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パワーインダクタとは
—— 「パワーインダクタ」とは電極をらせん状にした電気コンポーネントのことです。
電極をらせん状にした部品はコイルと呼ばれますが、パワーインダクタはコイルの中でも電源系統で利用されます。主な用途は交流・交流のコンバータなどの電源回路で、スイッチングレギュレータ方式の回路で頻繁に用いられる部品です。身近な例として、テレビ・冷蔵庫・エアコン・パソコン・プリンタ・デジタルカメラなどの家電製品、スマートフォンなどの通信機器、自転車・自動車などの輸送機器に組み込まれています。
パワーインダクタに交流電気を流すとエネルギーを蓄積し、通電を止めるとエネルギーを放出させるため、パワーインダクタは交流・交流コンバータとしてさまざまな電気製品の中で抵抗により電圧制御効果をもたらしたり、不要なノイズを取り除いて電流に安定性をもたらしたり、信号の要不要を分類したりする役割を果たします。パワーインダクタは電源系統に用いられるコイル状の電気コンポーネントのことですが、電源回路において性能を左右させるほどの大きな働きを持ちます。
パワーインダクタの使い方
—— それでは、パワーインダクタの使い方について見ていきましょう。
電流の大小や温度により特性が変化することがある
パワーインダクタは電流の大小や電流による温度変化で特性が変わることがあります。電流が大きくなるにつれてインダクタンスが下がる「直流重畳特性」が起きたり、電流による温度の変化で透磁率や飽和磁束密度が変わったりするのです。その他、コイルの太さ・巻線数・磁気シールド構造なども影響を与える要素とされます。パワーインダクタは一般的に設計が難しいと言われますが、電流や温度により特性が変化することが理由です。
負荷や周波数により損失が発生する
パワーインダクタでは、負荷や周波数により損失が発生します。発生する損失は巻線による銅損、コア材による鉄損で、さらに周波数が高い場合は交流電流の銅損も含みます。損失の大きさは電流・周波数・負荷の大きさに応じて大きくなるため、高周波での活用では損失の発生量が大きくなることが特徴です。パワーインダクタを使う際には、負荷や周波数による損失が起こることを前提として使うようにしましょう。
リップル電流では20~30%のインダクタンス値にする
パワーインダクタをリップル電流で使用する際には、定格電流の20~30%でインダクタンス値を定めるようにしましょう。ダイオード整流タイプのコンバータにおいては、インダクタ電流が連続して流れなくなるため電源が不安定な状態になり、ノイズや音鳴きの要因にもなります。インダクタ電流の不連続性は定格電流の10%前後で発生するため、定格電流の20~30%のインダクタンス値にすると安定した電気を流せるようになります。リップル電流では定格電流の20~30%のインダクタンス値で使用するようにしてください。
漏れ磁束・音鳴きを最小限に抑える
パワーインダクタで発生する漏れ磁束や音鳴きを最小限に抑えることも、使用する際のポイントのひとつです。パワーインダクタに大きな電流を流すほど漏れ磁束の量は大きくなりますが、漏れ磁束や音鳴きが大きくなると、周辺に存在するその他の部品に悪影響を与えかねません。また、不要なノイズが発生してしまうことも考えられます。漏れ時速や音鳴きの周囲への影響を抑えるには、磁気シールド構造のパワーインダクタなどが効果的。周辺部品を正常に作動させるためにも、漏れ持続・音鳴きは最小限に抑えるようにしましょう。
小さいのにはワケがある ~ パワーインダクタ小型化の背景 ~
—— 部品の小型化が進んでいますね。
電子部品の小型化は、電子機器の小型・高密度実装化に伴う必須要求であり、インダクタ(コイル) の小型化も例外ではありません。小型インダクタの用途は、図1に示す3種に大別できますが、スイッチング電源に用いるパワーインダクタ(パワーチョーク)でも小型化が進展しています。パワーインダクタの小型化には、スイッチング電源の回路動作とデバイスの進化が密接に関連しています。一般に、インダクタのインダクタンス値は、巻き数が多いほど、大きく巻くほど、そして磁束が貫く媒体の透磁率が高いほど大きくなります。パワーインダクタでは、フェライトなど透磁率の大きな磁性体をコア(巻き枠)に使用し、空芯に比べてはるかに大きなインダクタンス値を得ていますが、コイルを小型化すると巻き径は小さくなり巻き数も減るのでインダクタンス値は小さくなってしまいます。また、小さなコアの巻き線に大きな電流が流れるとコアの磁気が飽和してインダクタンス値が急激に減少します。その意味からもパワーインダクタの小型化は難題です。このため、機器を小型化するにあたっては、それまでよりも小さなインダクタンスでも動作するように回路が進化してきました。具体的には電源のスイッチング周波数を高くしてパワーインダクタのインダクタンス値を小さくする傾向にあります。
