オンボード電源 ガイド

オンボード・ユニット電源の基礎知識

取材協力:コーセル株式会社

オンボード電源とは?
ブラックボックス ~ 完成された設計の入手 ~

—— 電源くらい自分で設計できないとマズイですよね。

道路や電気・ガスなどのインフラ(Infrastructure)が整っていない社会は不安定であるように、電源設計がシッカリしていない機器は信頼性を欠きます。電子機器にとって電源は基本であるわけですが、システムや回路の設計者にとっては、機器に与えられた本来機能を実現のための回路設計が主眼であり、電源をその都度設計するのは大きな負担であることも確かです。

もし、電源を完成された設計として入手でき、ブラックボックスとして扱えるとすれば、回路設計もパターン設計もずいぶんと楽になるはずです。電源を1個の部品として扱えるので、購買や在庫といった管理サイドの負担も軽減できます。このため、最近の電子機器では、完成された電源を利用する例が増えています。組み込み用に完成された電源には、ラックなどの機器内部に置く独立したユニットタイプのものと、プリント基板上で使うオンボードタイプがあります(図 1)。電気的には商用ラインの交流を直流に変換するAC/DCコンバータと、直流を別な電圧に変換するDC/DCコンバータの二種で、AC/DCはユニットタイプ、オンボードではDC/DCが大多数を占めます。接続形態面では、入出力間が絶縁されているものとグラウンドが共通(非絶縁)のものに分けられ、 AC/DCは基本的に絶縁型になりますが、DC/DCでは絶縁と非絶縁の両方があります。非絶縁は回路がシンプルで小型にできるので、回路内の POL(Point of load)として使われるいっぽう、デジタル/アナログ混在のボード、モータやアクチュエータが同居したセット、ノイズが大きな環境などでは絶縁型のDC /DCでグラウンドを分離させるのが有利です。

   
 図1:オンボード電源の製品例
 出典:コーセル株式会社

DC/DCコンバータが今求められていること

—— 現在、DC/DCコンバータは次のような理由で求められています。

電圧の安定のため

コンセントから電力を得るタイプの電気製品ではAC/DCコンバータが必要とされますが、電圧の安定のためにはDC/DCコンバータが必要不可欠です。
電気製品に搭載されている半導体部品は交流で動作しますが、部品はそれぞれ異なる動作電圧範囲内で稼働するため、部品ごとに求める電圧も違います。そのため、電圧が安定しないまま電気製品を動かそうとすると、正常に動作しなかったり、劣化してしまったりなどの問題が起こりかねません。
DC/DCコンバータは電気製品を稼働させるための電圧を適切に変換し、安定性を持たせるために必要とされています。


電力効率を高めるため

DC/DCコンバータは電力効率を高めるためにも必要です。
DC/DCコンバータを用いると入力される電力と出力する電力の差を少なくすることができるため、電力の効率が高くなり、理想的には入力電力と出力電力が同値となる電力効率100%を実現させることもできるとされます。つまり、DC/DCコンバータは入力電力を無駄なく使用し、電力効率を高めるために活用されるのです。


出力電力を変換するため

DC/DCコンバータには出力電力を変換させる働きもあります。
たとえば、入力された電圧をより高くしたり、入力された電圧を半極性の電圧にしたりすることができます。出力電力の変換はDC/DCコンバータ内コイルが持つ、エネルギーの蓄積・放出の機能を用いた使い方です。
以上のように、入力された電圧とは違う特性を持つ電圧を作り出したいという用途においても、DC/DCコンバータは活用されています。

基本の選択
~ トポロジー ~

—— 基板の上に基板を載せることになります。

オンボード用の電源にはケースに収まったものと基板のままのものがあります。コスト面では後者が有利で、ケース入りは安全面やノイズ対策などの面で優れていますが、元々ボード上に実装するものなので、周囲を含むボード全体で考え選びます。図2に使用例を示しました。[A]は基板外にユニットタイプのAC/DCコンバータを置き、オンボードのDC/DCでデジタル用とアナログ用に電源を分けています。モータ駆動等にはAC/DCの出力から分岐させ、ノイズや電源変動がボード上の回路に波及しないようにしています。[B]はクルマやテレコム機器の非常電源などバッテリから電源供給される機器で電子回路を動作させる場合で、この例ではオペアンプ用に正負両極性の電源を得ています。[C]はボード一枚で構成される小型の家電品の例です。一般にAC/DC電源はユニットタイプが使われますが、この例ではオンボードでAC/DC電源を使っています。同図の下三つは「こんな使い方もできる」という応用例です。[D]は正(プラス)電源から負(マイナス)の電源を得るもの、[E]と[F]は正負両極性(マルチ出力)の電源から2倍の電圧と異なる二つの電圧を得る方法を示しました。

   
図2:基本使用例と応用例     

 出典:コーセル株式会社

敵を知る
~ 負荷の特性把握 ~

—— 選定ではどんなことに注意すればよいですか?

