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コモンモードノイズとは
コモンモードノイズとは伝導ノイズの一種です。浮遊容量を介したノイズ電流が大地を通じて電源ラインに戻る際に放射されるノイズのことで、電源のプラス極側とマイナス極側でノイズ電流の向きが同じとなることから「コモンモード」と呼ばれるようになりました。ケーブル内に何らかの理由で同じ電圧がかかり、同じ向きに電流が流れる場合は線間の電圧がゼロになっているため、測定器での測定が難しいのがコモンモードノイズ。ノイズには他にノーマルモードノイズがありますが、発生した条件や状況がたとえ同じであっても、コモンモードノイズはノーマルモードノイズに比べて電波の放射と受信が強いことから対策が難しいとされています。ノーマルモードノイズのように相殺効果が現れないことから、場合によってはノーマルモードと比べて1,000倍近くのノイズ電波が放射されることもあります。周波数帯域が100~300MHzのときに大きくなりやすく、ケーブル内配線に共通して伝わりやすいノイズです。
以上のようにコモンモードノイズとは、測定しにくく、強力なことから対策が難しいとされているノイズのことを指します。
コモンモードノイズとその対策
信号が在るところには、必ずノイズが同居しています。電子機器にとって、ノイズは永遠のテーマともいえるでしょう。中でも、やっかいなのがコモンモード・ノイズ。迫り来る納期に慌てながらの対処療法や、後手後手の対策でお茶を濁す前に、ここで、コモンモードノイズについて頭の中を整理しておきましょう。地面が揺れる、足元から揺れる
ボード上の回路でもケースに組み込まれた製品でも、電気信号の出入り口は二つの端子(ポート)です。多くの場合、二つの内の一つはグラウンド(アース)になっています。回路動作の出発点となる二つの端子間に信号がつながるのは「ごく普通のこと」なので、この形態で加わる信号をノーマルモードと言います。
また、片方の端子をグラウンドとする信号接続はシングルエンド(片線接地)と呼ばれます。
一方、実際の回路や機器に加わる電圧には、もうひとつ別の形態が考えられます。それは、筐体電位(シャーシグラウンド)のような第三の地点と二つの端子との間に加わる電圧です。電圧が二つの端子に「共通して加わる」ことから、この形態はコモンモードと呼ばれます(図1)。
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コモンモードの電圧は、回路動作の基準となるグラウンドの電位を変動させます。回路にとっては、地面が揺れる、足元が揺るがされることに他なりません。ただ、通常の場合は、コモンモード電圧が加わったとしても回路の動作に異常はありません。外が見えないエレベータに乗っている人はエレベータの上下に気づかないのと同じで、回路(人)はグラウンド(床)の動きを感じないからです。
恐ろしいモード変換
図2は、電子回路の入力部分を模式的に表したものです。図でR1、R2は各々の入力インピーダンスを、R3、R4は接地インピーダンスを意味し、Vinが回路の真の入力電圧です。この時、図にVcomで示したコモンモードノイズが加わるとどうなるかを計算したのが図の下に示した式です。この式はコモンモードノイズ対策の幾つかのヒントを暗示 しています。
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例えば、R1=R2 and R3=R4 即ち二つの端子の条件が同じであれば Vin=0、つまり回路はコモンモードノイズの影響を受けません。R1、R2が極めて大きい場合とR4がゼロの時も同様です。
ところが、実際の回路ではそうしたことは稀です。図2の式は、上の条件が満たされない場合にはVinにVcomが現れて来ることを示しています。Vinというのはノーマルモードの入力に他なりません。つまり、例えば二つの端子のインピーダンスにアンバランスがあると、「コモンモードだったはずのノイズがノーマルモードに変換されて回路に加わるモード変換が起こる」ことを意味します。
ちなみに、シングルエンド入力は図2でR2がゼロの場合に相当します。その場合、Vcomを入力インピーダンスと接地抵抗で分圧した値がVinとなり、大きなノイズが加わることになります。先に、「通常の場合は、コモンモード電圧が加わったとしても回路の動作に異常はありません」と書きましたが、式はこれとは反対に回路がコモンモードノイズの影響を受ける大きな危険性を示唆しています。
差動とアイソレーション
図2及び同図に示した式は、二つの入力端子のインピーダンス条件が等しければ、コモンモードノイズはノーマルモードに変換されないことを意味していました。この条件を満たすのが差動(デファレンシャル)入力です。差動アンプの二つの入力は極性が異なるだけで他の条件は同じです。したがって差動性を満足している限り差動回路はコモンモードノイズの影響を受けません。なお、図2の式は入力インピーダンスが大きいほどコモンモードの影響が少ないことも示しています。つまり、入力インピーダンスが高い差動回路ほどコモンモードノイズの影響を受けにくいと言えます。なお、差動性を活かすためには信号源側もバランス(平衡)している必要があります。
図2の式ではR2とR4がゼロの場合にもVinがゼロになります。これは、システム上の全ての接地(グラウンド)が完全であればコモンモードノイズは発生しないことを意味します。ですが、現実にその様な状態を作り出すことは不可能です。
反対にノイズ源と信号入力のグラウンドを切り離してしまうことでコモンモードノイズから逃れるのが絶縁(アイソレーション)のアイデアです。絶縁はデジタル回路から発生するコモンモードを避ける場合などに使われます。絶縁はトランスを使うことで実現できますが、直流が通らず広帯域化するのも難しい欠点があります。そうした場合は、信号を光に変換して絶縁するオプトアイソレータやフォトカップラなどが使われるほか、測定システムなどではアイソレーションアンプが用いられます。
思わぬ所でコモンモード放射
次は、コモンモードノイズ発生のポイントです。例えば高感度な回路の近くで大電流のアクチュエータをオン・オフさせると、その電流は回路にとって大きなコモンモードノイズになります。機器とセンサの距離が離れていて各々で接地した場合なども同様です。気をつけたいのは入力と同様にモードが変換されることによるコモンモードノイズの発生です。具体的には差動で送り出した信号が回路や伝送路のアンバランスによってノイズを発生するコモンモード放射が挙げられます。
図3aは、二本の線路の条件を等しくした平衡線路と同軸ケーブルのような不平衡型の線路を接続する状況を示したものです。この場合、平衡側のグラウンド電位は二本の線の中間であるのに対して、不平衡側は外皮がグラウンド電位となるため、その差分によって電位差を生じ、両者でアンテナとノイズ源が形成されます。その様子を示したのが同図bです。a、bは共に極端な例を示していますが、平衡状態の異なる回路や伝送路が接続される状況(平衡性の不連続)はボード上のグラウンドプレーンなど思わぬところで発生します。しかも、発生したノイズは線路をアンテナとして放射される点に注意する必要があります(図3c)。
ノイズをモードで切り分けるコモンモード対策部品
一般のノイズフィルタはローパスフィルタです。信号や電源ラインに対してノイズの周波数帯域が高いことからローパスフィルタで低い周波数成分だけを通過させノイズを阻止します。つまり有害なノイズと有用な信号とを周波数で切り分けています。これに対してコモンモードフィルタはコモンとノーマルというモードの違いで信号とノイズを切り分ける点で他のノイズフィルタとは異なっています。
コモンモードフィルタの原理を図4に示しました。コモンモードフィルタは2本の線をまとめて一本の線のように巻いたコイル(インダクタ)です。この場合、コモンモードノイズは二本の線に等しく働くので、回路上にチョークコイルが直列に入ることになり阻止されます。
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