出典:太陽誘電株式会社 |
図2に、スイッチング周波数とインダクタンス値の変遷を、図3には、大きさとの関係を示しました。スイッチングを速くすると、スイッチデバイスでの損失が増えるため、一意に高速化することは難しいのですが、高速・低損失のパワーMOSFETが手に入るようになってきたこともあり、最近の小容量電源では、μHオーダのインダクタを数MHz台の周波数でスイッチするものが主流となっており、1μH以下が使われる例も見られるようになってきました。
出典:太陽誘電株式会社 |
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磁界を閉じこめる ~ パワーインダクタの種類と構造 ~
—— パワーインダクタの種類と選択法を教えてください。
インダクタは一台の機器内でも多数使用される汎用部品なので、メーカー等によらず標準化されていることが望ましいと言えます。そのため、インダクタンス値や基本形状などの基本的なパラメータは、JISなどで規格化されています。しかし、実際の商品ではバリエーションが多く、抵抗やコンデンサなど他の汎用部品に比べ、標準化の度合いが弱い部品でもあります。形状も必ずしも統一されていないのが実状です。
パワーパワーインダクタを構造面で分類すると、積層の技術で巻き線を形成したもの、棒状のコアに巻き線を施したもの、ドラム型のコアに線を巻いたものの三つがあります。この順に適応する電流が大きくなりますが、例えばフェライト樹脂で封止することで磁束の漏れを防ぐなど、それぞれに小型化の工夫が凝らされています(図4)。選択に際しては、回路動作で決まるインダクタンス値とンダクタに流れるピーク電流を出発点とし、形状や周波数特性などを要件に加えて品種を絞り込みます。スイッチングレギュレータのインダクタに流れる電流は、オフセットを伴った三角波状であり、直流電流と高調波を含んだ交流電流の合わさったものだからです。
出典:太陽誘電株式会社 |
LなのにLCR ~ パワーインダクタの電気特性と等価回路 ~
—— 構造のわりにパワーインダクタの特性は複雑みたいです。
世の中に理想の部品というものは存在しません。インダクタとして実際に線を巻けば、線間に浮遊容量(Cp)が生じますし、巻き線や端子には直流抵抗分(Rdc)があります。さらに、コアにも交流損失(Rac)があります。これらを考慮したインダクタの等価回路が図5で、通常はこの回路で考えて大きな間違えはありません。ただし、コアの特性は周波数や電流に対して非線形性を示すなど、各素子(特にRac)の値は必ずしも一定ではなく、非線形の要素を含むことも承知しておくべきです。
出典:太陽誘電株式会社 |
図6は、インダクタンス値とインピーダンスの周波数特性の例です。インダクタンス値は高い周波数で急低下しており、インピーダンスは共振特性を持っていることが分かります。ちなみに、仕様書記載のインダクタンス値(公称インダクタンス値)は多くの場合、100kHzでの値です。
インダクタは、抵抗などに比べてバラツキが大きくなりがちな部品です。比較検討に際しては、誤差などの定義や測定条件にも注意を払ってください。例えば、直流抵抗や温度上昇などは、メーカーによって異なり、maxで規定するものとtypで規定しているものがあります。
出典:太陽誘電株式会社 |
熱と戦う ~ パワーインダクタの直流重畳と温度上昇 ~
—— 設計や実装上での注意点は何ですか?
一般のインダクタと異なり、パワーインダクタでは、直流電流が重畳した状態で使用される事がほとんどです。このため、設計や実装に当たっては、重畳する直流電流が及ぼす影響を考慮することがポイントになります。主要な要素は、インダクタンス値の変化と発熱で、この二つによって流せる直流電流の大きさが決まります。前述のようにインダクタに電流を流していくと、磁気飽和によって実効的なインダクタンスは低下していきます。コアの磁気飽和が原因ですので、低下の割合はコアの大きさにも深く関係します。図7に、サイズによるDCバイアスの重畳特性の違いを掲げました。いっぽう、直流重畳による発熱は、巻き線の抵抗に起因するジュール熱です。発熱の電力(銅損)は電流の2乗に比例しますので、電流が増えると発熱は急激に増加します。発熱には、スイッチングの交流成分による損失(鉄損)も加わります。パワーインダクタでは、直流重畳許容電流と温度上昇許容電流が規定されていますので、いずれも満足する定格電流値での回路設計を心がけてください。
出典:太陽誘電株式会社 |
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