電源の基本仕様は出力電圧と電流です。回路(電源から見た負荷)の要求電圧と電流容量から決定されますが、純粋な抵抗のように常に一定の電流が流れる負荷はむしろまれで、実際の多くはコイルとしての要素を持ったインダクティブな負荷であったり、コンデンサとしての性質を強く持ったキャパシティブな負荷であったりします。これらの負荷では電源の立ち上がりや負荷のオンオフなどに大きな過渡現象を伴うので注意が必要です(図3)。これらでは一時的に過電圧(逆方向電圧)や過電流となって電源が壊れたり保護回路が働いて回路が動作しなかったりと言うことがあるからです。

   
図3:負荷回路と過渡特性

 出典:コーセル株式会社


したがって、電源の選定に当たっては負荷回路の特性を把握することが最も基本になります。インダクティブな負荷では負荷がオフ(電流が急減)する際の逆起電力、大容量のコンデンサが並列に接続されているようなキャパシティブな負荷では回路起動時の充電電流を事前に検討してください。図4はインダクティブな負荷の一例で、ブリッジ回路でモータを制御しています。この場合、ブリッジを構成する二組のスイッチが切りかわる際にモータに生じる起電力が電源に加わり電源を破壊する可能性がありますので、電源出力に逆流防止のダイオードを挿入します。

   
図4:切り換え時の過電圧と逆方向電流

出典:コーセル株式会社 

賢く使う
~ 負荷に適した選定と使用 ~

—— 他にはどんな負荷に注意が必要ですか?

LEDのダイナミック点灯など電流がパルス状になる回路も一考を要します。電源の容量が負荷のピーク電流に対応したものであれば動作上問題はないわけですが、ピーク電流で電源容量を決めるとオーバスペックとなりがちです。ピーク電流に対応した品種もあるほか、ピークがごく短時間(数μs~数ms程度)で若干の電圧低下を許容できるのであれば、電源出力にコンデンサを付け足すことでピーク電流を供給できます(図5)。
   
図5:パルス状負荷電流への対処

出典:コーセル株式会社 


コンデンサの値はそれぞれの取扱説明書等に従ってください。一方、立ち上がり時に保護回路が働いたままとなって起動できない負荷もあります。電源出力の過電流保護には大きく分けて逆L垂下とフの字垂下の二つの方式がありますが、例えば立ち上がり時に抵抗値が大きく変化するフィラメントランプ(電球)や二次電池(定電流性負荷)に負荷にフの字保護を適用すると、保護が働いたまま安定してしまう事があります(図6)。

   
図6:出力の過電流保護方式
 
出典:コーセル株式会社

ちなみに、AC/DC電源の中には入力側にも突入電流の保護回路が内蔵されているものがあります。サーミスタを使う方式とサイリスタを使う方式の二つがありますが、何れも電源遮断の直後に再投入された場合は、サーミスタが高温になったまま、もしくはサイリスタがオンしたままの可能性があるため突入電流が流れる可能性があることを承知してください(図7)。

   
図7:AC入力の突入電流保護方式

出典:コーセル株式会社 

見えない敵
~ ノイズの経路 ~

—— ノイズトラブルの心配はありませんか?

電源も電子回路ですから、ノイズを全く出さないわけではなく、外部からのノイズにも一切影響されないというわけにはいきません。

さらに、電源の入力は外部とつながることになるので他へのノイズ流出ルートとなるほか外来ノイズの侵入経路にもなります。一方、出力はボード上の各回路に接続されるのでノイズの分配経路になる可能性があるという具合に、電源はノイズに対して考慮しなければならない要素を本質的に多く持っています。市販の電源はノイズに対して様々な配慮が成されているとはいえ使用に当たってはノイズに対する十分な気配りが必要です。

図8にノイズの発生源と伝搬ルートを示しました。オンボード電源のほとんどはスイッチング方式ですので、内部にスイッチ素子やトランスなど比較的大きなノイズの発生源を持っています。これらで発生したノイズは直接空間に放射されるほか、入出力の配線やグラウンドを通じて伝導します。

   
図8:ノイズの発生と伝搬ルート

出典:コーセル株式会社 

出さない・入れない
~ EMC対策 ~

—— ノイズに対する有効な手だてはありますか?

