精密抵抗器とは?何に使う? ~金属箔抵抗器の用途 ~
—— どんなときに必要になりますか?
回路設計で抵抗器に高い精度が求められるのは、抵抗器の持つ高い精度を利用して回路全体を高精度なものにしたい場合です。
例えば、抵抗器の両端電圧から抵抗器を流れる電流の大きさが求まりますが、電子回路では電圧を精度良く測ることは比較的簡単ですので、値の確かな抵抗器を併用すれば電流の値を正確に知ることができます。また、検出電圧が一定になるように回路を制御すれば高精度な電流源になります。
数ある電流検出用の抵抗器(シャント抵抗器)の中で精密なものは、理化学実験や半導体製造装置などに用いる精密電源、精密工作機械や自動車などのモータ電流検出などに使われています。いっぽう、工業用途などでは精密な温度測定に際して、熱電対と測温抵抗体を用います。ところが、熱電対の出力電圧は、1℃当たり約40μV程度(K型熱電対)ですし、測温抵抗体も1℃の温度変化により約0.4%(白金)の抵抗変化しかありません。このため、ブリッジ回路を形成して高い検出感度を得るようにするのが一般的です。その場合、ブリッジの各辺を構成する抵抗器には、熱電対や温抵抗体のわずかな変化を検出できる極めて高い精度が求められます。また、オペアンプ回路などでは、抵抗の値で回路の利得などの特性が決まるため、電子計測器など高精度な電子回路には高精度な抵抗器が必要です。
ちなみに、電子回路では複数の抵抗間の抵抗値の比が重要なことがあります。その場合は各抵抗の温度係数などが揃っていることが重要であり、値そのものはあまり問題になりません。
精度と確度 ~ 絶対値と安定度 ~
—— 精密抵抗器は値が正確なんですよね?
抵抗器は、製造段階でトリミングなどの手法によって抵抗値を特定の値に合わせ込むことができます。値の正確な抵抗器を作ることが可能なわけですが、値を合わせ込んだ抵抗器が、即ち精密抵抗器というわけではありません。実際に抵抗器が使われるときの抵抗値は使用環境等によって変動するので、精密抵抗であるためには、正確な値を保つ高い安定性と優れた再現性が必須だからです。ちなみに、抵抗値が変わる要因の中で、最も大きなものは温度です。例えば、炭素皮膜を使った抵抗器の温度係数は100ppm/℃以上になります。言い換えると、炭素皮膜では温度が1℃変わっただけで抵抗は0.1%以上も変化してしまうので、精密抵抗器にはなり得ません。
超精密の世界 ~ 精密抵抗器の種類と構造 ~
—— 精密抵抗器は他の抵抗とどこが違うんですか?
精密抵抗器には、ここからが精密といった明確な境界はありません。ただ、許容差が小さく、温度特性が安定していなければならないことから、精密抵抗器と呼ばれるものの多くは温度係数が小さい金属系の材料を使っています。図1に、金属被膜、巻き線、金属箔の3種について、大まかな使い分けを示しました。
金属被膜抵抗器は、セラミックなどの母材に蒸着あるいは焼結させた金属被膜に溝を切って作ります。ポピュラーな抵抗器ですので、許容差1%クラスのものは多くの人が汎用的に使っています。
巻き線抵抗器は、ハイパワーな用途で使う一般用(ホウロウ抵抗など)以外に、材料や巻き線方法を工夫した精密用のものがあります。金属被膜などに比べ温度係数が小さいのが特長ですが、微調整が難しいため許容差に限界があるのと巻き線構造であることから高精度が得られる周波数に限界があります。これに対して金属箔抵抗は、許容差も温度係数も他より圧倒的に小さくなっています。経年変化等も小さく、超精密と呼ぶべき抵抗器です。
図1:精密抵抗の種類
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図2に、温度特性の一例を掲げましたが、1ppm/℃仕様のものでも実力としては0.1ppm/℃程度であることがわかります。金属箔抵抗は、価格が高いのが欠点とされていますが、ひとつの回路に大量に使用するというチャンスは少ないでしょう。
図2:金属箔精密抵抗器の特性例(温度特性)
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図3は、金属箔抵抗器の内部構造です。温度係数が調整された数μm厚の金属箔(Metal Foil)をセラミックなどの母材に貼り付け、エッチングによって抵抗網としてパターン成形します。回路的には値が順に重み付けされた抵抗が直並列されたものになっています。成形を終えた抵抗はバーンインの後、ひとつひとつ抵抗値を測定し並列に接続されている抵抗パターンをレーザまたは人手によってトリミングして抵抗値を合わせ込みます。パターン(抵抗の段数)を詳細にすることで、微細な合わせ込みができます。
図3:金属箔精密抵抗の内部構造(模式図) 箔パターン(上) 電気的等価回路(下)
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超精密を活かす ~ 精度の維持と管理 ~
—— 精密抵抗器を使ううえでの心得はありますか?
精密抵抗器は使い方が重要です。抵抗値以外の要素で精度が左右されないような回路にしたり、自己発熱に対する十分なディレーティングが必要なことはもちろんですが、実装にも気を配る必要があります。低抵抗の場合は、4端子接続として配線部分の抵抗等が影響しないようにします(図4)。実装場所も温度変化が小さいところを選びます。実装部分に温度差(温度の傾斜)があると起電力を生じる可能性があるので注意してください。
図4:2端子(左)と4端子接続(右)
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比較的高い周波数で使う場合は周波数特性も要チェックです。回路のインピーダンスにもよりますが実装部分を含め、図5のような特性となることを承知してください。高感度な用途ではノイズ特性なども考慮します。ほかにも経年変化や耐熱サージ、湿度に対する応答や再現性などについても十分な考察が必要ですので超精密が要求される場合はメーカーに相談してください。
図5:高域特性 等価回路(上) 実際の周波数特性例(下)
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なお、電子部品としてではなく社内や実験室内の標準器として精密抵抗を設備する必要が生じることもあるでしょう。その場合は「標準抵抗器」として提供されているものを使います(図6)。標準抵抗器は他のリファレンスになるものですから、値や不確かさが上位の標準によって定期的に校正され、国家標準とトレーサビリティが保たれている必要があります。
図6:標準抵抗器の例
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