それにメモリ容量などと密接に関係するからです。

したがって、どの条件でのサンプル速度かに注意してください。例えば、デジタルオシロスコープでは複数のA/Dコンバータを組み合わせて一つの高速なコンバータとして動作させるインタリーブ方式の回路構成がしばしば採用されます。この場合、基本となるA/Dコンバータのスピードとその組み合わせ方によって得られるサンプリング速度が異なってきます。

図2に、AとB二通りの構成例を示しました。AB共に1チャネル動作時は1GS/s(毎秒1ギガサンプル)が得られます。ところがAの場合、2 チャネル動作時は500MS/sに低下します。これに対してBの構成では2チャネル時も1GS/sが維持されます。4チャネルの時にサンプル速度が1/4 になるものもあります。何チャネルでどの速度が得られるかはカタログに示されています。

図2:A/Dコンバータの構成例

 
 

長さとスピードの深い関係
~ メモリ長とサンプル速度の注意点 ~

—— 機種によってメモリ長に大きな差があるように思えます。オプションだったり標準搭載だったりよく分かりません。

デジタルオシロスコープは、メモリに取り込まれたデータを画面に表示するわけですから、無限大のメモリを使って一度に全ての信号を取り込むのが理想です。高速・大容量記憶しておけば、後から好きな部分を拡大して見ることもできます。ですが、実際には有限のメモリを使いますし、メモリが長くなればデータの処理時間も多くかかってしまいます。そこで機種毎の処理性能に合わせた現実的なメモリ長が採用されているわけです。

メモリ長で注意したいのは、サンプリング速度と信号が取り込まれる時間長の関係です。例えば、1GS/s(1ns)で4,000点(4Kポイント)分のメモリを搭載している場合、記録できる時間長は4μsです。オシロの時間軸設定を遅くしていくと、画面の横軸が4μs以上になりますが、その場合は画面の一部にしか波形が表示されないことになります。そこで多くのオシロスコープでは、時間軸設定が遅い場合はサンプリング速度も追従して遅くなるようになっています。常に最高速度でサンプリングされるわけではないことに注意してください。

図3は、80MHzの方形波を低速(1ms/div)で掃引した場合の二つの結果を示しています。左側(A)は2Mポイントのロングメモリ、右側(B)は2Kポイントの場合です。2Mポイントの場合は高速サンプルのまま信号が取り込まれていますが、2Kポイントではサンプリング周波数が下がった結果、エリアジングを生じ、あたかも信号であるかのように見えています。エリアジング(aliasing)というのは、サンプリングがナイキスト周波数(信号周波数×2)を下回った場合に、別の周波数に変換されて現れる現象で、本来の信号とは全く別のものです。

図3:メモリ長とサンプル速度

異常を確実に捉える能力
~ 波形更新レートに注目 ~

—— 突発的な現象をとらえるにはメモリが長いほど有利ですよね?

デジタルオシロスコープは、信号の全ての部分を捉えているわけではないことは、突発的・偶発的な異常の解析に当たって留意しなければならない事項の一つです。そして、メモリ容量が大きいほど偶発的な現象を捉える確率は高くなります。

図4は、連続した正弦波の一部に欠陥がある場合を示しています。赤い枠で囲んだ四角の部分はオシロスコープに取り込まれる範囲を示しています。メモリ容量を増やすということは、図で赤い枠の横幅を広げることを意味します。したがって異常部分と重なる確率は確かに大きくなります。

しかしながら、実際のオシロスコープでは波形データの処理に時間がかかるため、波形を取り込む時間よりも波形を取り込むことができない[デッドタイム]の方がずっと長くなります。サンプル速度とメモリ長にもよりますが従来型のオシロスコープのデッドタイムは全体の90~99%にもなります。したがって、効果的に異常部分を捉えるには、メモリ容量を増やすことよりも波形を更新するレートを上げた方が有利です。最近のオシロスコープでは毎秒10万回という高速波形更新レートを持ち、デッドタイムは全体の50%以下というものもあります。

図4:信号の異常部分を捉える



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