OLED ガイド

小型有機ELディスプレイの基礎知識

有機ELディスプレイとは?
~ 小型ディスプレイの現状 ~

—— 有機ELとはどんなものなのか簡単に教えてください。

LCD・PDP・SEDに続いて、大型の有機EL(OLED)を搭載したテレビの商品化計画が話題になったことがありましたが、実情から言うと、有機ELは、電子機器の状態表示などに使う小型ディスプレイが先行しており、こちらは既に数多くのアイテムに搭載されています。身近な例では、有機ELを搭載した携帯音楽プレーヤや、サブディスプレイに有機ELが搭載されている携帯電話などがあります。

有機ELディスプレイの表示は真っ暗な背景に文字や絵だけがクッキリ浮かび上がることから、視認性や感性を重視するアプリケーションで採用されています。ディスプレイとして使われる場合、液晶では全体を明るい背景(白)にして、文字などの表示を暗く(黒で)表示するポジティブ表示になりますが、有機ELは自発光ですので、これとは反対のクッキリしたネガティブで表示ができるわけです。

電子機器の動作表示など、小型のディスプレイとしては、STNタイプの液晶やVFD(Vacuum Fluorescent Display:蛍光表示管)が多く用いられてきましたが、有機ELはこれに代わるものとして需要が拡大しています。

ちなみに、日本では有機ELと呼ばれていますが、海外ではOrganic ELではなく、「OLED(Organic Light Emitting Diode)」と呼ばれます。

実際、発光の原理や構造などは通常のLED(発光ダイオード)とよく似ています。ただし、単に材料を有機物にしたLEDとかLEDアレイ(多数のLEDを配列したもの:円形, 線形)というわけではありません。

有機ELの発光原理
~LEDと似て非なる ~

—— どのような仕組みで発光するのですか?

プラスチックやゴムなどの有機物は絶縁体なので、長い間、電気による発光は困難とされていましたが、1987年にEastman KodakのTangが初めて有機物の発光に成功し、以後研究が進んだと言われています。

発光の原理は別に示しました(図1)。有機ELは、アノード(陽極)とカソード(陰極)で、有機層を挟んだ構造(ヘテロ構造)をしています。LED は小数キャリアの再結合によって直接光を得ますが、有機EL(OLED)では、結合のエネルギーで周りの分子が励起され、励起状態の分子が基底状態に戻る際に放出される差分エネルギーによって光を発する点で、LEDとは異なります。

図1:有機ELの発光原理


*有機ELは、アノード(陽極)とカソード(陰極)で有機層を挟んだシンプルな構造をしている。バンド・ギャップを持つ2つの半導体を接合させてサンドイッチ状にしたものは「ヘテロ構造」と呼ばれ、電子と正孔をそれぞれ別の層に閉じ込めることによって効率的な反応を起こすことができる。
 有機ELは、カソード(陰極)とアノード(陽極)に電圧をかけ、電子と正孔を注入する。電子と正孔は発光層で結合し、結合によって生じたエネルギーで周りの分子が励起される。そして、励起状態から再び基底状態に戻るその際に放出される余剰エネルギーによって光を発する。
 電極材料として、カソードには銀やアルミニウムなどの光を反射する金属を使用する一方で、アノードにはインジウム-スズ酸化物(ITO)などの透明な物質を使うことで、ガラス(プラスチック)基板を透過させ外部に光を得る。

メリット / デメリット
~ 究極の固体ディスプレイ ~

—— 有機ELディスプレイを他のデバイスと比べた時のメリットとデメリットは何ですか?

有機ELは、第一に自発光ですから、バックライトや導光板が要らず、その分の厚みを薄くできます。また、電力を消費するのは点灯している部分だけで、点灯していない部分(背景)での電力消費はゼロです。

当然ながら、コントラスト比も大きくとれます。例えば、バックライト付きのSTN液晶ディスプレイのコントラスト比は概ね100以下ですが、OLEDのコントラスト比は2000:1に達します。 視野角も広い(ほぼ180度)ので、自動車搭載機器などにも適しています。

応答時間も10μsオーダと、液晶などに比べてはるかに高速ですから、動画再生のほか細かなテキスト画面をスクロールするといった場合にも十分に応答できる能力があります。

また、液晶などと異なり、固体素子であり温度に対して特性変化が少ないため、広い温度範囲で使えるというメリットもあります。

駆動に関しては、プラズマディスプレイのような放電発光(高電圧駆動が必要)ではないので、数V程度の簡単な回路で駆動できるメリットがあります。これはシステム全体の信頼性という面でも意味のあることです。

製造側の立場に立って言えば、材料を結晶化する必要がないので、製造が容易、薄膜状態で使用するため薄くできる、基板上に異なる材料を形成して高解像度の表示が可能、プラスチックなども基板として使えるので折り曲げできるものが実現可能といったメリットもあります。

このように、良いことづくめの有機ELは、「究極の固体ディスプレイ」などと呼ばれることもありますが、コストと駆動トランジスタの歩留まり、それに発光体の寿命などが課題とされてきました。

しかしながら、それらは急速に改善されています。とりわけ小型ディスプレイについては、完璧に実用のレベルに達しています。例えば、発光体や封止技術の進化により寿命が伸び、製品レベルでは既に1~10万時間程度が保証されています。コスト面ではLCDで採用されているガラス基板やドライトランジスタの製造プロセスなどが要因となりますが、これらも需要が増えるにつれて下がっています。

図2:様々な発色(写真は東北パイオニア カタログより)


有機ELは、使用する有機材料によって様々な色を出すことができます。フルカラー化(テレビ)の開発も進んでいます。使用される有機材料には、低分子と高分子の二つのタイプがあります。高分子のものは液体に溶かすことができるので、インクジェットなどによる印刷製法も可能になるほか、プラスチックフィルム上に製膜できるため、折り曲げできるディスプレイも可能です。

無機ELとの差異
~ 同じELでも ~

—— 有機ELのほかに無機ELというのがありますが、似たようなものなのでしょうか?

無機ELは、その名称から有機ELと対比して語られることが多いのですが、両者は発光の原理やドライブの方法など、いくつかの面で大きく異なります。はじめに述べたように有機ELはLEDとしてとらえた方が良く、「ELデバイス」のような括りで考えないほうが分かりやすいかもしれません。

無機ELは、蛍光物質である無機化合物(硫化亜鉛等)の薄膜をPET等をベースにしたITO基材上に印刷し、これに高電圧をかけることで発光します。このため、加速用に200V程度の高電圧交流回路が必要になります。電気的に見た場合でも、有機ELは電流注入型のデバイスで動作としてはダイオードであるのに対して、無機ELは交流電圧印加型のデバイスであり、無機ELのようなダイオードではなくコンデンサに見えるデバイスです。ちなみに、無機EL は、表示媒体としての利用よりもむしろ薄型で折り曲げや任意形状への加工も容易なメリットを活かして、面発光光源としての応用などが期待されています。

    
図3:有機ELの光 - 電特性例
電気特性(図は順方向電圧対発光効率)はダイオードに近い。半導体の回路電圧駆動できるのは有機ELの大きな特長。各ドット(画素)は液晶などと同じく、マトリクス法によって駆動される。



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