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高速化するデジタル信号波形の測定
回路を設計したりトラブルを解決するうえで、信号波形の測定は欠かせません。電子機器内部の信号のほとんどはデジタル信号です。しかもその信号は日々高速化しています。その結果、測定器と被測定回路の仕様が接近してきました。測定器を性能の限界付近で使用するためには、信号と測定器の双方についてよく知ることが肝心です。デジタル信号波形とアナログ信号波形の違い
デジタル信号波形とアナログ信号波形の違いは次のとおりです。中間値が存在するかどうかの違い
デジタルとアナログの信号波形における最大の違いは、中間値が存在するかどうかです。アナログの信号波形は連続性を持ち、無限に中間測定値が存在します。しかしデジタルの信号波形は連続性がなく、「0」の次は「1」のように中間値は存在しません。
たとえば、秒を刻まないタイプのアナログ時計は連続して動きますが、デジタル時計は「00秒」の次は「01秒」です。以上のように、中間値が存在するかどうかという点が最も大きな違いとなります。
数値の違い
デジタル信号波形とアナログ信号波形は、数値にも違いがあります。中間値が存在するアナログ信号では「0」と「1」以外にも測定値が存在しますが、デジタル信号波形には「0」と「1」しか存在しません。測定できる数値の違いを見ると、デジタルとアナログの信号波形は明確に違います。
信号波形の形状の違い
信号波形の形状が異なることも、デジタル信号は毛糸アナログ信号波形の違いです。デジタル信号は「0」と「1」の2進数であることから、波形の形状になめらかさはなく、離散的で角張った形状の波形となります。
対してアナログ信号は中間値が存在することから波形がなめらかで、波を描くようなやわらかな形状の波形です。たとえるなら、デジタル信号は棒グラフのような波形となり、アナログ信号は曲線グラフのような形になります。以上のように、デジタル信号波形とアナログ信号波形は形状も異なります。
再現性の違い
アナログ信号は再現性が低く、デジタル信号は再現性が高いという違いもあります。アナログ信号は中間値を持つことから、データが劣化して元のデータを再現できなくなることがあります。たとえば「0.45」だった数値が「0.4」に変化してしまうことも。対して2進数のデジタル信号はしきい値により四捨五入されるため再現性が高く、「0」であった数値は「0」と再現されやすくなります。データの劣化による再現度の違いも両者の違いのひとつです。
信号の性質を知る~ 方形波のスペクトラム ~
図1は、デューティが50%(1対1)の方形波のスペクトルです。この場合、繰り返し周波数を基本波として3次、5次、・・・の奇数次の高調波が立ちます。その量は、5次であれば基本波の1/5、9次であれば1/9という具合に、次数に反比例、つまり、-6dB/oct(20dB/dec)で減衰します。別の言い方をすれば、6dB/octでしか減衰しません。また、2次、4次など偶数次の高調波は存在しません。偶数次高調波が存在しないのは、繰り返し周期の前半と後半で対称を成す波形の特長です。
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一方、図2は、デューティが50%以外の場合です。デューティが50%から外れると、偶数時の高調波が現れます。ただし、繰り返しの周波数が変わらなければ、デューティが変わっても各高調波の周波数は変わりません。また、高調波の包絡線は|sin(x)/x|の形をしており、ゼロになる周波数は図の1/τとその実数倍の周波数です。デューティ50%では、τが周期(T)の1/2なので、偶数時高調波がゼロになるわけです。
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このように方形波は、高調波成分を多量に含むわけですが、最近のデジタル回路では、回路やデバイスの周波数帯域に対して、クロック周波数が数分の1程度まで接近しています。このため、方形波としての高次の高調波成分が欠け落ちています。結果的に角の取れた丸みを帯びた波形となっているのが、現実の高速デジタル信号です。
実際の信号のスペクトルは、オシロスコープで採取した波形をFFTしたり、スペクトラムアナライザなどで測定できますが、設計段階で信号のスペクトルを見積る場合は、データのビットレートの1/2を基本波と考えます。一般のNRZ(non-return to zero)信号では、1とゼロの反転を繰り返すときに、周波数が1/2でデューティ50%の方形波と同じになるからです。例えばPCI Express(2.5Gbit/s)では、基本波周波数は1.25GHzで、3次高調波は3.75GHz、5次は6.25GHzということになります。
測定器要件の確認~ 帯域幅とサンプリング ~
