安全な電気測定 ガイド

取材協力:Fluke

安全規格 IEC61010

高エネルギー過渡現象からユーザーを保護するには、安全機能が測定機器に内蔵されている必要があります。高エネルギーの回路で作業を行う場合は、特に性能仕様のどの部分に注目すればよいでしょうか。IEC(Interna-tional Electro-technical Commission: 国際電気標準会議)が、電気測定機器の国際的な安全規格を制定しています。

業界では、長年に渡って機器の設計にIEC348を使用してきましたが、この規格は、IEC1010に変わり、さらにIEC61010に更新されました。長い間IEC348に準拠したテスターが技術者や電気技師によって使用されてきましたが、IEC61010規格に準拠したメータは、より高いレベルの安全性を提供します。

安全規格 IEC61010の測定カテゴリ

安全規格 IEC61010の測定カテゴリは、カテゴリⅠ~Ⅳとして定義されており、CATⅠ、CAT Ⅱのように省略して表わされます。配電システムのカテゴリは、落雷などの危険な高エネルギー過渡現象がシステムのインピーダンス(AC抵抗)を通るときに減衰または減少されるという事実に基づいて分類されています。

CAT番号が大きいほど、高いパワーを持ち、高エネルギーの過渡現象が発生する電気環境であることを示しています。つまり、CAT Ⅲ規格に準拠したマルチメータは、CAT Ⅱ規格に準拠したマルチメータより、かなり高いエネルギー過渡に耐えられるということです。

同じカテゴリ内では、電圧定格が高いほど、より高い過渡電圧に耐えられることを示しています。例えば、CAT Ⅲ-1000Vのメータは、CAT Ⅲ-600V定格のメータに比べて、より高い保護機能が搭載されています。しかし、CAT Ⅱ-1000V定格のメータとCAT Ⅲ-600Vのメータのどちらが優れているかを判断する場合には誤解が生じますので注意してください。

図1:安全規格 IEC61010の測定カテゴリ


図1の左端は、技術者がCATⅠの場所でオフィス機器を扱っている例を示しています。CATⅠ電気回路での過渡電圧では、アークを引き起こす可能性のあるエネルギーが制限されるため、アーク放電の危険性は高くありません。しかし、CATⅠまたはCAT Ⅱ機器では電気に関する危険性がないという意味ではありません。

CATⅠの環境でも、CAT Ⅲの場所でモーター電気技師によって測定されるAC電圧を大きく超えるDC電圧を扱うことになる場合があります。CAT Iの場所では、過度電圧やアーク爆風の危険は減少しますが、感電による危険が減るわけではありません。感電は、アーク爆風と同様、生命に危険を及ぼします。

また、別の例として、家屋から離れた作業小屋への伝送線の電圧は、100Vまたは200Vですが、技術的にはCAT Ⅳの分類となります。なぜ、このような高いカテゴリになるのかを次に説明します。

屋外の導体は、非常に高いエネルギーを持つ落雷から発生する過渡電圧の影響を受けやすくなっています。落雷によって直撃されることはなくても、近接した場所への落雷が、高電磁場の存在によって過渡電圧を引き起こすことがあります。このため、導体が地下に埋められている場合でもCAT Ⅳとなります。

測定カテゴリの分類は、場所に大きく左右されるという規則があてはまります。


 測定カテゴリ 

概要
CAT IV  電気接続、
 屋外送電線における3相
  • 電源への低電圧接続が行われる「設置元」
  • 電気メータ、主な過電流保護機器
  • 屋外および配電盤、電柱からビルへの配電、メータと配電パネル間の電線
  • 離れたビルへの電線、ポンプへの地下電線
CAT III  単相の商業用照明を含む
 3相配電
  • スイッチギアや多相モータなどの固定設置された機器
  • 工業用施設のバスおよび電気供給施設
  • 電気供給施設および短枝回路、配電パネル・デバイス
  • 大規模なビルでの照明システム
  • 配電盤への短絡接続を持つ家電製品用コンセント
CAT II  負荷に接続される
 単相コンセント
  • 製品、携帯工具、その他の家庭で使用する電気製品や同等の負荷
  • コンセントおよび長枝回路
    • CAT IIIの電源から10メートルを超える距離にあるコンセント
    • CAT IVの電源から20メートルを超える距離にあるコンセント
CAT I  一般電気
  • 保護された電気機器
  • 過渡過電圧を適切な低レベルに制限する対策を施した状態で、回路(ソース)に接続されている機器
  • コピー機の高電圧部分など、高い巻上げ抵抗変圧器から派生する高電圧、低エネルギーの電源

安全規格 IEC61010の測定カテゴリは、低電圧(<1000V)測定器に適用されます。

測定器の使い方

それでは、電気測定を安全に行うために、測定器の使い方を3種類解説します。

交流・直流電圧の測定方法

  1. プラグを挿入する
  2. レンジの切り替えスイッチを「交流・直流電圧」にする
  3. 予想される電圧のレンジを選択する
  4. 測定する物の「-」に対して黒のテスト棒を接触させる
  5. 測定する物の「+」に対して赤のテスト棒を接触させる


電気抵抗の測定方法

  1. 測定する物の電源を切る
  2. プラグを挿入する
  3. レンジの切り替えスイッチを「抵抗」にする
  4. 黒と赤のテスト棒同士を接触させゼロオームスイッチを回す
  5. 針が「0Ω」になるよう調整する
  6. 測定する物の端に赤のテスト棒を接触させる
  7. 赤のテスト棒を接触させた反対側に黒のテスト棒を接触させる


直流電流の測定方法

  1. プラグを挿入する
  2. レンジ切り替えスイッチを「直流電流」にする
  3. 測定する物の「-」に8対して黒のテスト棒を接触させる
  4. 測定する物の「+」に対して赤のテスト棒を接触させる

安全に電気測定を行うには、ご紹介した3種類の電気測定方法を参考にし、測定器の正しい使い方を知っておきましょう。

測定器の選び方

測定器はどのように選定するべきか、選び方のポイントについて解説します。

測定可能範囲から選ぶ

測定器の選び方において、測定可能範囲を確認することは欠かせません。測定器は製品により対応している測定レンジの設定が変わります。電気測定に必要な測定レンジを把握し、測定したい物の電圧の高さを考慮して、測定可能範囲内に収まるように選びましょう。

使いやすさから選ぶ

測定器を選ぶ際には、使いやすさも確認したいポイントです。さまざまな種類がありますが、ハンディタイプやポケット型、カード型ならコンパクトで持ち運びやすく、狭い場所で使うならペンタイプが便利です。性能の高さで選ぶなら据え置き型が良いでしょう。用途や目的を考えて、最も使いやすいと思える測定器を選んでください。

読み取りやすさから選ぶ

測定器を選ぶなら、読み取りやすさも必ず考慮したいものです。数値の読み取りやすさや正確性を重視するならデジタルタイプ、針で電流や電圧の変化を確認したいならアナログタイプがおすすめ。用途や好みによりどちらが読み取りやすいかは変わり、いずれも一長一短があるので、どちらが読み取りやすいかご自身に使い方を考えてから選びましょう。

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