|
無線のスキルは電子技術者に必須~ スペクトラムアナライザとは?基本機能とニーズ ~
—— いろんな名前のアナライザがあって混乱しています。
スペクトラムアナライザ(以下スペアナ)は、高周波信号に含まれる周波数成分の分布、すなわちスペクトラム(Spectrum)を表示・解析する測定器です。高周波信号(電波)はパワーメータや周波数カウンタなどでも測定されます。また、高周波信号や電磁波ノイズを時間領域(Time domain)の「波形」として表現することもできますが、横軸を周波数にして周波数領域(Frequency domain)でスペクトラムを観測した方が多くの情報が得られます(図1)。
スペアナに類似した機能を持った測定器としては、変調解析なども可能なベクトルシグナルアナライザ、信号源を内蔵し回路や部品の伝達特性を測定するスカラネットワークアナライザ、放射ノイズの測定に用いるEMC受信機などがあり、これらの機能を併せ持ったアナライザもあります。
|
スペクトラムアナライザの使用方法
—— スペクトラムアナライザの使用方法について見ていきましょう。
- 電源をオンにする
- センター周波数を決定させる
- 左の周波数がゼロもしくはプラスになるようにする
- 周波数幅を決める
- 測りたい信号を入力端子に入れる
- アッテネーターを観測しやすいよう調整する
- IFフィルタ帯域幅を適切に設定する
スペクトラムアナライザを使用する際には、センター周波数を決めてから左端の周波数を調整してから周波数幅を決めましょう。そして、測定する信号を入力端子に入力したら、アッテネーターやIFフィルタ帯域幅を調整してから測定します。
入力端子のインピーダンスは50Ωになっていることがほとんどなので、高周波数を測定する際にはインピーダンスがあっているようにしてください。また、IFフィルタ帯域幅の設定によっては、ノイズが混ざったエネルギーなどで測定誤差が現れることがあるため、正しく設定するように気をつけてください。
スペクトラムアナライザを使用する際には、以上の使い方で測定を行います。
スペクトラムアナライザの使用例
—— スペクトラムアナライザの使用例について説明します。
スペクトラムアナライザはおもに、次のような用途にて使用されています。
- 放送機器
- 携帯電話
- 無線機器
- 通信機器
- 電波調査
スペクトラムアナライザはおもに、放送機器や携帯電話、無線機器、通信機器において雑音・高調波の歪み・EMI・位相ノイズ・変調・不要な輻射などを測定するために使用されます。たとえば、ラジオやテレビ放送では電波の強さを観測したり、品質を調べたりする目的で利用されるのが一般的です。また、スペクトラムアナライザには信号の解析をする能力も備わっているため、不明な電波を調査し、発信源を特定する目的でも使用されます。
オシロスコープでは信号の波形しか観察できませんが、スペクトラムアナライザであれば周波数帯域の確認も行えるため、通信・放送・無線に関する目的で活躍します。中でも「シングルアナライザ」というスペクトラムアナライザは無線通信信号の測定に秀でており、各周波数レベル・送信信号波形・情報・変復調の確認などを行うこともできます。
以上のようにスペクトラムアナライザは放送機器・携帯電話・無線機器・通信機器・電波調査など、周波数や通信を用いる機器にて幅広く活用されています。
スイープかFFTか~2つの基本原理 ~
—— 先輩に動作原理を知ってから使えと言われました。
スペアナには同調掃引とFFTの二方式があります。どちらが良いというわけではなく、測定の目的により使い分けます。まず、同調掃引方式は、受信機の同調ダイアルを回してゆくのと同じように、バンドパスフィルタの中心周波数を掃引(Sweep)していく方式です。実際にはフィルタの周波数は固定されていて、へテロダイン受信機と同様にローカルオシレータの周波数を変化させることで等価的に掃引同調動作を得ます(図2)。同調掃引方式はアナログ時代からあるスペクトラムアナライザの基本方式ですが、近年のスペアナは検波部以降、あるいは、IF段以降はデジタル処理になっています。掃引同調方式の周波数範囲はローカルオシレータの周波数で決定されるため、ギガヘルツオーダの広帯域スペクトラムも1回のスイープで観測できます。また、当該周波数の信号レベルに応じて内部の利得を調節できるためダイナミックレンジが広いという特長があります。しかしながら、フィルタの周波数を変えてゆくので測定中に変化する信号には原理的に適しません。
|