一般にノイズ対策は「シールディング」「グランディング」「フィルタリング」の三つといわれています。シールディングは、シールド板やノイズ吸収シートなどによる放射性ノイズ対策です。ケース無しのオンボード電源の近傍に感度の高い回路を配置しなければならない時になどに必要です。ちなみにノイズの結合は距離を離すことでも回避できます。言い換えると入出力の配線を近づけたり平行に配線したりすることは新たなノイズの経路を作ってしまうことになるので厳に戒めなければなりません。

二番目のグランディングは、シッカリとしたアースを確保することを意味します。太く短い配線が決め手です。グラウンドは電源出力の電流帰還ルートでもあるわけですから、大きなループを作らないようにアースポイントと配線経路を決めてください。

三つ目のフィルタリングは入力や出力にフィルタを挿入してノイズを阻止する方法です。AC/DCコンバータではAC入力側に専用のノイズフィルタ(ラインフィルタ)を必ず使用します。DC/DCでも入力側に大きなノイズが含まれる場合に対応できるフィルタが製品化されています。出力側に対しては、高周波特性の良いコンデンサの挿入、電源ライン用のノイズフィルタ、コモンモードチョーク、フェライトビーズなどのノイズ対策部品が有効です。

ただし、フィルタを使用する際には線間に生じるノーマルモードノイズに対するものなのか出力とグラウンド間に生じるコモンモードノイズに対するものなのかの意識が大切です。例えば、図9の(上)はDC/DC用の入力フィルタ、(下)は雷などの入力サージに対するサージアブソーバの例ですが、図で赤色で囲ったデバイスはノーマルモード、青色はコモンモードに対してのみ作用し、相対するモードに対しては効き目は期待できません。


   
図9:ノイズフィルタ(上)とサージアブソーバ(下)の効果

 出典:コーセル株式会社

厳守すべし
~ 安全対策 ~

—— 安全性とかも大切ですよね。

源の安全性確保は全てに先立つ優先事項です。特にAC/DCではACラインを直接扱うため、絶縁や耐圧などの各種安全規格に則った実装と配線が必須です。端子や配線間の距離(沿面距離)確保や難燃性材料の使用など厳格な設計が求められます。

オンボード電源ではマザー基板と電源の距離が規定された寸法以上になるようにしてください。規定を下回る場合はスペーサを入れるなどして耐圧を確保する必要があります(図10)。

   
図10:オンボード電源の取り付け

出典:コーセル株式会社 

ユニットタイプ(AC/DC)では、ひとつのシステム中で多数電源を使用されることがありますが、筐体を通じてグラウンドに流れる電流は各々のコモンモード用コンデンサに流れる電流の和となるため、漏洩電流が規定を超える恐れがあるので注意してください(図11)。

   
図11:複数電源使用時の漏洩電流

出典:コーセル株式会社 

諸行無常
~ 電解コンデンサ ~

—— 電源には寿命があるって聞いたのですが。

電源も電子回路ですから、他の電子機器同様に経年変化があります。さらに、電源は発熱を伴うので構成するデバイスの寿命が加速され易い方向にあります。中でも電解コンデンサは経年的使用によって内部の電解質が劣化・蒸発してしまう有寿命部品です(図12)。結果的に、電源の寿命は電解コンデンサの寿命に左右されるため、電解コンデンサを使わない長寿命の製品も多くなりました。

レイアウトに際しては温度によって寿命が加速されることを考え電源を高温下に曝されない様にすると共に電源自身の放熱性を高めることも大切です。

   
図12:オンボード電源の取り付け

出典:コーセル株式会社 

安心と信頼
~ 高信頼化手法 ~

—— 信頼性を高める方法を教えてください。

電源をシステムとして考えた高信頼化手法のひとつに「冗長運転」があります。<図13>にその例を示しました。[A]は「N×2」、[B]は「N+1」と呼ばれる運転方式です。一見するとパワー不足を補う並列接続のように見えますが、冗長運転は一部が故障した場合に他でパワーが賄える容量を確保するものです。なお、[A]では2台づつ並列運転させていますが、通常の(定電圧)電源を直接的に並列接続することはできません。並列にする場合は電流バランス制御が必要となり専用の端子(CB)を備えた電源が必要です。

なお、話がやや逸れますが、出力電圧の精度を増す目的でリモートセンシングする例を見受けますが、リモートセンシングは負帰還のループを外部に引き出すことになるので、制御の安定性はかえって損なわれる可能性があります。

   
図13:冗長運転

出典:コーセル株式会社 

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