信号に対して十分に広い周波数帯域を持つオシロスコープを使えば、誤差の小さな測定が可能です。簡易的には、基本波の5倍の帯域を確保する必要があります。ところが、デジタル回路の高速化に比べてアナログ回路の広帯域化は、技術的に多くの困難を伴います。計測器も例外ではありません。
測定器の周波数帯域が不足すると、方形波の高調波成分が減衰するので、波形は更に鈍って見えます。図3は、同じ信号を異なる帯域で観測した場合の波形の違いを示しています。帯域が狭いと波形が鈍って、立ち上がり時間も遅く測定されます。オシロスコープなどでは自身の持つ立ち上がり時間が明記されていますが、測定される立ち上がり時間は、信号の立ち上がり時間と測定器の立ち上がり時間の二乗の和の平方根(例:1nsの信号を1nsのオシロで測れば1.4ns)になります。
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次に、デジタルオシロスコープなどでは入力信号をサンプリングします。この場合、サンプリング周波数は基本波に対して十分に高くなければなりません。ナイキストの定理により、サンプリング周波数の1/2以上の成分はエイリアスとなって別成分に変換され信号に紛れ込むからです。方形波では高次の高調波成分を含むので、高調波成分がエイリアスになる危険性がさらに高くなります。
図4は、約450MHzの信号を毎秒5Gと20Gでサンプリングした場合の違いを示しています。20GS/sでは波形をほぼ確実にとらえていますが、5GS/sではサンプリング速度が不足し、立ち上がり時間が遅く見えます。さらにエリアジングによって、低域の不要成分が発生し、結果としてジッタとノイズを含んだ信号のように測定されてしまっています。
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図5は、オシロスコープの高域端の周波数特性を模式的に描いたものです。一般のオシロスコープでは、波形にオーバシュートなどの暴れが出ないように、高域端の周波数特性は6dB/octで緩やかに減衰するよう設計されています。しかしながら、高速デジタル信号などオシロスコープの帯域をフルに使う用途では、表示された周波数帯域以下でも、図に水色で示した範囲で利得が低下し誤差を生じます。反対に桃色で示したナイキスト周波数以上の領域では、減衰量が不足し、エイリアスを生じる可能性があります。信号に対してサンプリング周波数を十分に高くできない場合は、このことも考慮しなければなりません。このため、最近の超高速オシロスコープでは図に青色で示したように、通過域の振幅特性をできるだけ平坦にしたうえで遮断域の特性が急になる特性を持たせた機種が多くなっています。その場合、若干のオーバシュートなどを考慮する必要がありますが、立ち上がりの測定精度などは向上します。
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正しい接続と検出~ プローブと負荷効果 ~
信号に見合った測定器が選択できたとして、次の問題は測定信号と測定器の接続です。信号が測定ポイントからオシロスコープの入力に導かれるまでに変形してしまっては元も子もありません。高速のデジタル信号は周波数帯域が広いうえ、回路の駆動能力が小さい場合が多いので注意が必要です。
結論から述べると、広帯域で負荷効果の小さいプローブおよびプローブチップ(接続用の先端部品)を使って最短距離で接続することです。プローブは通常のパッシブプローブ(10:1など抵抗減衰型)も使えますが、その場合は入力容量に注意を払ってください。入力容量に相当するコンデンサが回路に接続されるのと同じだからです。回路に対してプローブの入力容量が問題になるときはFET入力型のアクティブプローブを使用します。また、昨今の高速デジタル回路は差動接続のものが多くなっていますが、差動回路に対しては2本のプローブを使うのではなく差動プローブを使うことが推奨されます(図6)。
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波形から何を読み取るか~ 含まれる情報の吟味 ~
適切な測定器を回路に正しく接続すれば正確な測定結果が得られます。しかしながら、測定とは測定器に波形や値を表示させることではありません。表示された波形や値からその意味するものを読み取って初めて測定の目的が達成されます。
例えば、デジタルオシロスコープに表示される波形は連続した信号のごく一部を切り取った結果に過ぎません。具体的に10GS/sで1M(ポイント)の取り込みをしたとして、取り込まれるのは100μsの期間だけです。特にデジタルオシロスコープでは次の取り込みまでの時間間隔が長い傾向にあるので、図7のように、その間に起きている信号の異常部分(本来、捕らえるべき信号)を見落とす可能性を否定できません。表示された正しい部分だけの波形を見て安心してはいけないわけです。そうした場合はトリガ条件を変えるなどして見落としが無いか否かを確認する心がけも必要です。
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