一方のFFT方式は、デジタル技術の進歩によって実現した方式です。FFT方式ではIFフィルタの出力をAD変換し、FFT(高速フーリェ変換)することで時系列データから直接的にスペクトラムを得ます。短い時間窓で切り取った時系列信号のスペクトラムが次々と得られるため、突発的に発生する信号やスペクトラムが刻々と変わる信号にも対応できます(図3)。一方で、IF(ベースバンド)信号をFFTするので、解析周波数幅は特定の周波数で切り出した範囲に限られます。ちなみに、高速オシロスコープのFFT機能を使っても、広帯域信号のスペクトラムを得ることができますが、ADコンバータの分解能は8bit程度なため、無線信号の解析などにはダイナミックレンジが不足します。これに対してFFT方式スペアナは、14bitクラスのADコンバータが搭載されています。
出典:キーサイト・テクノロジー |
結果を疑うべし~ RBW(Resolution Band Width)~
—— アナライザの能力を活かすコツを教えてください。
同調掃引方式のスペアナでは、IFフィルタの通過帯域幅すなわちRBW(Resolution Band Width)で実質的な周波数分解能が決まります。RBWは任意に設定でき、RBWを狭くするほど周波数分解能が向上し、スペクトラムの細部をより忠実に測定できます。また、RBWを狭くするとノイズのパワーも減るのでノイズレベルが下がってダイナミックレンジが向上します。しかし、RBWを狭くすると応答が遅くなるため緩やかに掃引しなければならず、測定に時間がかかります(図4)。したがって、測定対象に合わせて適切なRBWを選択・設定する必要があります。実際には、まず広めのRBWで全体の概要を把握し、次に狭いRBWでクリティカルな部分を詳細に測定するのがよいでしょう。
出典:キーサイト・テクノロジー |
有るはずのないものが見える ~ ひずみとノイズ ~
—— アンプとアッテネータが同居しているのは何故?
ブロック図で示したように、測定信号は入力のアッテネータで一度減衰させたものをミキサでIF(中間周波数)に変換した後に増幅されます。このとき、わずかではありますがミキサやアンプの非線形性によって2次高調波(SHD)や2信号の3次の相互変調成分(TOI)など不要なひずみ成分を生じます。有害なひずみを生じているか否かは、入力信号のレベルを変えた場合に測定値が従うか否かで判定できます。ちなみに飽和レベル以下のとき、基本波レベルは入力レベルに追従しますが、二次高調波はミキサの入力レベルが1dB上がる毎に2 dB、3次相互変調成分は3 dBの割合で増加します。
もうひとつ、アナライザ自体には内部雑音があり信号と共に増幅されます。その結果、測定のダイナミックレンジは測定信号(キャリア)とノイズあるいは不要成分の何れかとのレベル差で制限されます(図5)。
出典:キーサイト・テクノロジー |
その際、測定信号に対するノイズや不要成分の相対的な値は、ミキサに入力されるレベルによって別々の変化をします(図6)。したがって、良好なダイナミックレンジが得られるミキサレベルになるように、入力アッテネータの減衰量(IFの連動を含む)を調節することが肝腎です。
出典:キーサイト・テクノロジー |
最後が肝腎 ~ バケットと検波モード ~
—— 検波にもモードとかあって よく分かりません。
実はスペアナの内部では、画面に表示されたスペクトラムよりも測定値を細かく算出しています。画面の表示分解能の制約や測定値の見やすさを考えての処置ですが、何れにせよ画面上の1点はバケット(Bucket)やビン(Bin)と呼ばれる時間範囲で区切られた複数の測定点の値を代表した値であることを念頭に置いてください(図7)。バケット内のどの値を表示させるかは検波モードで選択できます。検波モードにはノーマル/ピーク/サンプル/アベレージなどがあります。例えば、ノーマルは隣接するバケット毎に正負のピークを交互表示、ピークはバケット内の最大(最小)値、サンプルはビン内からランダム抽出、アベレージはバケット内の平均(リニア/ログ / RMS)など処理が異なるので、測定の目的によって使い分けます。その場合、バケット内のサンプル数にも気を配ってください。例えば、ノーマルモードでサンプル数が多いと、細かな変化を見失う可能性を生じるからです。
出典:キーサイト・テクノロジー |
スペクトラムアナライザ 関連商品
技術情報 Ideas and Advice
半導体・電子部品 ガイド
制御機器・機械部品 ガイド
工具・計測器 ガイド